183話 実力の差
リュンと戦う事になり、訓練場で稽古しているエルフ達に頼んで少しスペースを開けてもらった。
同じ森の者と言うだけあってリュンの事は皆知っており、その実力についても村長から稽古をつけてもらっていたので高い事も知られていた。
そのリュンが客人である人間の櫓と真剣勝負すると聞いて、皆興味を惹かれて稽古を中断して観戦する様だ。
人間に自ら関わりに行く事は無いので、どの様な戦い方をするか皆楽しみにしている。
「ほう、お主も剣を使うのか。」
「一応剣術を学んでましたから。」
櫓がボックスリングから霊刀を取り出して構えたのを見て村長が言う。
村長との戦いの時には敢えて剣無しでどこまで通用するか試していたので、剣での戦いは未だ見せていない。
「人間の世界の剣術か、どれ程私の剣が通じるか試させてもらう。」
「俺の剣術は一般的とは言えないかもしれないけどな。」
櫓の使う流派である天剣は、元の世界で学んだ物なので、この世界で一般的に使われる流派とは異なるのだ。
「お喋りはそこまでじゃ。双方準備も出来ておる様じゃし、早速始めるが良いな?」
村長が剣を構え向かい合った二人に確認を取る。
「大丈夫です。」
「いいですよ。」
「それでは、始め!」
村長の開始の合図と共にリュンが地面を蹴って特攻する。
先ずは様子見なのか普通に剣を振るってきた。
しかしその速さは尋常では無い。
流石村長の稽古を受けてきただけの事はあり、剣を使う事が珍しいエルフとは思えない程の洗練された立ち回りだ。
だが櫓もその速さに普通に付いていき、剣を全て霊刀で受け止めて対処している。
純粋な速さだけでの攻撃の応酬だが、観戦していたエルフ達はその速さに目が追い付かず、只々驚いている状態だ。
しかし櫓が徐々に速さを上げていくと、途中からリュンが遅れ始める。
「くっ、これ程とは。」
「ふっ!」
櫓が強めに振るった一撃をリュンは受け止める事に成功したが、その勢いで大きく後退させられる。
櫓はその隙に神眼を発動させ調査の魔眼を選択する。
名前 リュン・ルミナール
種族 エルフ
年齢 九十歳
スキル なし
状態 なし
視たところスキルの所持はしていない。
魔法は視れ無いが光属性の魔法を使える事は既に知っている。
そう思っていると吹き飛ばされたリュンの周りに早速光の剣が現れる。
「行け!」
一斉に発射された光の剣が物使い速さで接近してくる。
櫓はその場から動かずに腰を落とし居合いの構えを取る。
「天険五式・皐月!」
魔装された霊刀を櫓が抜刀し、眼前に迫っていた光の剣を全て砕き弾き落とした。
そのまま攻撃に転じる為に走り出し、霊刀に雷帝のスキルで雷を纏わせていく。
「村長に実力を示さなくてはいけないから手は抜かない。耐えてみろ、天剣七式・文月!」
リュンの目の前まで来た櫓が、上段に振り上げられた雷を纏った霊刀を振り下ろし、鋭い風切り音を上げながらリュンに襲い掛かる。
「くっ!?」
鋭い一撃にギリギリ反応しつつ魔装した剣の腹で受け止めるが、その威力に押されて地面に膝を付き、どんどん下に押さえ込まれていっている。
「これしきの事で・・!」
リュンの持つ白銀の剣がエルフの持つ膨大な魔力によって更に魔装されていき、徐々にではあるが櫓の霊刀を押し返して来た。
「やるな、これで決まらないか。」
「油断は禁物だぞ、勝ちを確信した時こそ付け入る隙が出来る。」
未だ押されているリュンの目は諦めておらず、そう言い放ち逆転の一手を打つ。
櫓の雷を纏った霊刀と激しく火花を散らして切り結んでいる膨大な魔力で魔装されている白銀の剣に新たな魔力が使用される。
魔装の為では無い、魔法を使う為の魔力だ。
その瞬間に櫓の周りが光の剣で囲まれる。
これこそが詠唱を必要とせず、ノータイムで強力な魔法を使える無色の剣の最大の利点だ。
「天剣八式・・。」
切り結んでいる霊刀が更なる雷を纏って光り輝いていき、辺りにバチバチと放電している。
「貫け!」
リュンの言葉に倣い、櫓を取り囲む様に浮いていた光の剣が一斉に四方八方から襲い掛かる。
「葉月!」
素早く引き抜かれた霊刀で白銀の剣を下から斬り上げて吹き飛ばす。
続いて迫る光の剣を舞う様に次々と斬り裂いていき、最後の六連撃目をリュンの首元でピタリと止める。
リュンからしてみれば、白銀の剣と光の剣が同時に周りから消え失せて、首元にいきなり霊刀を突き付けられた感覚だ。
正に一瞬の出来事であり、この場で観ていた物の中では村長しか何が起こったか理解出来る者はいなかった。
「悪いが戦いの最中に油断したりはしない。」
櫓は接近戦をすれば至近距離から光剣弓を打ち込まれる事は予想していた。
せっかくノータイムで魔法を打ち出す手段が有るのだから、当てやすいチャンスで使わない手は無いだろうと思い仕向けたのだ。
奥の手を使わせたうえで自分の実力が上である事を村長に示す為に。
「勝者は櫓じゃ。」
村長から試合終了の声が掛けられると、リュンはへなへなと地面に座り込んで呆然としながら櫓を見上げていた。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




