222話 酒に弱いSランク
「今後ともご贔屓に。」
店員はにこやかに微笑みながら手を振る。
高級店である自分の店で大量に奴隷を購入した櫓を上客と判断したのだろう。
「機会があればな。」
そう言い残して奴隷商店を後にする。
当面奴隷を購入する予定も無ければ、パーティーの資金も結構減ってしまった。
あまり奴隷にばかり使ってしまうと他の買い物が出来無くなってしまうので計画的に使わなければならない。
「ご主人様、これからどちらに向かわれるのですか?」
直ぐ後ろを歩くカナタが代表して尋ねてくる。
実力的には十人の中で一番高いだろうし、皆も認めている様で実質リーダー的な立ち位置の様だ。
「ちょっと冒険者ギルドに用があってな、付き合ってもらうぞ。」
「分かりました。」
(資金の調達とこいつらの実力も見ておきたいしな。)
依頼を幾らか受けて奴隷達にやらせてみようと思ったのだ。
実力を知っておければ、それを元に護衛で雇う冒険者の実力を決められる。
ついでに依頼達成の報酬も貰えて一石二鳥だ。
「昼近くは空いているから助かるな。」
冒険者ギルドが混む時間帯は朝と夕方だ。
依頼を受ける朝と依頼の報告をする夕方は人で溢れかえって、何十分も待たせられる。
現在は昼前なので受付も酒場も人が少ない。
「ん?」
あまり人の居ない酒場の方に見知った顔を見つける。
獣人のSランク冒険者ハイヌが一人で酒を楽しんでいる。
周りには空になったジョッキや酒瓶が大量に置かれている。
(昼間からよくあんなに呑めるな。・・しかしこれはチャンスか?)
櫓は依頼を受けるよりも暇そうに呑んでいるハイヌに奴隷達の稽古を付けてもらおうかと考えた。
最強の冒険者と言えるSランクと戦える機会など滅多に無い。
きっと依頼をこなすよりも良い経験になるだろう。
だがその前に櫓は受付に用事がある。
「用を済ませてくるから飲み物でも飲んで待っててくれ。」
酒場で注文出来る飲み物は一つ銅貨十枚もしないのでカナタに銀貨を一枚渡す。
「奴隷の私達に宜しいんですか?」
奴隷を購入した時の恒例行事の様になっているが、カナタに驚きながら聞き返される。
奴隷商店では中々恵まれた環境だったが、あくまでも商品の質を下げない様にしていただけだと理解している。
なので買われた後までこう言う扱いを受けるのは予想外だったのだ。
「気にしなくていい、好きな物を飲んでこい。」
それだけ言って受付に向かう。
今迄の傾向だと、しかしとかでもと言ってお金を返そうとしてくるからだ。
これからキツい稽古が待っているので、少しでも英気を養ってもらえれば言う事は無い。
「お待ちしてました、櫓様。」
櫓が受付嬢に話し掛ける前に、気付いて話し掛けてきた。
「一先ず纏まってる分を受け取りに来た。」
いつもやっている魔物の解体依頼の件だ。
鉱山都市ミネスタに着いた日に冒険者ギルドに依頼をしておいたのだ。
五大都市と言うだけあって倉庫や作業員が充実しており、ボックスリングに大量に眠っていた解体前の魔物達をようやく全て売り払えそうである。
しかしその量は膨大で、冒険者やギルドの解体員が交代しながら朝から晩まで作業しているが未だ全然終わっていない。
「はい、未だ半分も解体は終わっていませんが、途中までの素材の買い取り料金になります。依頼料を差し引いてますので、こちらの用紙をご確認下さい。」
ドサリと言う音をたてて大量に金が入った袋と素材の内訳が書かれた紙を受け取る。
膨大な素材の量と買い取り額が書かれていて見る気になれない。
冒険者ギルドが不正する事は無いと言えるので流し見して頷いておく。
「引き続き解体が終わるまで依頼は継続してくれ。」
「分かりました。」
「おや?随分と儲かってるじゃないか。」
受付嬢とやり取りをしているといきなりハイヌに肩を組まれた。
相変わらず気配を感じさせず近付く凄技を平然とやってくる。
密着しているので胸の柔かさと酒の臭いが伝わってくる。
「うっ、離れろ酒臭い。」
肩から手を外して押しやる。
酒があまり好きでは無い櫓からすると耐え難い臭いだ。
「酷いね、まあいいや。暇なら一緒に呑まないかい?」
あれだけ飲んでいても足りない様だ。
ドワーフと呑み比べで勝つくらいなのだから相当酒に強いのだろう、酔っている様子は全く無い。
「俺は暇じゃ無い。逆にハイヌの方はずっと酒を呑んでいて暇なんだろ?少し付き合わないか?」
「別にいいけど、依頼かい?」
「いや、俺の連れている奴隷達に稽古を付けてほしくてな。Sランクの冒険者と戦える機会なんて先ず無いし。」
「稽古?それは面倒だからパスするよ。私は酒を呑むので忙しいからね。」
ハイヌは乗り気では無いらしく酒場に戻っていく。
「残念だな、引き受けてくれたらこの酒を渡したんだが。」
ボックスリングから一つの酒瓶を取り出した瞬間に櫓の手元から消えた。
「こ、これは妖霊酒!エルフの里で作られると言われる幻の酒!」
早技で奪い取った酒瓶を見て興奮している。
ティアーナの森を訪れた際に人間の国では手に入らないから買っておけとメリーに言われて、幾らか購入しておいたのだが、酒通のハイヌには分かるらしい。
櫓がハイヌに手を向けてボックスリングを使用すると、酒瓶は別空間に仕舞われる。
「な!?何するのさ、返しなよ!」
「引き受けたら渡すと言ったんだ、どうする?」
ハイヌの返答は勿論了承で、取り引きは成立した。
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