204話 最強獣人との再会
「これだけか?もう酒はねえのか?」
ドランは三本の瓶を空けたと言うのに未だ足りないらしい。
一応ボックスリングの中には在庫が大量にあるが、高価な酒も多いので簡単に飲み干されるのは勿体無い。
「これ以上呑みたいならば酒場に行くぞ。」
酒場ならばボックスリングに入っている酒よりも安い物が大量に置いてあるだろう。
そこで気が済むまで呑ませれば、高価な酒を出さずに済む。
「金は持ってねえぞ?」
「今回だけは奢ってやるよ。それ以降は自分で何とかしてくれ。」
櫓はドランを連れて建物を後にする。
チサや子供達の何人かは付いて来たがったが、流石に酒場に連れては行けないので、ネオンやリュンに見てもらう事にした。
「おっ!ちょっと待ってくれ。」
ドランは大通りにある一つの武器屋に入って行った。
店主はドランと同じドワーフで、何やら話している。
遠目からでも分かるが知り合いなのだろう、ドランの元通りになった腕を見て驚いている。
「待たせたな。」
「何をしてたんだ?」
「武具を作る為の素材を少し流してくれねえかと頼んだんだ。知り合いには後払いでも貸してくれる奴が何人かいるからな。」
売る物が無ければ金を稼ぐ事も出来無い。
ドランは子供達を食わせる為にも、櫓に恩を返す為にも金が必要になる。
その金を稼ぐ為の下準備は早い方がいい。
「用が済んだなら、何処の酒場がいいとかあるか?」
「呑めれば場所はどうでもいい。」
ドランに店の拘りは特に無いらしいので、大通りにある適当な酒場を選んで入る。
大通りにあるだけあって中々繁盛している様で人の出入りも多く、酒好きのドワーフも店内には多かった。
「これだこれ、この酒の匂いが堪らねえな。」
店内に入ったドランは中に漂っている酒の匂いに興奮している。
櫓には唯の酒臭い場所としか感じないが、酒好きにとっては天国なのだろう。
「なんだいもう終わりかい?酒好きのドワーフが聞いて呆れるね。」
櫓とドランが居る入り口から離れたカウンター席からそんな声が聞こえてきた。
フードを被っていて顔は見えないが、声から女性だと判断出来る。
その方向を見ると一人のドワーフが酒に酔い潰れてカウンターに突っ伏している。
そして席の周りの床にもドワーフや屈強そうな人間が数人酔い潰れて倒れていた。
「他に挑戦者はいないのかい?女に呑み比べで勝てないとは情け無いね。」
挑発されても店内に居る者の誰も手を挙げたりはしなかった。
先程まで挑んだ者達を既に見ているからだろう。
酒好きのドワーフを複数人呑み比べで相手に出来るのは異常だ。
「誰も参加しないなら俺がやるぞ!」
櫓の隣に立っていたドランが威勢良く手を挙げた。
そうなるのではと予想はしていたが、奢ると言った手前溜め息を吐いて見守る事にする。
「お?少しは持ち堪えてほしいね。」
喋っていた女性は声を発したドランの方を見た。
正面から見た事により女性の顔が見えた。
「な!?あんたは・・。」
櫓はその女性に会った事があった。
種族は犬の獣人で名前はハイヌ。
魔法都市マギカルを目指す途中で立ち寄った希望の光と出会った街、その領主の屋敷で用心棒として雇われていた者だ。
「おや?久しぶりじゃないか!確か櫓と言ったね?」
ハイヌは櫓の事をしっかりと覚えており、櫓と分かるとお得意の速さで一瞬で近付き肩を組んできた。
「うっ、酒臭い離れろ。」
何人もの酒好き達を酔い潰れさせてきたのだ、相当酒を呑んでいるのだろう。
鼻を摘んでもキツい程の酒の臭いが間近で漂う。
「久しぶりに会ったと言うのにつれないね。」
「なんだ?お前達知り合いなのか?」
ドランは二人の事を知らないので関係性が分からない。
「ちょっと前に色々とな。あまり良い印象は無いが。」
ハイヌの実力は未知数だ。
前は敵対していた状態から気に入ったと言う理由だけで見逃してもらえたが、完全に信用する事は出来無い。
何があるかは分からないので警戒しておいて損はない。
「私はまた会えるのを楽しみにしていたけどね。あんたと居ると退屈しなそうだ。」
「だが今回の相手は俺では無いぞ。呑み比べを申し込んだのは、隣に居るドランだ。」
肩を組んでくるハイヌの手を退けて、横に居るドワーフを指差しながら言う櫓。
「おっとそうだったね、早速呑もうじゃないかドランさん。」
「小娘には負けられねえな。」
ドランはハイヌの後に続いて歩いて行きカウンター席に座った。
二人は次々と酒を注文していき、全く酔い潰れる様子も無く、楽しく談笑している。
「獣人でドワーフのわしと張り合えるとは面白い。」
「今迄のドワーフ達とは違う様だね。呑みごたえのある相手は大歓迎さ。」
注文された酒はあっという間に呑み干され、空瓶が次々と出来上がっていく状態だ。
しかし際限無く増える空瓶に手持ちが心許無くなり、無理矢理二人の注文に待ったを掛けて、呑み比べの対決は引き分けで終わった。
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