196話 霊刀を超える武器
各々部屋に案内された後は自由行動だ。
一先ず一週間宿を取ったので、その間は休暇と言う事にしようと話し合った。
櫓はボックスリングがあるので部屋に置く荷物も無く、自分の部屋を確認すると宿から出た。
目的地は鉱山都市ミネスタにある冒険者ギルドなのだが、初めて来たので場所は分からず散歩がてら探して行く。
(流石は鉱山都市だな、ドワーフが多い。)
街中を行き交う人々の半分近くがドワーフだった。
資源が豊富な街なので、細工や武器作り等が得意なドワーフにとっては最高の場所なのだ。
今迄の街は食べ物を扱う店の方が多かったが、鉱山都市ミネスタは武器防具や装飾品を扱う店がかなり多い。
見渡すだけでも同じ様な店が何軒もあり、競合が多くて商売になるのかと思ったが、どの店も客の入りは上々だ。
この街を訪れる者達は、そう言った物を目当てにしているので、どれだけ店があろうとも客足が悪くなる事は無いのだ。
(せっかくの機会だし武器を作ってもらうのもいいかもな。自分に合う武器を使った方が戦闘能力も上がるだろうし。)
櫓が現在使っている霊刀は、この世界に来る前に女神カタリナから貰った物だ。
光属性が付与された刀で、アンデッドやゴースト等の系統の魔物に大きなダメージを与える事が出来るのだが、それ以外の魔物を斬る事に関しては普通の刀と変わらない。
確かに武器としてのランクは高いのだが、自分に一番合っているかと言えば頷けない武器だった。
なので機会が有れば自分に合う刀を作りたいと考えていた。
(こればかりはスキルに頼りたく無いからな。)
錬金術の名人を使えば簡単に刀を作る事も可能だ。
しかしスキルを使い一瞬で作った刀と職人が丹精込めて作った刀では、後者の方が強い武器になると櫓には感じられた。
元の世界で天剣を学ぶ際に、「職人が心を込めて作った刀には魂が宿る。己の身体の一部として扱えれば、魂が通じ合っているだろう。」と言う教えもよく聞かされたのだ。
最初の頃は武器に魂が宿る事など無い、ただの思い込みだろうと聞き流していたのだが、腕が上がるに連れて自分の身体の一部の様に扱える様になってきた刀に対してそう言う感情が出てきた。
そして異世界に転生し、戦いが当たり前のこの世界では、前の世界よりも更にそう思える様になっていた。
なので自分が扱う武器に関しては、腕の良い者に依頼して最高の一本を仕上げてもらいたいと考えていたのだ。
(それをベースにすれば、最高の魔法武器が作れるだろう。)
錬金術の名人のスキルを使い、最高の武器を高価な素材と組み合わせる事によって魔法武器にしたいと考えていた。
武器自体は変わらず能力だけ追加で付加される形になるので、そのせいで性能が下がると言った事は無い。
候補として思い付いているのは、ティアーナの森で作り現在はリュンが扱っている無色の剣だ。
素材となる世界樹の枝や葉は大量に貰っているので、直ぐにでも作る事は可能である。
魔法を一種類だけだが瞬時に扱えるのは相当な戦力になるので、是非試したいと思っていた。
(出来ればこの街でも特に腕が良い者に頼みたいんだがな。)
自由に行動出来る一週間でそう言った人物に出会いたいと考えていた。
「泥棒!」
櫓の居る位置からも見える少し離れた場所で、怒鳴り声が聞こえる。
武器の事について考え事をしていた櫓だったが、あまりにも大きな声だったので直ぐにその方向を見た。
パンを売っている店の店主が怒鳴っている方向に、店頭で盗んだと思われる大きなパンを抱えて走って行くフードを被った人物が見える。
小柄な身体で素早いので周りの者達は捕まえる事が出来無い。
(一応見ちまったし捕まえとくか。)
櫓は人混みの中を縫う様に走り出し、泥棒を追い掛ける。
それなりの距離があったのだが、冒険者として鍛えている櫓が泥棒に身体能力で負けるわけも無く、直ぐに追い付き組み伏せて捕まえる事に成功する。
「ちくしょう、離しやがれ!」
捕まえられた者はジタバタともがいているが櫓の拘束を逃れる事は出来無い。
もがいた勢いで被っていたフードが外れて泥棒の姿が見えた。
「子供?」
櫓は小柄な身体からドワーフだと思っていたのだが、組み伏せている者は自分と同じ人間の子供だった。
「すみません、助かりました。」
そう言って近付いて来たのはパン屋の店主である。
櫓に感謝をして、子供の事を睨んでいる。
「盗人め、警備員に突き出してやる。」
店主がそう言った瞬間、ビクッと怯えているのが伝わってくる。
子供だろうと泥棒は泥棒なので容赦する気は無い様だ。
「待ってくれ店主。」
櫓は近付いて来る店主に片手を向けて立ち止まらせる。
「なんですか?」
捕まえてくれた櫓の行動に従い立ち止まると聞き返して来る。
「俺がパンの代金と迷惑料を代わりに払おう。そしてこの子供にはキツく言い聞かせておく。それで今回は見逃してくれないか?」
店主は櫓の提案を受けて少し考えてから了承してくれた。
どのみち子供に盗まれたパンは売り物にならないので、損をするよりはと考えたのだ。
少し多めに金を渡してやると喜んで店に帰って行った。
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