212話 いきなりの襲撃
魔物の解体や素材の買い取りをお願いし終えた二人は、倉庫から冒険者ギルドに向かって歩いていた。
用事は終わったので宿に帰ろうと思っていると、入り口の扉が勢いよく開かれネオンが入ってきた。
「櫓様!」
入り口から櫓の名前を呼びながら急いで向かって来るネオン。
その様子は明らかに普段とは異なっていた。
「何があった?」
「建物が襲われました、迎撃はしましたが一応来ていただけますか?」
周りには冒険者も大勢居るので小声で耳打ちして状況を伝える。
「分かった、直ぐに向かうぞ。」
それだけを返して直ぐに冒険者ギルドから出て、大通りに行き交う人達の間を縫う様にドランの家に向かって走る。
「なんでハイヌまで付いて来るんだ?」
チラッと後ろを見ると櫓とネオンの後ろを離れない様にハイヌも走って付いて来ている。
「面白そうだから私も混ぜなよ。それに戦いになったら戦力になれるだろ?」
既に襲って来た者達は返り討ちにしている様だが、直ぐに又襲ってこないとも限らない。
Sランク冒険者のハイヌが居てくれれば、子供達に危険が及ぶ事は無いだろう。
「はあ、仕方ない。」
「櫓様、此方の方は?」
ネオンはハイヌと出会った事が無かったので尋ねる。
「ハイヌと言う、俺の知り合いの冒険者だ。」
「同じ獣人同士よろしくね。」
「ネオンです、此方こそよろしくお願いします。」
呑気に挨拶を交わしているが、三人の走る速度は全く落ちていなく、もう直ぐ到着するところだ。
「それでどう言う状況だったんだ?」
櫓はネオンに襲われた経緯について質問する。
「最初に交戦したのは、庭で子供達に剣術を教えていたリュンさんでした。いきなり複数の人間が庭に入ってきて武器を振りかざしてきたそうです。」
リュンは子供達に危険が及ばない様に守りながら戦い、その戦闘音を聞き付けて中に居たネオンとシルヴィーも合流、三人で撃退して被害は出さなかったらしい。
人数は多かったのだが相手は大して強くも無かったので、金目当てで雇われたチンピラだろうとの事だ。
「何か雇い主とかの情報は聞き出せたのか?」
「私が櫓様に伝える間にしてくれるらしいですよ、丁度していますね。」
ドランの建物が見えてきて、庭にはシルヴィーとリュンの他に大勢の縄で縛られた者達が居た。
二人も走って来る櫓達に気が付いた様だ。
「早かったな。」
「多少拷問はしましたが情報は出ませんでしたわ。雇い主は仮面を付けており、誰も素顔を見ていないのだとか。」
チンピラの何人かは拷問にあった為、切り傷や打撲が他の者よりも多く、更にチンピラ達はシルヴィーとリュンに恐怖を抱いている者が殆どだった。
余程拷問をしている時の二人が怖かったのだろう。
「そうか、だが昨日の今日だしゴッツの話が気になるな。」
ドランが元気になって目を覚ましたと言う事が知られてしまい、テトルポート伯爵家が動いた可能性がある。
「ところで其方の方は誰なんだ?」
リュンは櫓とネオンが連れて来たハイヌに目をやる。
シルヴィーも気になっていた様である。
「私はハイヌ、櫓の知り合いの冒険者さ。」
「そうだったか、私はリュン・ルミナールだ。随分と強い助っ人を連れて来たのだな。」
「同感ですわ、是非今度手合わせを願いたいですわね。申し遅れました、私の事はシルヴィーと呼んで下さい。」
ネオンと違って一目見ただけでハイヌの強さをある程度感じたらしい。
この辺りが未だネオンの実力不足と言わざるをえないのだが、他の誰よりも戦いを学ぶスタートが遅かったので仕方が無い事だ。
「取り敢えず中で話してきたい、シルヴィーとリュンはそのまま見張りを頼んでもいいか?」
尋ねながら威圧のスキルを発動させて、チンピラ全員を気絶させる。
騒がれると面倒であるし、この方が二人も楽だろう。
「分かりましたわ。」
「任せておけ。」
この場は二人に任せて裏手に回る。
裏手の入り口で見張りをしていた子供達は櫓を見ると明らかに安心した様な顔をしていた。
「随分と信用されている様だね。」
ハイヌは来るのが初めてだったので、多少警戒されていたが櫓に対する反応を見て子供達に懐かれているのがよく分かった。
「助けた恩を感じてくれてるんだろう。」
最初に子供達に食べ物を与えて空腹から救ったのは櫓だ。
全員がドラン同様一番信用しているのは櫓だった。
「おっと。」
子供達が居る二階の扉を開くと、直ぐにチサがタックルする様に抱き付いて来た。
「ううう、ぐすん。」
直ぐにシルヴィー達が倒してくれたとはいえ、大勢の大人達が襲って来た事は怖かったのだろう。
部屋を見回すと小さな子達は震えている者も多い。
ネオンに目配せしてやると皆を安心させる為、笑顔で近付いて行ったので任せておけば大丈夫だろう。
「悪かったな怖い思いをさせて、もう大丈夫だ。」
チサを抱き上げてあやしながら、ネオン同様子供達の相手をしていたドランに歩み寄った。
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