210話 稽古の成果
「おお、やるじゃないか櫓。上出来上出来。」
ハイヌは拍手しながら近付いて来る。
「上出来なのか?一撃では倒せなかったぞ?」
ハイヌのレベルにはまだまだ遠い。
櫓の超速の居合い抜きもスピードでは負けており、威力も全力を出したがハイヌには届いていないだろう。
「出来てたら殆どSランク認定してあげられるレベルだからね。残念だけど未だ足りなかったってことさ。」
「は?Sランク?」
櫓は聞き間違いかと思ってハイヌに聞き返した。
「そりゃAランクの中でも防御力に特化しているミスリルゴーレムを、一撃で仕留めるレベルならSランク並の実力はあるさ。Aランク帯なら相性もあるけど十分は掛かる相手だと思うよ?」
その言葉を聞いて納得する。
冒険者のランクは、同じランク帯の魔物の中でも一番弱い魔物を単独で倒せるだろうと認められて、そのランクに昇格出来る。
冒険者が最初にFランクから始まるのは、Fランクの魔物の中でも最弱のスライムを単独で倒せるか見極められているからである。
それすら倒せない冒険者は、Fランク帯の底辺から抜け出せる事は出来無いのだ。
なのでAランク帯の魔物の中でも防御力で頭一つ抜けているミスリルゴーレムを一撃で倒すと言う事は、冒険者の実力がAランク帯の中でもダントツ、又はSランク帯の実力があると言えるのだ。
「つまり未だ化け物達とは肩を並べていないと言う事か。」
喜んでいいのか悲しんでいいのか微妙なところだ。
これからの戦いの事を考えるならば強ければ強い程いいに決まっているのだが、畏怖や恐怖の対象になるかもしれない。
だが肝心なところで力が足りないと後悔したくはないので、強くならないと言う選択肢は存在しない。
「私達と並べる日も近いと思うけどね。今でもAランクの冒険者の中じゃ誰も櫓に敵わないんじゃないかな?」
櫓達のパーティーである雷の剣は全員がAランク帯の実力者である。
だが本気を出した櫓にはハイヌの言う通り誰も敵わないだろう。
「そんなに強くなっていたのか。自分では気付かなかったな。」
「前に会った時とは比べ物にならないね。いい師匠とでも巡り会ったんじゃないのかい?」
それを聞いて真っ先に思い浮かんだのはエルフ達が住むティアーナの森の村長だ。
圧倒的な戦闘力を持つ村長に長い間稽古を付けてもらったので、相当強くなれたのだろう。
今思えば村長もAランク帯である櫓達を軽々とあしらっていたので、Sランク帯の実力があったのは間違いない。
「確かに冒険者登録をしていないが、ハイヌの様な達人に扱かれたからな。それで強くなれたんだろう。」
「へぇ、そんな人がいるんだね。是非私も手合わせ願いたいな。」
ハイヌは村長に興味を示した様だ。
「機会があったらな。」
合わせてやると簡単には言えない。
鉱山都市ミネスタから場所は近いが、ハイヌをエルフ達の元に簡単に連れて行く事は出来無い。
ハイヌがエルフを奴隷として捕まえ出したら案内した櫓の問題になる。
良好な関係を築けているのに壊すリスクを冒すのは危険だ。
「その時は頼むよ。じゃあ次の階に行こうか、もうこの階層にはいない様だしね。」
六階層から上の探索を開始する。
階層を上がる毎に人の手が加わったところが少なくなって行き、探索範囲も狭くなって来るのでスムーズに上がっていける。
魔物の強さもそれに比例して上がって行くのだが、SランクとAランクトップクラスの二人に掛かれば、どんな魔物も障害になら無い。
十階層まで登ったがミスリルゴーレム以外にAランク帯の魔物は居らず、手間取る事も無かった。
最後までハイヌはミスリルゴーレムを全て一撃で斬り捨てていき、櫓も全力で挑んだが一体も一撃で倒す事は出来無かった。
「これで終わりだね。」
ハイヌの前で一体のミスリルゴーレムが地面に崩れ落ちる。
十階層を探索して見つけた最後のミスリルゴーレムだ。
「なら依頼は終了だな。」
櫓はボックスリングに仕舞いながら言う。
「一応この階段を上がれば十一階層に行けるけどどうする?」
ハイヌが上に上がる階段を指差して言う。
魔物の行き来もあるのだろう、人間では無い足跡や重みで崩れている部分もある。
「今日は止めておこう。パーティーメンバー達と潜る可能性もあるから取っておく。」
暫くは滞在する予定なので、依頼を受けて鉱山に潜る可能性も有る。
櫓も含めて戦闘狂が多いので、先に一人だけ行ってしまうと文句を言われるかもしれないのだ。
「ほほお、その時は是非私も誘って欲しいものだね。」
「ハイヌが居たら散歩になるだろ。」
今日出会った魔物は全て一撃で倒しており、八時間程鉱山に潜り続けているのだが疲れ一つ見えない。
そこらに居る魔物では脅威となる状況が想像出来無いのだ。
「手は出さ無いよ、櫓の仲間にも興味があるしね。」
「考えておく。」
そう言ったが戦闘狂ばかりのパーティーなので、Sランクのハイヌと会えば喜ぶ者の方が多いだろうと、一度は皆で依頼を受けたいなと櫓は考えていた。
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