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うっかり女神に邪神討伐頼まれた  作者: 神楽坂 佑
1章 異世界転生
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198話 パンで説得

門番の子供達は慌てて櫓の手を払い除けて距離を取る。

いきなり目の前から櫓が消えたと思ったら直ぐ背後に現れたのだ。

隣に居たレンも含めて三人共全く櫓の動きに反応出来ず、今の状況に戸惑っている。


「い、いつの間に。」

「俺たちの槍を何処にやった、返せ!」


武器を取り上げられて喚く事しか出来ない二人。

レンより歳上と言っても櫓からすれば未だ子供だ。

予想外の事が起これば即座に対応するのは難しいだろう。


「敵じゃ無いから落ち着け。今の実力差を見れば分かるだろ?その気になればお前達を気絶させて連行するくらい余裕だ。」


櫓は話し合いで解決しないならば、敢えて実力を見せつける事で説得しようとした。


「・・何が目的だ?」


門番のうちの一人が警戒はしつつ櫓に質問する。


「レンから聞いたが腹を空かせてる奴が大勢居るんだろう?食料ならば余りあるだけ持っているから譲ってやろうと思ってな。」


そう言って先程レンに出して見せた様にパンの入ったバスケットをボックスリングから取り出す。

二人はレン同様いきなり手の上に現れたバスケットを見て驚いている。


「お前達も腹を空かせているんだろう?」


そう言って櫓がバスケットを差し出す。

門番の一人が生唾を飲み込む。

そして受け取ろうと手を差し出して来たがもう一人がそれを遮る。


「毒が入っている可能性もある、簡単に受け取るな。」

「疑り深い奴だ、お前達に毒を盛っても俺に得など何も無い。」


櫓はバスケットからパンを一つ掴み、目の前で食べてみせる。

当然毒など入っていない普通の焼き立てのパンなので、ふんわりとした食感とバターの程良い味付けに満足するだけだ。


「もう我慢出来無い!」


櫓が美味しそうにパンを食べているのを見て、門番の一人がバスケットからパンを一つ掴み取り貪る。

相当腹を空かせていたのか涙を流しながら食べている。


「お前も我慢してないで食べろ。」


櫓はもう一人の門番にバスケットを渡す。

毒の警戒をしていたが相方が美味そうにパンを食べ、二つ目を取ろうとしているのを見て、自分もパンに食らいつく。


「レンもずっと食べないで持っているが、そのパン食べて良いんだぞ。他にも食料はあるから。」

「いいの?」


櫓が頷くとレンも腹を満たす為にパンに齧り付く。

この三人の様子では満足に食べれている者は殆どいないだろう。


「食べているところ悪いんだが、門番なら顔も効くだろうし案内して欲しいんだが?」

「俺が案内する、ダンとレンは見張りしていてくれ。」


櫓が言うとパンを食べるのを中断して門番の一人が二人に指示を出す。


「えっと、疑ってすみませんでした。」


頭を下げながら謝ってきた。

言葉遣いも変わったところを見ると、少しは信用してくれたのだろう。


「気にするな、俺みたいなのは警戒して掛かって当然だ。」


無償で食べ物を恵んでやると言う者が目の前に現れれば、何故自分にそうしてくれるのかと先ずは考えるだろう。

特にこの子供達は大人に昔から酷い目に遭わされているのだから、裏があると思ってしまっても仕方が無い。

櫓の様に可哀想だからと言う理由だけで、他人の為に資材を投げ打つ者はこの世界では珍しいのだ。


「名前を聞いてもいいですか?」

「櫓だ、お前は?」

「カルトです。一応皆の纏め役をしています。」

「そうか、纏め役なら話は早い。子供達のところに案内してくれカルト。」

「分かりました、此方です。」


カルトは門を潜り抜けて建物の正面の扉をスルーして庭を歩いて行く。


「この扉から入るんじゃ無いのか?」


櫓は扉を指差しながらカルトに尋ねる。


「それは俺達を連れ去ろうとする大人達が来た時の為の、開けるとトラップが作動するドアです。別の入り口はこっちにあります。」


庭を歩いて門と丁度逆側の裏手に回り込むと裏口用の扉があった。

そこにも二人簡素な槍を持った子供が見張りをしていた。


「この人は俺の客人だ、見張りはそのまま頼むぞ。」


櫓の事を警戒した目で見ていた二人に向けてカルトが言うと頷いて通してくれた。

櫓は通る時に二人にもパンを渡してやると、とても喜んで食べていた。


「何も無いな。」


櫓は建物の中に入って思った事を言う。

裏口から入った場所は正面の扉から入ったエントランスに繋がっており、広々とした空間が広がっている。

他にも部屋が幾つかあり、扉が全部外されているので中まで見えるのだが、見渡す限り椅子や机すらも無い。


「皆の為に家具の類はお金に変えてしまったんです。なので一階には本当に何もありません。」


飢えを凌ぐ為に家具は売って、そのお金で食料を買ったのだ。

だが外で見張りをしている者達が腹を空かせているので、そのお金でも五十人もの食料を賄うには全然足りなかったのだろう。


「子供達は上か?」


一階には櫓とカルト以外の姿は見え無い。

エントランスから二階に上がる階段は見えているので、そこしか無いだろうと思いながら聞く。


「はい、出掛けている者以外は皆そこに居ます。」


カルトの後に続いて階段を上がっていく。

そして廊下を進んだ突き当たりの扉をカルトが開き、櫓も中に入る。


「これは思っていた以上に酷いな。」


目に写った光景を見てそう言うしかなかった。

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