201話 懐かれやすい
櫓は店で出会ったネオンとリュンを引き連れて、子供達の元に戻った。
購入した槍を取り上げた分も含めて門番をしているレンとダンに渡してやると、とても喜んでくれた。
自作の槍に比べれば遥かに出来が良いので、気に入ってくれた様である。
「早いな、もう無くなったのか。」
一時間程しか外出していなかったのだが、追加の大鍋も含めてコーンスープは全て無くなっていた。
大鍋二つ分で二百人前以上はあったのだが、お腹を空かせた子供達にはそれでも足りなかったらしい。
「はい、おかげで助かりました。」
カルトがそう言って視線を動かしたので同じ方を見ると、腹が空き過ぎて横たわっていた者達が身体を起こしていた。
調査の魔眼で視ると衰弱の者は何名かいるが、状態の欄にあった飢餓の文字は全員消えていた。
衰弱の理由も食べれていない事が理由なのは分かっているので、購入してきたパンを与えれば一先ず安心出来るだろう。
「これは追加だ、喧嘩せず仲良く食えよ。」
櫓はボックスリングから大量にパンが入ったバスケットや袋を幾つか取り出して並べる。
子供達は皆お礼を言いながら群がって美味しそうに食べていた。
「余程お腹を空かせていたんですね。」
「チサも食べてくるといい。」
リュンは抱き抱えていたチサを離して皆の所に向かわせる。
向かっている途中もずっと何かしらチサは食べていたのだが、育ち盛りかまだまだ食べれる様だ。
「あの櫓さん、その方々は?」
カルトは櫓の横に立っているネオンとリュンについて聞いてくる。
「俺の冒険者仲間だ、お前達に危害を加える事は無いから安心してくれ。」
「そうですか、俺はカルトって言います。一応皆の纏め役みたいなものです。」
櫓の事は信用してくれている様で、カルトは二人にも頭を下げながら挨拶をする。
「私はネオンっていいます。それにしてもその歳で立派ですね。」
カルトは年齢のわりに言動がしっかりとしているので大人びて見えるのだ。
これだけの人数を纏められるのもカルトだからだろう。
「私はリュン・ルミナールだ。何か困った事があれば遠慮無く言うといい。」
リュンはそう言って自分の胸を叩く。
何でも解決してやると言った感じで聞こえるが、少なくとも料理が出来無い事を櫓は知っている。
簡単な肉を焼くくらいの事ならば問題無いが、調理器具を使っての料理は無理だ。
なのでリュンの言った言葉の後には、櫓が全部解決してくれるからと言う文章が続くのだが省略されていた。
「よろしくお願いします。食べ物を沢山恵んでもらって感謝しています。」
「そのくらいでしたら私でも稼げますから気にし無いで下さい。」
「それよりカルトも食べてくるといい。私達と話していては無くなってしまうぞ。」
リュンはパンの方にカルトを促す。
カルトもコーンスープを何杯か飲んでいるだろうが、未だ足り無いだろう。
既に櫓が大量に出したパンの半分近くが無くなろうとしていたので、このまま話していてはカルトの食べる分が残らないだろう。
「すみません、では失礼します。」
カルトは子供達の中に混ざって行った。
入れ替わる様に何人かの子供達が櫓達の方に集まってくる。
お腹いっぱい食べられたのか、今度は櫓達に興味を示して来た様だ。
「獣人のお姉さん一緒に遊んで?」
「え、私ですか?」
「だめ?」
女の子達はネオンと遊びたいらしく、周りに集まって手を引っ張っている。
ネオンはどうしようかと櫓に視線を寄越す。
「俺の事は気にしなくていいぞ。」
「分かりました、じゃあ遊びましょうか。」
ネオンが言うと女の子達は嬉しそうに手を引いて部屋を出て行った。
何をして遊ぶのかは分からないが、この部屋は子供達が沢山いるので狭いからだろう。
そしてリュンの元には男の子達が集まっている。
「ねえねえ、その剣本物?」
男の子がリュンの腰に下げている剣を指差して言う。
櫓が錬金術の名人のスキルで作った無色の剣、それがリュンの魔法を覚えて白銀の剣となった物が下がっている。
「ん?これは真剣だ。危険だから触ってはいけないぞ。」
「触らないから抜いて見せてくれよ!」
「ふむ、ここでは手狭で危険だな。外でならばいいだろう。」
リュンは櫓に視線をやってから部屋を出て行く。
男の子達もその後に続いて部屋を出る。
興奮しているのは本物の剣を間近でしっかり見た事が無いからだろう。
「ん?チサどうかしたか?」
先程の子供達の後に一人でとことこと歩いて櫓の下にチサが歩いて来た。
「あのね、ちょっとこっちに来てほしいの。」
チサは小さな手で櫓の手を掴んで引っ張る。
しかし引っ張った先は部屋に入って来た扉では無く、部屋の奥だ。
奥にはもう一つ扉があるのだが、櫓は未だ入っていないので何があるのか分かっていない。
櫓はされるがまま、チサに手を引かれて奥の扉に向かった。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




