217話 噂の貴族
「あーあ、やっちまったな。テトルポート伯爵家の騎士だと言っていたのに。」
遠目で見ていたゴッツが頭を抱えながら近付いて来る。
「先に手を出してきたのはこいつだ。悪く言われる覚えはないぞ。」
倒れて動かない騎士を指差して言う。
「そういう事を言っても通用しないのが貴族って奴だ。」
平民に手を出されて黙っていられる貴族は少ない。
更に黒い噂が多いテトルポート伯爵家ともなれば、何をしてくるか分からない。
「まあ後悔はしてないからいい、それよりさっきの続きだ。」
櫓は助け起こした一般人の男に話し掛けながら出店の中に戻る。
「おいおい、まだ続けるのか?騎士を倒した櫓が居たら、また絡まれるかもしれないぞ?」
ゴッツはこの件が直ぐにテトルポート伯爵家に伝わって、追加の騎士を送られてくるのではないかと心配している。
「その時はその時だ。ほら、宿に入る最後の客なんだから、案内して宿を手伝ってきたらどうだ。」
そう言って劣化ボックスリングの最後の購入者をゴッツに押し付ける。
宿の方はゴッツの妻であるマイヤが一人で対応している。
宿の全部屋が埋まる程の人数が押し寄せているのだ、一人で対応するのも限界があるだろう。
ゴッツを半ば無理矢理追いやって少しした後、櫓に向けて遠くから火球が撃ち込まれて、出店が粉々に吹き飛んだ。
大通りで行き交う人々は突然の爆発に悲鳴を上げながら逃げ惑っている。
「やれやれ、幾つか殺気を感じたから早く逃しておいて正解だったな。それにしても大通りで魔法まで使ってくるとは。」
騎士を倒した少し後に、自分に向けられた殺気を櫓は気付いていた。
ゴッツや購入者が自分の近くに居ると巻き添えを受けてしまうだろうと思って、遠ざけておいたのだ。
櫓は全身を魔装していたので、傷一つ負っていない。
火球が飛んできた方向から新たに騎士が四人きて、櫓を取り囲む様に包囲している。
全員が先程倒した鎧の男と同じ家紋を付けていた。
「テトルポート伯爵家への反逆者め、覚悟しろ。」
「騎士に平民を取り囲ませて、貴族ってのは暇なのか?」
四人は櫓の問いには答えず、攻撃してこようとしたが、その剣は櫓に届かなかった。
騎士達の身体を全て水球が覆い空中に浮いている。
息だけは出来る様に顔の部分だけは出ているが、四肢は全て水の中だ。
水球から出ようと剣を振ってもがいているが、剣は水の中を行き来するだけで、水球の形はそのままだ。
「ご主人案内終わった・・・。」
宿への道案内を終わらせたミズナが戻ってきたのだ。
騎士達については、自分の主人に敵対している様だったので、報告のついでに取り敢えず動きを封じただけである。
「お疲れさん、こっちは今面倒事に巻き込まれててな。後は自由にしていいぞ。」
「面倒事早く終わらせる・・・。」
ミズナは櫓のボックスリングの中から一仕事終えたのでおやつを貰おうと思っていた。
なので早く邪魔者を排除したいと考える。
「それには賛成なんだが、そう簡単にもいかないらしい。」
櫓は騎士達の更に奥を見る。
其処には豪華な馬車が置かれていた。
その扉が開き一人の女性が降りてきて、櫓達の方に向けて歩いて来ている。
自然と通行人達は退けて道を開け、跪いている者までいる。
「平民が随分と私に逆らってくれましたわね?」
櫓の方を見ながら開口一番そう言い放ってくる。
二十代前半くらいの見た目で、美しい女性だ。
先程の騎士達と同じ家紋を付けた服を着ており、周りに騎士を従えているところを見るとテトルポート伯爵なのだろうと予想が付く。
「逆らってほしくないなら、部下の躾はしっかりしておいた方がいいぞ。」
櫓の言葉にテトルポート伯爵がピクリと眉を動かす。
明らかに今の言葉にイラついた様だ。
「貴重な魔法道具を複数持ち、少し強いからと言って調子に乗っている様ですわね。」
周りに居る騎士達が全員剣を抜いて構える。
それに対してミズナも、櫓を守ろうと前に出ようとする。
「ミズナ、少し気になる事がある。やり過ぎない様にしてくれ。」
櫓はミズナに小声で言う。
ミズナはこくりと頷いて了承してくれた。
櫓が気になったのはテトルポート伯爵のスキル欄だ。
出会って直ぐに調査の魔眼を発動して視ていたのだで、気付く事が出来た。
名前 ミーシャ・テトルポート
種族 人間
年齢 二十一歳
スキル 操り人形
状態 平常
この操り人形と言うスキルを見るのが初めてだったので、ついでにスキルの説明も視てみた。
操り人形 このスキルを所持している者は、傀儡子のスキルを所持している者に操られる。
操られて行った行動は、全て自分で考えて行動した事だと錯覚させられてしまう。
櫓はスキル欄にある操り人形のスキルを見て、テトルポート伯爵が誰かに操られて現在の行動をしているのではないかと思った。
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