189話 エルフ魔人の脅威
櫓の放った雷のレーザーは空中で分散してしまったが、派手な攻撃なので櫓から目線を逸らす事に成功する。
「神速歩法・電光石火!」
両足に雷を纏って瞬間移動したかの様に、魔人の上に移動する。
紗蔽に見せた事は無かったので、敵は誰もその速さに反応出来ていない。
「STRエンチャント!」
ユスギが遠くから櫓の攻撃に合わせて付与魔法を使う。
櫓の足が淡い光に包まれて、必殺の攻撃力が上乗せされる。
「破脚!」
動けない魔人の背後を取り、上から叩きつける様に回し蹴りを放つ。
直後辺りに爆発音が響き渡り、木々は吹き飛ばされ周りの地面全てがヒビ割れて大きなクレーターが出来上がる。
「マジかよ。」
直撃した蹴りに手応えを感じ、土煙が収まった後に現われた魔人の様子を見てみると、四肢が胴体から分かれてバラバラになっていた。
しかし全ての身体のパーツがもぞもぞと動き、再び元に戻っていく。
エルフに融合したのはスライムだったので、斬られた時等に元通りに再生する特徴を受け継いでいたのだ。
元に戻った魔人はゆっくりと起き上がると自分をバラバラにした櫓の方を見る。
「キエロ。」
魔人の足から地面に魔力が流され、辺りに散らばっているヒビ割れた土塊が魔装されて弾丸の様に櫓に襲い掛かる。
霊刀を抜いて躱しきれない物は斬って対処する。
ネオン達が助けようと動くが、その方向にも土塊の弾丸が飛んで行く。
葉っぱの時とは訳が違い、大きさも威力も凄まじく対処だけで手一杯だ。
「おわっ!危ないやんか!」
「近くに居るのは危険なのだよ。」
櫓の方に向けて広範囲に飛ばされている為、紗蔽達も巻き添えを受けていた。
「コロス、ゼンブコロス。」
櫓に身体をバラバラにされた事で怒り、頭の中は目の前の相手を殺す事しか考えられなくなっていた。
「魔神になったとは言え精神は魔物のまま、感情の起伏が激しいのだよ。まさか味方の判別も出来無くなるとは思わなかったのだよ。」
長い時を生きていない大半の魔物は、人間を殺すと言う感情が一番強く、自分で考えて他の行動をする事が難しい。
これは周りの魔物がそう言う思考をしていたり、自分達を率いている魔王がその様に行動している為だ。
この融合する前にスライムだった魔物も長い時を生きてはいなかった。
なので魔人と言う強い個体になっても、精神までは成長せず殺戮魔人となってしまっていた。
「撤退や撤退、このままおったら巻き込まれてまう。」
「なっ!?せっかくのエルフの魔人なのですよ!?もっとデータの収集を・・。」
「魔力量の多い個体になったと言う情報だけでも充分なのだよ。死んでは意味が無いので強制帰還するのだよ。」
魔装された土塊が飛び交っている中で悠長に会話出来ているのは、見えない壁に全て弾かれている為だ。
黒尽くめの者が手を向けているだけなのだが、それだけで一つ残らず空中で威力を失い地面に落ちていく。
「では我々は失礼するのだよ。」
「待て・・。」
櫓が魔人の攻撃に対処しつつ近付こうとするが、石を操る黒尽くめが赤いクリスタルを取り出して、それを地面に叩きつけた。
赤いクリスタルは粉々に砕け散り、それと同時に紗蔽達の姿は見えなくなっていた。
櫓は初めて見たが移動系の魔法道具か何かだろうと予想される。
「ちっ、逃したか。」
もう紗蔽達の魔力も感じられなくなったので、気持ちを切り替えて魔人に集中する。
「このままじゃ持たなくなる。未だ余裕がある奴は被弾覚悟で強めの攻撃を放て。」
櫓は仲間達に向けて言うと同時に、霊刀に雷を纏わせる。
素早く居合いの構えを取り、刀を抜き放って雷の斬撃を飛ばす。
素早い一連の動作だったが間に合わず、数の多い土塊が腕と足を打ち、魔装して防御力を高めていたにも関わらず鈍い痛みが残る。
向こうではネオンの巨大な火球とリュンの光剣弓がそれぞれ魔人に打ち出される。
他の者達が二人の攻撃の隙を埋める為カバーに入ったので、被弾はギリギリ避けられている。
三人の攻撃は土塊を消し飛ばしながら魔人に進んで行き、着弾と同時に再び爆発音を響かせる。
魔人を再びバラバラにして土塊を飛ばす攻撃は止まったが、先程と同じ様に飛び散った身体は再生していく。
再生は魔力を必要とするので、魔人の魔力が切れるまで同じ事を繰り返せば倒す事が出来るのだが、それでは先に櫓達が魔力切れを起こしてしまう。
再生し終わった魔人が再び攻撃を仕掛けようと立ち上がった。
だが攻撃するよりも早く空から光の柱が魔人のいる場所に降り注いできて、それが収まった後には魔人の姿どころかその下の地面も綺麗に消え去っていた。
「遅くなってすまんかったのう。逃がしたのは残念じゃがお主達が無事で良かったわい。」
村長が櫓達に向けて言う。
とっておきの魔法と言うのが間に合って、手を焼いていた魔人を倒してくれたのだ。
魔力の使い過ぎと魔人のダメージにより櫓は、気を失ってその場に倒れた。
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