211話 ランクアップ不可
「依頼を終わらせて来たよ。」
ハイヌは領主からの依頼の達成報告を受付嬢にしている。
「お疲れ様です、お二人共ご無事で何よりです。」
「早速だけどミスリルゴーレムは全部で十体倒したよ、私と櫓で半分ずつね。」
交互に倒したので同じ数を倒した事になる。
「え?櫓さんもミスリルゴーレムを五体も倒されたのですか!?」
受付嬢はAランクの魔物を五体も倒した櫓に驚いている。
これはBランクの冒険者が出来る事では無く、Aランクの冒険者でも単独で達成出来る者はそう多く無いだろう。
「そうだよ、今はBランクだけどAランク帯の実力は間違い無くあるね。」
ハイヌは自分が思った通りの事を口にする。
「成る程、今回の依頼はポイントも相当貰えますから、ランクアップしそうですね。」
依頼書の難易度に応じて、依頼を達成した後ギルドカードにポイントが与えられる。
そのポイントを増やしていくとランクが上がっていくのだ。
「良かったじゃないか櫓。ああ、それと危険そうな魔物もついでに幾らか間引いておいたから。」
ミスリルゴーレム以外にAランクの魔物は居なかったが、BランクやCランクの魔物は結構な数が居た。
鉱山は戦闘よりも採掘目的の者の方が多いので、狩り過ぎて悪いという事は無い。
「助かります、では確認しますので少々お待ち下さい。」
冒険者ギルドには依頼をしっかり達成してきたか、判断する為の魔法道具が置かれている。
この魔法道具は近い過去を見る事が出来て、依頼報告での虚偽をある程度調べる事が出来る。
Sランクのハイヌであってもその対象には当て嵌まる。
「確認出来ました、ギルドカードを提出して下さい。」
受付嬢は二人のギルドカードを受け取ると今回の依頼のポイントを加算する。
ハイヌはこれ以上ランクが上がら無いので意味はあまり無いが、実際としてはギルドカードに残る。
「ランクはBのままだな。」
櫓は返されたギルドカードを見て何気なく呟く。
「なに!どういう事だ、なんで上がってないんだよ!?」
ハイヌは今回の依頼で間違い無く櫓がAランクに上がるだろうと思っていただけに納得出来無かった。
「お、落ち着いて下さいハイヌさん。確かに櫓さんはAランクと言える実力を所持しています。」
今にも実力行使に出そうなハイヌに少し焦る受付嬢。
「じゃあなんでさ?」
Aランクだと認めてはいる様なので、一先ず落ち着いて話を聞く事にする。
「護衛依頼を全く受けられていないからです。Aランクに上がる条件はポイントだけで無く、高ランクの護衛依頼での実績も必要ですから。」
Bランクまではランクアップ試験もある事から、どんな依頼で稼いだポイントでも上がっていける。
しかし受付嬢が言った通り、BからA、そしてAからSに上がる為には高ランク護衛依頼の実績が必須である。
理由は冒険者ギルドから出される依頼の中で護衛依頼は最も難易度が高い為だ。
ただ目の前の魔物を倒せばいいという訳では無く、どんな敵が現れようと最後まで非戦闘要員を守り通さなくてはならない。
自分だけで無く、他人の状況もよく考えて行動する事が要求される護衛依頼は、必然と難易度が高いのだ。
そして高ランクの依頼となると護衛依頼が増えて来る。
実績の無い者をAランクにしてしまえば、依頼主の死亡率が上がってしまう為、ギルドも慎重にならざるをえない。
「え?受けた事無いのかい?」
ハイヌも受付嬢が言った事は当然知っており、櫓が護衛依頼を受けた事が無い事に驚いていた。
これだけ強い冒険者なのだから、高難度の護衛依頼の一つや二つ簡単にこなしていると思っていたのだ。
「そう言われると無いな。依頼自体進んで受けてた訳でも無いし。」
前にエルフの姫であるフェリンをティアーナの森まで護衛した事はあったが、それは冒険者ギルドからの依頼では無いので含まれない。
そもそも櫓の目的は冒険者ギルドからの依頼をこなす事では無く、魔王との戦闘そして邪神の情報収集だ。
積極的に面倒な護衛依頼を受ける必要は無い。
「それなら今度一緒に受けるかい?先輩として教えてあげるよ?」
「そうだな、機会が有れば頼むとするか。」
あまり進んでやりたいとは思わないが、Aランクと言う肩書きは便利である事も間違い無い。
高ランクの冒険者である程、魔王等の情報が舞い込んでくる可能性は増える。
冒険者ギルドもわざわざ人類の天敵である魔王に低ランクの冒険者をぶつける様な真似はしない。
その分面倒な依頼や恥ずかしい二つ名等を受ける事にもなるのだが、そこは目を瞑る事にした。
「一先ず今回倒したミスリルゴーレムの買い取りを頼もうか。」
「お持ちでしたか、それでは倉庫の方に行きましょう。」
三人は冒険者ギルドの裏手にある、解体や素材を保管する倉庫にやってくる。
櫓はボックスリングの中からミスリルゴーレムを十体と今回倒した他の魔物も出していく。
「まさか全部持ってこられたとは、相当高価な魔法道具みたいですね。」
空間魔法が付加された魔法道具だとは気が付いていた様だが、収納数の多さに驚いている。
恒例ではあるがこれだけの数を直ぐに買い取るのは難しいので、後日また来て欲しいと言われた。
「では今日は解散にするか。」
二人は受付嬢を残して倉庫を後にする。
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