193話 メリーも欲しい
「これからどうするの?」
御者台の上で手綱を握っているメリーが聞いてくる。
フェリンをティアーナの森に送り届ける為に一緒に行動していたが、元々パーティーは違うので一緒に居る理由が無くなったのだ。
「せっかく鉱山都市ミネスタの近くまで来たんだ、少し滞在していこうと思っている。」
「そっか、私達はマギカルにまた戻るから、ここでお別れね。」
メリーは少し残念そうに言う。
櫓の事を自分のパーティーに入れたいと思っていたメリーは、今回櫓達と行動して全員の実力の高さを知り、更に気に入っていたのだ。
「またマギカルに行くのか?」
「だって私達はダンジョン目当てで訪れたのよ?フェリン様の件で探索どころじゃなかったから、ダンジョンでは人助けしか出来てないもの。」
メリー達は魔法都市マギカルに到着して直ぐにダンジョンに潜ったが、盗賊に襲われている冒険者達を見かけて探索が出来無かった。
後日新戦力となるユスギをパーティーに勧誘する事が出来て、再びダンジョンに挑もうとしていたのだが、そのタイミングでフェリンの件が上がった。
その結果メリー達はダンジョン探索を出来ず、目当てとしていた恩恵の宝玉を入手出来無かったのだ。
「まあ、競争率は高いだろうが頑張ってくれ。」
ダンジョンに潜っている者は大半が金目な物が目当てである。
その中でもスキルを得られる恩恵の宝玉は高額で売買されている。
櫓達が潜った時も、どの階層も人で溢れており、宝箱の奪い合いであった。
だが未だ探索されていない階層に先に行く事が出来たので、その階層の宝箱を独り占めにして恩恵の宝玉を得ることが出来た。
あれから時間は経っているので、既に攻略情報が知れ渡っている可能性は高い。
下階層であっても人が沢山居て宝箱を開けられなければ意味が無い。
「櫓君達は何か恩恵の宝玉手に入れたの?」
メリー達にダンジョンの成果については、特に話していなかったので知らないのだ。
「自分達では使わない物も多かったが恩恵の宝玉なら結構手に入ったぞ。」
「使えるスキルはあったの?」
「威圧とか身体強化なんかは当たりだったな。他は鑑定や耐性系統の恩恵の宝玉ばかりだったが。」
自分達が覚えたスキルを思い出しながら言う。
有用なスキルも多いが下位互換や今更取る必要も無いと思えるスキルも結構あった。
恩恵の宝玉の殆どは城塞都市ロジックにある拠点に送ってしまったので、手元には数個ある程度だ。
「手に入るだけいいじゃないの。恩恵の宝玉は貴重だからダンジョンでも中々手に入らないのよ?」
「確かにそうだな。」
宝箱の中には確定で恩恵の宝玉が入っている訳では無い。
様々な魔法道具や武器防具がランダムに入っているので、目当ての恩恵の宝玉だけを引き当てるのは難しい。
櫓達はトラップフィッシュが飲み込んだ大量の宝箱を漁り、恩恵の宝玉を沢山手に入れる事が出来た。
しかしその手に入れた恩恵の宝玉の何十倍もの数の宝箱を開けているのである。
他の者達からすれば、少ない宝箱で目当ての恩恵の宝玉を引き当てなければならないので大変だ。
「目当ての恩恵の宝玉を手に入れたとしても、欲しいスキルかどうか分からないしね。」
「何か欲しいスキルでもあるのか?」
櫓がメリーに聞くと、待っていましたとばかりに嬉しそうに話だした。
「私が欲しいのは物を操作出来るスキルか櫓君の使う雷みたいな攻撃系が欲しいわね。操作スキルなら遠距離から血の採取が可能になるし、攻撃系スキルなら自分で相手の動きを止めて倒せるからね。」
メリーが扱うのは呪縛の魔眼と呪い魔法だ。
呪縛の魔眼は呪い魔法に比べて発動が早いが、拘束出来る時間が短い。
仲間との連携で使う分には有用だが、タイマンの戦いでは少し束縛したところで決定打に欠けるメリーにはあまり意味が無い。
逆に呪い魔法は呪縛の魔眼に比べて束縛出来る時間が長いが、詠唱や敵の血が必要となってくるものもある。
櫓達と戦った時も血の採取は前衛の藍が行っていた。
これをメリーが自分で出来る様になれば、藍は攻撃のみに集中する事が出来て、パーティーの攻撃力が上がるだろう。
「メリーの呪い魔法と相性は良さそうだな。」
「でしょ?都合良く余ってたりしないの?」
櫓が手に入れた大量の恩恵の宝玉の中にあるのではと期待するメリー。
「あったら自分達に使ってる。」
「だよねー。地道に探すしかないか。」
「オークションって手もあるだろ?」
「オークションか、使い勝手の良いスキルなのに売られてるかしら?」
「使い勝手が良いから高値でオークションに掛けられるんだ。俺がマギカルのオークションに参加した時も結構恩恵の宝玉が出品されてたぞ。」
櫓自信も使わない恩恵の宝玉を出品していた。
「なるほど、確かにそれは言えてるわね。でもオークションで買うとなると相当値が張る筈。となると今の手持ちだけでは少し心許ないわね。そうするとダンジョンでお金儲けするしか・・って、結局ダンジョンに潜るしかないじゃないのよ!」
メリーが一人で騒いでいる間に馬車は森を抜けていた。
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