199話 幼児にあまい
部屋の中はかなり広く、子供達が沢山居た。
だがその半分程は床に敷かれたシーツ等の上で元気無く横たわっており、もう半分も元気に動き回っている者は一人もいない。
横たわっているのは子供達の中でも歳上の者達ばかりだ。
自分よりも幼い子に食べ物を優先して渡しているので、その分自分達が殆ど食べれていないのだろう。
「此処に居るので殆ど全員です。他には食費を稼ぐ為に出掛けている者が数名います。」
仕事やレンの様に盗む事で此処に居る者達の食べ物を手に入れようとしているのだろう。
「お兄ちゃん誰?」
この部屋の中では一番小さい未だ幼稚園児くらいの女の子が櫓に聞いてくる。
他にも櫓の事を知らない子供達が視線を向けてきている。
「俺は櫓と言う。悪いがちょっと通してくれるか?」
櫓は女の子の頭を撫でてから奥に歩いて行く。
櫓は医者では無いが、横たわっている者達が相当ヤバい事は分かる。
殆どの者が痩せ細っており、触れただけで簡単に骨が折れてしまいそうなほどだ。
調査の魔眼で視ても、状態の欄に衰弱や飢餓と記載されている者ばかりだ。
「さっさと飯を食わせないとまずいな。」
櫓はボックスリングから特大の大鍋を取り出して床に置く。
鍋から出てくる良い匂いが部屋を満たして行く。
いきなり肉料理等を食わせると胃に悪いだろうと思い、飲みやすいコーンスープを選び器によそっていく。
「カルト、動ける奴らに指示を出せ。横になっている奴らに飯を食わせてやるんだ。」
「分かりました、動ける人は櫓さんの言う通りに動いてくれ!」
カルトの事は皆知っているので、言われた通りに動いてくれた。
横になっていた者達もなんとかコーンスープを飲む事が出来ている。
「お兄ちゃん、私もお腹空いた。」
先程の女の子が近くに寄ってきて櫓に言う。
「お代わりはあるからゆっくり飲むんだぞ。他の奴らも飲ませ終わったら自分の分を取りに来い。」
櫓はコーンスープの入った器を女の子に手渡す。
「ありがとう!」
お礼を言ってから美味しそうに飲んでいる。
他の者達も次々と飲み干し、大鍋の中に入っていた大量のコーンスープが凄い勢いで無くなっていく。
「お前も飲むか?」
櫓は器をカルトに差し出す。
「俺はさっきパンを貰ったので大丈夫です。他の子に渡してきます。」
カルトは他の子にあげる為に歩いていった。
カルトはパンを貰ったと言っていたが数個程度である。
腹を空かしていた食べ盛りの子供があの程度で満足出来る訳無いだろう。
(あまり調味料を使った料理を食べさせてしまうと、食の水準を上げてしまってよく無いだろう。やはりパンが無難か。)
櫓はボックスリングの中に入っているパンの在庫を見てみるが、在庫はあまり多くは無い。
(ミズナのおやつとしてあげすぎたか。仕方が無い、調達に行くか。)
櫓は無くなりかけの大鍋の隣に追加の大鍋を取り出して置く。
「カルト、ちょっと出掛けてくるから任せたぞ。」
櫓はカルトにそう言ってから歩き出そうとすると、服が女の子に掴まれた。
「お兄ちゃん何処かに行っちゃうの?」
寂しそうな顔をしながら言う女の子。
出会ってから数十分くらいなのだが、美味しい料理の効果か懐かれたらしい。
「直ぐ戻ってくるから心配無いぞ?」
櫓は女の子の頭を撫でて宥めてやる。
「チサ、我儘を言っちゃだめだろ?」
「うん・・。」
カルトが引き剥がそうとしてくれているが、女の子の悲しそうな表情に櫓は酷く罪悪感を抱いてしまう。
親に甘えたい歳頃の筈だが、この歳でも周りの状況をなんとなく分かって色々我慢しているのだろう。
「気にするなカルト。買い物に行くだけだが、付いて来たいなら一緒に来るか?」
櫓はチサと呼ばれた女の子に手を差し出す。
「うん!」
チサは嬉しそうに櫓の手を掴んできた。
後の事はカルトに任せて、チサを連れて建物を出る。
普通に歩いているだけだがチサはご機嫌だ。
「楽しそうだな?」
「うん、楽しいよ!お外を歩くのは久しぶりだもん!」
チサの言葉を聞いて察した。
カルト達は人攫いや奴隷狩りを警戒して、チサの様な小さな子供を建物の外には連れ出さない様にしているのだろう。
櫓の実力は知っているから信用して任せてもらえたのだ。
「そうか、大通りに出るから逸れないようにな?」
「分かった!」
手を繋いでいるので心配無いとは思うが、久しぶりの外出で舞い上がっているチサに一応注意しておく。
相変わらず人の行き来が激しい大通りを、チサがぶつからないように気を付けて、レンがパンを盗んだ店を目指す。
「未だ結構残っているみたいだな。」
見えてきた店にパンの在庫がある事を確認する。
「いらっしゃ、ってあれ?さっきのお兄さん?」
「わあ!こんなに沢山のパンを見たの初めて!」
チサは無邪気に店に売られているパンを見てはしゃいでいる。
「さっきぶりだな店主。今回は普通に客として買いに来た。」
「そうでしたか、何をお求めでしょうか?」
「今売っているパン全部くれ。」
「ぜ、全部ですか!?」
店主は櫓の予想外の注文に驚いている。
「ああ、これで足りるか?」
櫓は金袋から銀貨をじゃらじゃらと取り出してカウンターに置いて行くと、店主は慌ててパンを袋に詰めてくれた。
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