182話 変化する剣
リュンは無色の剣を持ったまま少し二人から離れる。
「お主もよく見ておく事じゃ。今後無色の剣を作るじゃろうからな。」
「剣に魔法を覚えさせる方法ですか?」
「うむ、方法自体はシンプルじゃ。剣に向けて覚えさせたい魔法を放つだけ。しかしその後が問題でな、魔法が剣に認められるかは分からぬのじゃ。」
「剣が魔法を選り好みするって事ですか?」
自由に好きな魔法を一つ覚えさせれると思っていたのだが、剣自身が魔法を選ぶならば話が変わってくる。
使い道の無い魔法や使い勝手の悪い魔法を選ばれては、せっかくの貴重な剣が台無しだ。
「使った魔法の完成度が低い場合はそうなるのう。無色の剣の覚えた魔法を使う時、その魔法の最高威力の状態が完全再現されるのじゃ。熟練度が低く、使った魔法の名に足る効果を発揮させられぬのならば、無色の剣が魔法を覚える事は無い。」
「つまりは覚えさせたい魔法は、これ以上無いと言うところまで極めたものでないといけない言う事ですか。」
「そう言う事じゃ。」
魔法を上手く発動させるには詠唱よりもイメージが大事になってくる。
自分が発動させたい現象を強く明確にイメージし、それを補うのが詠唱である。
村長が言っているのは、イメージが不完全で発動された魔法が中途半端な状態になっている場合の話だ。
冒険者の中にも自分では成功していると思っていても若干威力が足りていなかったり、若干速度が遅かったりと言った場合がよくあり、気付いていない者も多いのだ。
「リュンの魔法は問題無いんですか?」
櫓は先程出会ったばかりでリュンの実力どころか、何の魔法を使おうとしているかすら知らない。
「問題無かろう。使える魔法の種類は少ないが、魔法の扱いに関してはこの村でもトップクラスじゃ。」
「なるほど、楽しみですね。」
櫓は村長との会話を終えてリュンの方を見る。
深呼吸をして集中している様だ。
師匠の前で魔法のテストをされる様なものなので緊張しているのだろう。
「いきます。」
リュンはそう言うと同時に無色の剣を高々と真上に放り投げる。
回転して上がって行く剣を見上げながら、素振りで使っていた鉄剣を腰から抜き放つ。
そして大気中の魔力がリュンの周りに集まって行くのが感じられる。
「我が魔力を糧とし、愛剣の分身たる光の剣を想造し、敵を貫殺する。光剣弓!」
詠唱し終わるとリュンの周りに持っている鉄剣の分身が複数現れる。
全て光属性で出来ている様で、剣の形をしているが剣先から柄頭まで眩く輝いている。
「行け!」
鉄剣を空中で回りながら落下してきている無色の剣に向けながら言うと、周りに浮かんでいた光の剣が一斉に無色の剣目掛けて発射される。
全てが真っ直ぐに無色の剣を目指して突き進み、同時に着弾した瞬間、空が一瞬白一色で覆われる程明るくなった。
直後何事も無かったかの様に空から無色の剣が落ちてきて、地面に落ちる前にリュンが片手で受け止める。
「成功した様じゃな。」
「えっ?」
櫓は何も見た目に変化が無いので失敗したのかと思ったが違うらしい。
「よく見てみるのじゃ、刀身の色に変化があるじゃろう。」
村長に言われてよく見てみると、確かに作った時の白色から少しだけ銀色を混ぜた様な白銀色に変わっていた。
「随分と分かりづらいですね。」
「覚えさせたのが光の魔法じゃからな。火や水であれば分かりやすいぞ。」
覚えさせた魔法によって刀身の色に変化が現れる様だ。
魔法を覚えた無色の剣を調査の魔眼で視てみる。
白銀の剣 魔法名光剣弓を覚えた魔法武器。
使用者が魔力を消費する事により、イメージや詠唱に関係無く発動させられる。
魔法に必要な魔力の内半分は剣の内包している魔力が使われ、失った魔力は徐々に回復する。
刀身だけで無く名前も無色の剣から白銀の剣に変わり、説明欄にも変化があった。
「良くやったぞリュン。」
「有り難うございます、お師匠様に付けて頂いた修行の成果です。」
リュンも成功したからか少しホッとしている様だ。
「さて、これで準備は整ったのう。」
そう言って村長はニヤリと笑いながら櫓の方を向く。
「何の準備ですか?」
村長の笑いを見て櫓達の仲間となる準備では無いなと予想しつつも一応聞いておく。
リュンも何を言われるのか分かっていない顔だ。
「お主と戦う準備じゃよ。今からリュンと真剣勝負をしてもらうぞ。」
「・・理由を聞いてもいいですか?」
「これから人間達の住まう世界にエルフであるリュンが行くのじゃ。安心して任せられるだけの力を示してもらわねばな。リュンよりも実力の劣る者に託す気は無い。」
そう言う村長の顔は笑っているが真剣だ。
実力は稽古である程度知られているだろうが、リュンよりも強いと言う事をこの場でハッキリ見たいのだ。
いざと言う時リュンを守れるくらいで無ければ話にならないと言うのだろう。
「私からも頼む。更に高みを目指す為、強者と共に在りたい。」
リュンも真剣な眼差しで櫓を見て言う。
「分かった、本気でやろう。」
櫓もリュンをパーティーメンバーとして預かるのならば、後顧の憂い無い様に実力を示そうと思い誘いに乗った。
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