188話 実験成功
村長が地面を蹴って、四人に向かって行く。
「迎撃するで、影槍!」
紗蔽は絶命しているエルフから抜いた長刀を持ち、予め詠唱をしておいた影魔法を使い、自分の影を槍の形に変えて村長に突き出す。
「了解だよ、石針!」
黒尽くめの男の一人は両手を地面に付くと、地面から鋭く尖った石が次々と村長に向けて打ち出される。
「ふっ!」
村長は持っている剣を魔装して一閃する。
魔力の斬撃が飛ばされ、石と影の槍を纏めて消し飛ばす。
「やっぱ別格やなぁ、早速頼むで?」
「了解しました、対処は任せますよ?」
呪い魔法を使う黒尽くめの男が懐から透明で綺麗なクリスタルを取り出した。
前に村でも使われた隷属のクリスタルである。
「させるか!」
櫓は足に雷を纏わせて、村長の後に続き突っ込む。
「先ずは一人目じゃ。」
村長は一番近くに居た石を操る黒尽くめの首を再び魔装した剣で刎ねようとする。
しかし首元に届く寸前で何かに阻まれ、甲高い音のみが響き渡る。
何も行動を起こしていなかったもう一人が手の平を向けて来ていたので、何かしらの力を使われた様だ。
「天剣七式・文月!」
櫓はクリスタルを持っている者を倒す為、突っ込んだ勢いのまま雷を纏わせた剣を上段に掲げて一気に振り下ろす。
「やらせんでぇ。」
紗蔽は魔装した長刀と影魔法で作り出した二本の長刀の合計三本で櫓の攻撃を受け止める。
影で出来た長刀は二本とも直ぐに消し飛んでしまったが、ギリギリ櫓の攻撃は持ち堪えられてしまった。
「ちっ。」
「危ないなぁ。」
他の仲間達も櫓の後に続いて攻撃を仕掛け様としていたが、櫓の背後に作り出された巨大な石の壁によって防がれてしまった。
石の壁はそこまで頑丈と言う訳では無いので直ぐに破壊出来るだろうが、時間稼ぎはされてしまった。
櫓達の攻撃が全て防がれた間に隷属のクリスタルから緑色のスライムが召喚された。
「さあ、融合するのです。これでやっとエルフを素体とした融合実験が出来ます。」
召喚した主人の言う通りに、一人だけ絶命していたエルフに向けてスライムが融合のスキルを使用する。
スライムは抜け殻となり溶けた様にその場で広がっていき、代わりに先程まで死んでいたエルフが起き上がる。
見た目は融合する前と怪我が治っている所以外全く変わっていない。
「素晴らしい!人間をベースとした時と比較にならない魔力量!やはり魔王様の仰られた通りでした!」
魔人となったエルフが起き上がった事により、呪い使いの男が興奮した様に一人で喋っている。
他の三人も近付いて行き興味深そうに眺めている。
確かに男の言う通り、魔人からは相当な魔力が感じられる。
融合した魔物が何であれ、魔人となった存在は必ずBランク以上の強さとなる。
加えてこのエルフが生きていた頃の強さがベースとなるので、この間戦った魔人よりも遥かに強いだろう。
「イイ、キブンダ。」
魔人はそう言って片手を地面に付ける。
そこから魔力が流れて広がって行く。
次の瞬間、魔人の魔力が流れた範囲内にあった木々から、風切り音を上げながら次々に葉っぱがクナイの様に櫓達に向けて飛んできた。
仲間の判断は出来ているのか紗蔽や黒尽くめ達の方には、葉っぱが飛んでいっていない。
前の方に居た櫓と村長は近くに倒れていたエルフ達を持って一度皆の元まで下がり、剣や魔法で葉っぱの対処をして行く。
葉っぱは一枚一枚が魔人の魔力によって魔装されており、剣で弾いた時に金属音が鳴る程硬い物質になっていた。
「村長の何でも無効化出来る力で何とかならないんですか?」
櫓は剣で葉っぱを弾きながら隣の村長に言う。
詳細は教えてもらっていないが稽古の時に何度も見たスキルや魔法を無効化する力の事だ。
「あれは触れている事が条件じゃ。それに常時使っている訳でも無い。」
そしてその力は同時攻撃に弱いと言う事も分かっている。
現在の魔人の攻撃は数が多過ぎるので、発動させられないのだろう。
「ではどうします?」
「少し時間は掛かるがとっておきの魔法がある。任せてもよいか?」
「了解です。メリー、魔人の動き止められるか?」
「任せなさい。」
メリーは何の躊躇も無く魔法を使う為に詠唱を始めた。
その間にも葉っぱは降り注いでいるのだが、メリーに迫る葉っぱはパーティーメンバーの藍とユスギが全て防いでいる。
「行くわよ!呪縛陣!」
魔人の足元に魔法陣が現れ、その直後雨の様に降り注いでいた葉っぱが止んだ。
「ナイスだ、極雷砲!」
両手から荷電粒子砲の様な極太な雷のレーザーが魔人に向けて放たれる。
「流石にこれは止めた方がいいのだよ。」
石を操る黒尽くめが言うと、村長の魔装した剣を止めた黒尽くめがレーザーに手を向ける。
見えない壁が現れたかの様に、何も無い空中でレーザーが受け止められて分散してしまい、魔人には届かなかった。
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