207話 トップランク帯
「ちょっといいかい?」
知り合いの受付嬢なのかハイヌは気軽に話し掛けている。
「ハイヌさん、どうされましたか?」
「先程受けた依頼なんだけど、もう一人連れて行っても構わないかい?」
そう言って隣に居る櫓を指差す。
「失礼ですが冒険者ランクをお聞きしてもよろしいですか?」
「Bランクだ、ハイヌが受けた依頼の適正ランクには満たないな。」
櫓としては急に誘われた依頼を受けさせてもらわなくても構わないので、前もって断っておく。
「あの、Bランクの冒険者では厳しいかと思われますが・・。」
受付嬢が遠慮気味にハイヌに言っている。
冒険者のランクはある程度の強さの基準を表している。
Aランクのモンスターを複数相手に戦う依頼に対して、そのランクよりも一つ低いBランクでは力不足と思われても仕方ないだろう。
「まあまあ、Aランクでは無いけどそのランク帯の実力は間違い無くあるから問題ないさ。」
ハイヌと直接戦った事は無いが、ある程度の実力は見ただけでバレているらしい。
「うーん、ハイヌさんがそう言われるのでしたら。ですが自己責任でお願いしますね?」
一応受付嬢は止めたので何があっても冒険者ギルド側の責任にしないでくれと言っているのだ。
「そこは大丈夫さ、責任を押し付ける様な真似はしないよ。」
「それでしたら依頼書の参加人数の更新をしておきますね、冒険者カードの提示をお願いします。」
櫓は自分の冒険者カードを受付嬢に渡す。
素早く処理してくれたので直ぐに終わった。
「一つ質問していいか?」
櫓は受付嬢に向けて言う。
「なんでしょうか?」
「ハイヌってのは凄い冒険者なのか?」
本人に聞いてもはぐらかされるので受付嬢に聞いてみる事にする。
「知らないのですか!?凄いなんてものじゃありませんよ!世界に数人しか存在しない冒険者のトップ、Sランクの冒険者ですよ!」
受付嬢は信じられない者を見たと言わんばかりに早口で興奮気味に説明してくれた。
Sランクの冒険者と言うと冒険者ギルドが定めているランクの一番上である。
だがその枠組みに当てはまる人物は少なく、一つ下のAランク帯と比べても実力差がありすぎる為、冒険者と言うよりは超人や化け物扱いされる。
なのでAランクが実質的に冒険者のトップランク帯と思われている事が多い。
「あっ、勝手に言うんじゃないよ。」
ハイヌは止める間も無く話されてしまい、受付嬢に注意している。
「あっ、すみません!」
受付嬢はやってしまったと口を両手で押さえている。
「なるほど、領主からの依頼や先程の口振りはそう言う事か。何がフリーの用心棒だ、そんな用心棒が居てたまるか。」
Sランクが用心棒になれば文字通り怖いもの無しだ。
前に櫓が敵対した時もハイヌがやる気であれば、あっさりと負けていただろう。
「アハハハ、細かい事はいいじゃないか?」
「なんで隠してたんだ?」
櫓が問い詰めると少し悩んでから観念した様にハイヌが口を開く。
「Sランクと言うと化け物扱いされて皆避けたがるからさ。せっかく面白い奴を見つけたのにそれだとつまらないだろ?」
おもちゃを取り上げられて遊べない子供の様な雰囲気が伝わってくる。
ハイヌにとって櫓は、久しぶりに見つけた楽しそうなおもちゃと言った感じなのだろう。
なのに櫓に自分のランクを知られてしまえば、避けられて遊べなくなると思ったらしい。
なのでSランクと言う事を言わずにはぐらかしてきたのだ。
「他の奴がどうかは知らないが、別に強さで人との関わり方を決めたりはしないから安心しろ。
「・・私がSランクでも気にしないのか?」
ハイヌは驚いた様に櫓の事を見ている。
今迄ハイヌが関わってきた者達からは、多少なりとも畏怖や恐怖と言った感情のある反応だったのに、櫓の反応は全く違って何もそう言った負の感情が感じられ無い。
「そう言ってるだろ、別に命を狙われてる訳でもないんだしな。」
むしろSランクと言う自分以上の強者との繋がりは有り難いとすら感じていた。
「そうかそうか、櫓は良い奴だな!心配して損したじゃないか!」
ハイヌは気に入った櫓に拒絶されないと分かって安心し、嬉しそうに抱き付いてきた。
固いアーマー系の防具を付けていないので、ハイヌの豊満な胸が抱き付いた事により形を変えて、櫓の身体にその柔らかな感触が伝わる。
「っ!?抱き付くな離れろ!」
櫓は柔らかい胸にドキッとしながらも、抱き付いてくるハイヌを突き放す。
「おやおや、うぶな反応だね。」
「揶揄うな、手続きが済んだんだからさっさと行くぞ。」
櫓は先程の恥ずかしさで赤く火照った顔を隠す様に冒険者ギルドの入り口に向けて歩いて行く。
「そんな慌てなくても敵は逃げないよ。」
ハイヌはクスクスと笑いながらその後を追い掛けた。
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