187話 裏切り
休憩を挟みながらローテーションで櫓達は村長と稽古をし続け、現在は櫓が一人で戦闘中である。
「む?」
「隙あり、破脚!」
戦闘中突然村長が動きを止めたので、その隙を逃すまいと顔面目掛けて回し蹴りを放つ。
「ストップじゃ。」
しかし村長は片手で難無く櫓の足を受け止める。
そして一方向を黙って見続けている。
「どうかしたんですか?」
あっさり受け止められて少し落ち込んだが、村長の言動の方が気になった。
「どうやら来た様じゃ。結界を複数の者が通り抜けた。」
「っ!」
辺りを見れば他のエルフ達もざわざわと騒ぎ出し、村長が見ていた方角に走って行く者もいた。
櫓以外の者達は何に騒いでいるのか分かっていない。
「稽古は終わりじゃ。結界を魔物か何かが通ったみたいじゃから少し見て来る。未だ戦える者は手を貸してくれ。」
村長が呼び掛けると、櫓達は皆ポーションを飲んで回復したり、休憩を止めて立ち上がる。
お世話になっているティアーナの森に魔物が入って来たならば、加勢しようと全員が思っている。
村長の後を追い森の中に入って行くと、前方から戦闘音や悲鳴が聞こえて来る。
急いで森の中を駆け抜け現場に到着した時には、血を流したエルフ達が呻きながら地面に倒れていた。
その中の一人は長刀で心臓を貫かれ、地面に縫い付けられ既に絶命している。
「到着がはやいなぁ、バレてたみたいやなぁ。」
苦しみ倒れているエルフ達の側で、悠然と立っていた長刀の持ち主である紗蔽が櫓達に向けて言ってきた。
「ど、どう言う事ですの!?」
「もしかしてこれ紗蔽が・・?」
「話し方もいつもと違う。」
仲間達は突然の事に動揺している様だ。
普段知っている紗蔽とはまるで別人である。
「悪い方で当たったみたいじゃのう。」
村長は仲間が傷つけ殺されて怒っているが、感情のまま動く様なことはせず冷静に向き合っている。
「その様ですね。そっちがお前の素って事か?」
「そう言う事や、演技には自信があるんじゃ。善人みたいじゃったろう?」
紗蔽はクツクツと笑っている。
一応操られている可能性も考慮して調査の魔眼で視てみるが、状態の欄には何も無かった。
「笑っておる余裕があるかのう?」
村長は一瞬で紗蔽の隣りに移動して、笑って油断している所を剣で斬り掛かろうとする。
しかしその途中で攻撃を止めて大きく飛び退く。
その直後村長が立っていた場所に、地面から無数の巨大な鋭利な石が生えてきた。
飛び退くのが少しでも遅れていたら串刺しになっていた。
「いやー、実に惜しい。」
森の中から全身黒尽くめの者が三人現れ、その中にいる先頭の者がそう言い放つ。
「遅かったなぁ、何日待ったと思ってるん?」
紗蔽の知り合いの様で、後ろを振り返って親しげに話し掛けている。
「此方にも事情があるのだよ、無理を言うな。とは言えエルフの住まう森に辿り着けたのは、君の魔力を辿ったおかげだよ。」
「感謝してや?」
紗蔽は黒尽くめの連中をティアーナの森に導く役だったらしい。
「複数の呪いに掛かっていたのは演技だったのですか!?」
目の前で起こっている事が信じられず、ネオンが紗蔽に確認する。
「あれくらいで死ぬと思うとるん?辛かったけどエルフの森に着くまでくらいは、耐えれ無い程ではないなぁ。」
「俺達を利用したと言う事か?」
「エルフが暮らす森を探していたら、オークションでエルフを落札して、送り届けようって善人を見つけてなぁ。運が良かったわ。」
櫓がフェリンを故郷の森に返す事を紗蔽は何処かで聞き、仲間と一芝居打って上手く付いて来たのだ。
知らなかった事とは言え、思惑通りに利用されてしまったらしい。
「そうか、残念だが聞いた通りだ。全員紗蔽の事は敵と見做して全力で掛かれ。」
櫓は霊刀を構えながら周りの仲間達に向けて言う。
残念そうな顔をしながらも現状を見れば紗蔽が悪なのは確定なので、各々武器を構えていく。
「意外と強いから気い付けなぁ?」
紗蔽は仲間の黒尽くめ三人に向けて言う。
一緒に稽古をしたのも櫓達の戦闘関連の情報収集だったのだろう。
「そうですね、その意見には賛同です。私も前に撤退する為に魔王様から授かった道具を使わされましたから。」
別の黒尽くめが紗蔽の後に続いて話す。
「櫓様、あの声は。」
櫓も気が付いたが前に呪いで滅ぼされた村に居た黒尽くめの者だとネオンも気付いた様だ。
「ああ、俺達が戦った奴だな。他の二人はどんな能力か知ら無いが、あいつが投げて来る黒い球には呪いが掛かっている。全員注意してくれ。」
櫓、ネオン、ユスギの三人以外は知ら無い事なので情報を共有しておく。
全員が武器を構えたまま頷く。
「わしが先ず攻撃を仕掛ける。その後に続いてくれ。」
「分かりました。」
村長と小声でやり取りして、短く作戦を決めた。
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