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うっかり女神に邪神討伐頼まれた  作者: 神楽坂 佑
1章 異世界転生
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197話 捨て子

「取り敢えず移動するか。」


櫓は子供を軽々と抱えて歩いて行く。

店主との交渉は上手くいったが、野次馬が多かったので場所を変えたかったのだ。

一応助けてもらったからか、子供は大人しくしていた。


「此処でいいか。」


人通りの激しい大通りから逸れた脇道で子供を降ろしてやる。


「さてと、取り敢えずお前の名前から教えてもらおうか。」

「レンだ。」


調査の魔眼で一応調べるが嘘は言っていない。

だがレンと名乗った子供は、未だ櫓の事を少し警戒している。


「レン、そのパン食わないのか?腹が減ってるんだろ?」

「え?取り上げないのか?」

「子供から奪ったりはしない。」


腹を空かせている者から取り上げなくても、櫓のボックスリングの中には大量の食料が入っているのだ。


「貰えるなら、これは持って帰りたい。」


レンは直ぐにパンを食べようとはしなかった。


「持って帰る?」

「俺よりも腹を空かせてる奴も居るんだ。そいつらに分けてやりたい。」


どうやらレン以外にも同じ境遇の者が複数いる様だ。

その者達の為に無茶な行為をしてまで食料を集めていたのだろう。


「どれくらいの人数だ?」

「五十人くらい。」

「そんなにか!?」


レンの言った人数の多さに驚く櫓。

多くても十人くらいだろうと予想していたのが、その五倍である。


「俺達は大人に育てられないからと捨てられた身だ。だからこうでもしないと生きていけないんだ。」


レンがパンを盗んだ理由に納得した。

レンの様な幼い子供ばかりであれば、出来る仕事も限られてくる。

その日の自分の食事代を稼ぐだけでも大変だろう。

それが五十人も居るのならば、真面な手段で稼ごうと思っても無理だろう。


「成る程な、なら一先ずその場所に案内しろ。」

「え?なんで?」

「腹を空かせてる奴が大勢居るなら、食べ物くらい分けてやる。」


櫓の提案を受けてレンは少し考えた。


「本当か?嘘じゃないか?」


レンは櫓の事を未だ信用してはいない。

一度大人に捨てられたのだ、警戒心が強まっているのは仕方が無い。


「レンは何を疑っているんだ?」

「奴隷として俺達の事を捕まえようとしているかもと思って。前にも何人か連れ去られたから。」


捨てられた子供ばかりとなれば、誰も困らず捕まえ易く扱い易く、奴隷にするのには最適だろう。


「それを疑われるとどうしようもないが、一つ言っておくとしたら無理矢理案内させる実力が俺にはあるが、それをやって無いって事くらいか。」


レンは自分の速さに多少なりとも自信があったので、盗むと言った行為を選んだのだろう。

実際複数の大人がレンの事を捕まえようと動いていたが、誰もが触れられていなかった。

そんな中を離れた距離に居た櫓があっさり捕まえてしまったのだ。

その拘束の強さは実際に受けたレンが一番よく分かっており、無理矢理されてしまえばされるがままになる事は明らかだ。


「だったら食べ物は何処にあるんだ?分けてやると言っても何も持っていないじゃないか。」

「この中に入っているぞ。」


櫓はボックスリングを指差してから、手の上に焼き立てのパンが何個も入っているバスケットを取り出す。


「え!?ど、何処から?」


レンはボックスリングの様な空間魔法が付加された魔法道具を見た事が無いのだろう。

いきなり現れたバスケットを見て驚いている。


「物を仕舞っておける魔法道具だ。食べ物はこの中に大量に入っている。」


そう言ってバスケットを仕舞う。

またいきなり消えたバスケットを見て驚くレン。

ボックスリングは存在が知られているが見るのが初めてと言った者が大半であった。

なので存在も知らないレンの反応は、今迄の者達と違って、手品を見せられた子供の様で少し面白かった。


「本当に分けてくれるのか?」


警戒していた先程までとは違う、確認する様な声で聞いてくる。


「ああ、金にも別に困っていないからな。」

「分かった、こっちだ。」


レンは先導する様に脇道を進んで行く。

どんどん大通りから離れて行き、賑やかだった喧騒も聞こえなくなってきた。

周りの建物も整備された綺麗な者から、ヒビだらけの壊れかけた建物に変わっていき、櫓の頭にはスラム街の単語が思い浮かぶ。

その中を更に進んで行くと、他の建物よりは幾らかマシな一つの大きな家が見えて来る。

ボロボロな門の前には門番と思われる子供が二人、尖らせた石を木の棒に括り付けた簡素な槍を持って立っている。


「レン、そいつは誰だ!?」


未だ距離はあるのだが、門番の二人は櫓に対して槍を向けて来て警戒心剥き出しである。


「話を聞いて、食べ物を分けてくれるらしいんだ。このパンも兄ちゃんから貰った物だ。」


レンは抱えていた大きなパンを門番に見せる様に掲げる。


「馬鹿が、パン一つで簡単に信じやがって。」

「大人はそうやって子供を騙すんだ!」


門番はレンよりも大きくてガタイも良く、何歳か歳上の様だ。

その分大人から辛い思いを受けた事も多いのだろう。

門番をしているだけあって、レンよりも更に警戒心が強く、レンが頑張って説得しようとしているが聞く耳持たない様だ。


「話し合いでの解決は難しいか。」


櫓は足を少し魔装して、門番との離れた距離を一気に駆け抜ける。

背後を取り二人の持っていた槍を二本取り上げてボックスリングの中に仕舞う。


「これで少しは大人しく話しを聞く気になれるか?」


櫓は門番二人の頭に手を置きながらなるべく優しく話し掛けた。

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