203話 期待のスキル
「ドラン爺ちゃん!」
その声に反応してチサがベッドに飛び込む。
「ぐおっ、怪我人には優しくしろチサ。」
ドランは自分の上に飛び乗って来たチサに反応して、身体を少し起こそうとした時に違和感に気付く。
「わ、わしの腕が元通りに!?夢でも見ているのか・・。」
「夢じゃ無いですよドランさん。」
カルトがドランに歩み寄りながら言う。
先程櫓が使用したポーションによってドランの腕が元通りになっていくところを自分の目で見ていたが、カルト自身信じられない様な気持ちだった。
ドランの腕が斬られた後に元に戻す事が出来無いのかと色々な手段を試してはいたのだ。
しかしどんなポーションや回復魔法を試してもドランの腕を治す事は出来無かった。
なので自分の恩人の腕が治った事が夢の様であり、自分の事に様に嬉しくなっていた。
「カルトか、これはどう言う・・。」
ドランが理由を聞こうとカルトの方を見ると、その後ろに立っていた櫓に気が付く。
「お兄ちゃんが治してくれたんだよ!」
チサが櫓の方を指差しながら笑顔で言う。
カルトもそれに頷きながら肯定する。
「お前がわしの腕を・・。どんな魔法を使ったんだ?」
「魔法では無くポーションだけどな。万能薬と言う部位欠損も治す事が出来るポーションを使った。」
万能薬が入っていた空になった容器を振りながら言う。
「そんな物があったとは知らなかったな。それと腕を元通りにしてくれた事は本当に感謝している。お前の名前を聞いてもいいか?」
ドランは深々と櫓に対して頭を下げる。
「櫓だ、成り行きだから気にしないでくれ。」
この建物に訪れた事も子供達に食べ物も分け与えた事もドランを助けた事も全ては偶然の成り行きだ。
「いや、わしは恩にはしっかり報いる性格だ。また鍛治師として生きれる様にしてくれたんだ、最大限の礼を尽くそう。」
ドランの言葉を聞いて、先程気にするなと言っていたがかなり期待してしまった。
その理由はドランの永眠の状態に気付いた時に使った調査の魔眼で、ドランの所持しているスキルを見たからだ。
ドランのスキルの欄には、鍛治の名人、精錬、能力付加と言う鍛治師の為のスキルと言える物が揃っていた。
そしてカルトからドランの事について聞いた時に、腕を斬られる原因となってしまったが、貴族に目を付けられる程の武具を作成する事が出来ると言う実力。
更に自分の持っているスキルである錬金術の名人と同じ、名前に名人と入っている鍛治の名人。
錬金術の名人のスキルがどれだけ凄い物なのかと言うのは、この世界に来てからずっと使い続けているので自分が一番よく理解している。
なのでドランの作る武具ならば、女神カタリナから貰った霊刀を超えるのではと期待してしまう。
「それは有り難いが先ずは飯だろ?万能薬を使ったとは言え空腹が満たされた訳じゃ無いだろ?」
「そう言われると腹が減ったな。」
櫓に言われるまで腕が治った喜びで気付かなかったらしい。
櫓はドランのベッドの傍に小さな机を取り出して、その上にパンやスープ等を並べて行く。
「取り敢えずこれで空腹でも満たしてくれ、話はそれからだ。」
「お前達腹は減ってねえか?」
ドランは直ぐには手を付けずにカルトやチサに聞いている。
自分がどれだけ寝ていたかは分かっていないが、自分で作った武具や建物内にある金目な物は殆ど売り払ってしまい金は残っていなかったので、寝ている間に子供達が食べる分の食料を手に入れられたのではと心配しているのだ。
「食べ物はお兄ちゃんに沢山貰ったよ!」
「ドランさんもお礼がしたいなら、先ずは頂いた方がいいですよ。」
「そうか、借りが増えちまうな。」
ドランは二人に言われて食べ物に手を付ける。
それなりの量を出したのだがあっという間にドランの胃袋の中に消えていった。
「櫓と言ったか?借りは纏めて返すからもう一つ出しちゃくれねえか?」
「足りなかったか?パンなら未だ沢山あるが。」
直ぐに食料を食べ終わってしまったので、追加でボックスリングから出そうと思ったがドランは首を横に振っている。
「いや、パンじゃなく酒だ。酒を呑まないと調子が出ねえんだ。」
「一応病み上がりみたいなものだぞ?いきなり酒なんて呑んで大丈夫か?」
万能薬で治したとは言え、永眠の他にも飢餓や衰弱等の状態異常だった。
治って直ぐに酒を呑んでは身体に悪いのではと思ってしまった。
「馬鹿言うな、ドワーフにとっちゃ酒は水だ。」
「そう言うものか。」
ドワーフが酒好きと言うのはゲームやアニメの知識で知っていたが、病み上がりでも呑む程とは思わなかった。
こちらの世界では十六になれば酒を呑む事は出来るので、十八歳の櫓は酒を呑む事が出来るのだが、あまり進んで呑む程では無い。
しかし酒と言うのは交渉や打ち上げ等使う機会が多いので、ボックスリングの中にはそれなりの量が入っている。
「エールだが文句は言うなよ。」
安価で買える庶民向けの一般的な酒であるエールの入った瓶を三本とジョッキを取り出して机の上に置く。
ドランは瓶を手に取るとジョッキに注がずにラッパ飲みしていく。
三本連続でラッパ飲みして直ぐにエールが無くなってしまい、その飲みっぷりに驚かずにはいられなかった。
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