186話 未来の出来事
「なに、素直に質問に答えれば直ぐ済む事じゃ。」
村長は櫓の首元に剣を突き付けたまま言う。
質問に答えなければ外してくれなさそうであり、返答次第によってはそのまま斬られるのだろう。
ティアーナの森に来てから特に怪しい行動をした覚えは無いので、斬られる事は無いだろうとは思っている。
「質問?」
「お主が連れてきた中におった紗蔽についてじゃ。途中で回収して連れて来たと言っておったが、元々仲間では無かったのじゃな?」
村長が気にしているのは櫓の事についてでは無く、紗蔽についてだった。
村長に話してはいないが道中一緒に旅をしたフェリンから効いたのだろう。
「それはフェリンも見ていますけど?」
「仕込みの可能性も無いとは言い切れんからのう。今一度はっきりと答えてもらうぞ。」
「話した通りです、紗蔽は仲間ではありませんでした。」
櫓がはっきりと断言して言う。
今は仲間の様に共に行動しているが、万能薬で呪いを解くまでは会話もしていなかったのだ。
「どうじゃ?」
その言葉を受けて村長が一人のエルフに視線を向け、フェリンや周りのエルフ達も一斉にそのエルフに視線をやる。
注目を集めているエルフは櫓の顔を暫し見つめてからコクリと頷く。
「この方は嘘は言っていないですね。」
「そうか、悪かったのう櫓。」
その言葉を聞いて直ぐに櫓の首元に突き付けられていた剣が外された。
「だから言ったじゃないですか!申し訳ありません櫓様。」
フェリンが櫓に向けて頭を下げながら謝罪している。
「正直驚いたけど、斬られる覚えが無いからな。」
「ほっほっほ、わしも疑ってはおらんかったが他のエルフ達は真相を確かめなければ安心出来んと言うのでな。」
そう言って村長が櫓と肩を組んで笑っている。
調子の良い事を言っているがあの雰囲気は本気だっただろうと櫓は心の中で抗議しておいた。
「それで紗蔽がどうかしたんですか?剣まで突き付けてくれたんですから説明してくれますよね?」
「そうじゃな。」
村長が視線をフェリンに向けると、奥の扉を開き女性のエルフを連れて来た。
「櫓様、この子は私の親友のターファと言います。」
「は、初めまして。」
紹介されたターファと言うエルフがペコリとお辞儀している。
「その子が何か関係しているのか?」
「はい、彼女のスキルが関係しています。」
「わ、私には予知と言うスキルがあるのですが、善悪に関係無く近い未来に起こる現象に関連する単語を知る事が出来るんです。」
フェリンの天啓のスキルと似て未来に関する事を知る事が出来るスキルの様だ。
「先程の行動から考えるに、予知のスキルに紗蔽が引っかかり、しかも悪い事が起こると?」
「その通りじゃ。」
村長の方を見ながら尋ねると深く頷いている。
「信憑性は?」
「ターファとは付き合いが長いですから、何度も予知の効果を体験しています。そして外れた事は一度もありません。必ずその単語が会話であれ現象であれ関わってきます。」
「ちなみに予知の内容と言うのは聞いてもいいのか?」
「は、はい。紗蔽、魔人、死、騙す、エルフ、の五つの単語です。」
その単語を聞いて少なくとも良い事では無いと櫓にも分かる。
「確かに悪い出来事かもしれませんが、紗蔽が被害者の可能性も有るのではないですか?」
「その可能性もあり得る。エルフの森で紗蔽が魔人に騙され死んでしまう、と言う捉え方も出来るからのう。」
「しかし騙されるのも死ぬのもエルフと言う可能性もあり得るのです。」
村長の言葉の後に続く様にフェリンが言う。
スキルで単語だけが分かったとしても、組み合わせ次第では幾つかの予測が生まれてしまい、正解が分からないのだ。
「それで紗蔽と行動を共にしていた俺を調べた訳ですか。」
「お主が紗蔽と繋がっている可能性もあるのでな。」
先程のエルフは発言した事が嘘か本当か見破るスキルでも持っていたのだろう。
そこで繋がっていると判断されていたら、首と胴体は分たれた訳だ。
「事情は分かりましたが、どうするんですか?」
「実際に事が起こっておらんのじゃしどうもせん。一応警備や監視はそれとなく強化してはおくがのう。」
村長は実際に予知の現象が起こるまでは静観している様だ。
「俺からは何かした方がいいですか?」
「何もせんでいい、ここで起こった事も他言無用じゃ。」
「分かりました。」
仲間達に言っても顔や言動に出やすい者もいる。
要らぬトラブルに発展しない為にも黙っておくのが正しいだろう。
「先に言っておくが、紗蔽が我々に剣を向けてきたならば、わしは迷わず斬り捨てる。櫓達が紗蔽側に付いた場合も同様じゃ。」
村長は何よりも仲間であるエルフを守る為に動くと宣言する。
「当然の事ですね。その時になってみなければ分かりませんが、紗蔽に非があるならば俺はエルフ側に付くと思いますよ。」
「その言葉が聞けて安心じゃ。紗蔽だけでなく魔人も相手取るとなると、わし一人では手が回らない可能性もあるからのう。」
櫓からの答えに満足して、村長の言葉でその場は解散となった。
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