表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うっかり女神に邪神討伐頼まれた  作者: 神楽坂 佑
1章 異世界転生
174/324

194話 優しい一面

「本当にここでいいのか?」


櫓は一応確認の為に質問する。

ティアーナの森を抜けた場所で希望の光の三人は馬車から降りると言ったのだ。


「向かう先が違うんだもの。マギカルまで送ってくれるんならそのまま乗ってるけど?」


この場所から鉱山都市ミネスタは結構近い。

小さくではあるが遠くに街が見えている様な位置だ。

しかし希望の光が目指す魔法都市マギカルは真逆の方角にある。


「それは遠慮しておく。」

「でしょ?ならここでお別れよ。」


メリー達は馬車の中に置いていた私物を持って馬車から降りる。


「はぁ・・。」


ユスギはとても名残惜しそうにしながら降りている。

この馬車は王族や貴族が使う様な馬車と比べると見た目などの派手さは無いが、機能性で考えれば並ぶ物は無い。

馬車の中でも快適に暮らせる様に施設も増えて、最高の馬車となっている。

それに加えてこの世界では貴重な香辛料や調味料を惜しみ無く使った櫓の料理は、お店で出される物と比べても大差無く、ユスギは気に入っていたのだ。

そんな快適な暮らしに慣れてきていたのだが、今日で終わりとなれば気持ちが沈むのも無理はない。


「ユスギ、元気を出して下さい。名残惜しいのは私も同じです。」


同じパーティーメンバーの藍がそう言いながら励ます。

藍も櫓の馬車の書斎部屋をとても気に入っていた。

本はこの世界では貴重なので、大量の本を好きな時に自由に読み漁るのは難しい。

だが櫓の馬車になっている間は、御者している者以外は大抵時間を持て余す事になる。

なので藍は暇さえあればそこで本を読んでいた。

今日からその生活が出来無くなるのを残念がってはいるが、ユスギと違って気持ちの切り替えは出来ている。


「分かってはいるんだよ?でもこの生活に慣れちゃうとどうしてもね。」

「分かりますわ。私もこの生活からはもう抜けられませんもの。」


シルヴィーもいつでも直ぐに風呂に入れるこの環境を気に入っており、もう離れられないでいた。

その為、気持ちはよく分かるのだろう。


「同じのは無理でも馬車なら買ってあげるわよ。なるべく良い物にするからそれで我慢して、ね?」


メリーがユスギに向けて言う。

今迄メリーと藍の二人しかいなかったので、お金はあるが馬車は持っていなかった。

しかしユスギの様に今後パーティーメンバーが増えていくことを考えると、購入した方がいいだろうと元々メリーは考えていたのだ。

しかし櫓の作った様な馬車は、櫓と同じ錬金術の名人のスキルやそれよりも上位のスキルを持っている者、又はスキルを持っていなくても魔法道具作成においてベテランの者を雇わなくては出来無いだろう。

だが雇えたとしても、馬車の中に取り付けられている便利な物達は、全て元の世界に居た時に使っていた家電類を魔力で動く様にした物だ。

それらの物は一見して何に使うのかこの世界の人達にはわからないので、再現しようとしても難しいだろう。


「分かったよ、なるべくお金を稼いで快適な馬車にしよう。」


ユスギも気持ちを切り替えて頷く。


「少し可哀想ですね。」

「・・馬車は無理だが中にある物については金と材料次第では作ってやろう。」


ネオンに言われたからでは無いが、三人を見ていて生活の水準が一気に下がるのを可哀想だなと感じた櫓は妥協案を出す。

今使っている馬車を完全再現するのは完成の呪文を使ったとしても、一人では相当な時間が掛かるので作る気は無い。

だが中に取り付けられているクーラーや電子レンジ等の物は、作るのにあまり時間が掛からない。

貴族や商人に目を付けられて作成依頼が大量に来るのが嫌だったので、他の者達に進んで作ってやる気は無かったのだが、この三人に関しては一緒に行動した時間も長く仲間の様に思っているので、別にいいかと思えてきた。


「本当!」


ユスギがその言葉に食いつき、メリーと藍も同じ様に期待の籠った目を向けてきている。


「次に会った時に金と材料を払ってくれればな。」

「約束だよ、お兄さん!」


ユスギは一気に気持ちが明るくなり、軽くなった足取りで魔法都市マギカルの方に歩いて行く。


「優しいのだな。」


後ろからやり取りを見ていたリュンが言う。

リュンは仲間になってから未だ時間が浅いので、櫓の事は凄く強い人間と言う認識が殆どなのだ。


「単なる気まぐれだ。」

「そう言う事にしておこう。」


リュンは櫓の知らない一面を知り穏やかに笑っている。


「すみません、気を使わせてしまって。しかしとても有り難い話です。」


藍も頭を下げながら嬉しそうにしている。


「しっかり稼いでおくしかないわね。そうと決まれば早速向かうわよ。」

「二人共遅いよ!早く早く!」


遠くでユスギが手を振りながらメリーと藍を呼んでいる。


「じゃあね皆、また何処かで!」

「失礼します。」


二人は皆に別れを告げて、遠くにいるユスギの元に向かって行く。


「ああ、元気でな。」


全員を代表して櫓が返す。

櫓達は遠ざかる三人を眺めて、長期間共に過ごしてきた希望の光と別れた。

閲覧ありがとうございます。

ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ