36話 櫓VSシルヴィー・フレンディア
女騎士リンネ・コーラルとの約束から一週間が経った。
この間櫓達は午前は依頼を受け、午後は自由行動ということにしていた。
ネオンは火魔法の適性があるため、自分の戦闘の幅を広げようと火魔法に関する本を読んだり、狩った魔物のどの部分が高く売れるかなど知識を得るために、魔物の解体に関する本を読んだりと読書漬けの一週間を送っていた。
櫓は午後からは一人で魔物相手に剣技、体術、スキル、魔法の練習をし、技を昇華させていた。
こちらの世界に来てから戦った魔王や魔人で、自分の使う技でも通用しない技もあることを学び、どんな相手が来ても戦えるようにしておきたいと考えたためである。
元の世界で身体に染み込んでいた剣技と体術は、性能が上がったこちらの身体で扱うことに慣れてきたのか、威力が上がってきていた。
スキルや魔法も新しい技の実験をしていくつかものにできていた。
魔人相手にオーバーキルをした魔法、天召・三雷よりも攻撃力の高い技、そして威力は少し劣るが使い勝手のいい技など様々である。
そうした日々を過ごして一週間が過ぎ、二人は約束の時間の少し前にギルドに来ていた。
「少し早く着き過ぎたか?」
「お忙しい貴族のお嬢様を待たせるのもあれですし丁度いいんじゃないですか?」
「まあそれもそうか、来るまで何か飲むか。」
「そうですね、店員さん注文お願いします!」
二人が果実水を注文し、飲みながら時間を潰しているとギルドの入り口から騎士が入ってくる。
櫓達の知っているリンネ・コーラルであるが、その横に騎士ではない一人の女性がいる。
ドレスとかではなく冒険者の様な格好をしているが、身に付けているものの質の良さやその佇まいから、例のお嬢様だとわかる。
金髪のストレートロング、十人が十人すれ違ったら振り返りそうな整った顔立ち、そして装備により隠れてはいるが存在を強く主張する二つの双房。
一瞬目が胸にいきかけたが、隣から不穏な気配が漂ってきた気がして思いとどまる。
ネオンも決して小さいわけではないが本人は少し気にしていた。
リンネがギルド内を見回し櫓達を見つけるとお嬢様を伴って近づいてくる。
席に着くとリンネはお嬢様の少し後ろに下がり待機する。
「あなた方が櫓さんとネオンさんですね。お初にお目にかかります、フレンディア公爵家長女のシルヴィー・フレンディアと申します、以後お見知り置きを。」
スカートを持ち綺麗なカーテシーで挨拶をしてくる。
そんなお嬢様の顔を見るとこの世界に来てから初めてみるものがあり、内心惹かれていた。
お嬢様の目がオッドアイだったのだ。
右目が綺麗な緑色で、左目はその緑色が少し白っぽくなった様な薄い緑色であった。
それが意味するのは、魔眼のスキルを持つ者であるということである。
(上手いこといけばその魔眼の能力も使うことが出来る様になるな。)
取り敢えず良好な関係を築いておいて損はないと判断して挨拶を返す。
「あー、はじめまして東城櫓と申します。」
「ね、ネオンと申します。」
「ふふっ、無理して丁寧な言葉を使おうとしなくても普段通りで大丈夫ですわよ。」
「そうか?それは助かるよ。」
思ったより接しやすいお嬢様で安堵する。
「まずは会っていただき感謝いたしますわ。それとネオンさん先日の件本当に申し訳ありませんでした。」
「い、いえお気になさらないでください。」
「そう言っていただけると助かりますわ。」
「その件はネオンが気にしてないって言ってたから、もうそっちも気にしなくていいぞ、それより本題に入ってくれ。なんで俺たちと会いたがっていたんだ?戦闘の話なんて誰からでも聞けるから話がしたいってわけじゃないんだろ?」
「そんなことはありませんわよ?お二人とお話しする機会があれば是非にと思っておりましたから。しかしそれよりも重要なお願いが櫓さんにありまして。」
「ん?俺達にじゃなくて俺に?」
「はい、櫓さんにです。」
櫓の方を見ながらこくりと頷いている。
「その内容は?」
「私と戦っていただきたいのですわ。」
それを聞いて櫓は内心頭を抱えていた。
そんなに面倒そうな人ではなさそうだと思った矢先に戦いを申し込まれたのだ。
確かにシルヴィーはお嬢様というよりは冒険者の様な格好をしているが、それはギルドに来るのでそういった格好をしているだけだと櫓は思っていた。
「理由を聞いても?」
「話せば長いのでそれはまた後日にしてほしいですわ。」
「断ることは可能なのか?」
「私的にはやめてほしいですけれど、そうですわね〜リンネから聞いたのですけれど、お二人は依頼を受けて資金を貯め馬車を購入するおつもりだとか。」
櫓はアリーネに馬車購入のことを話しているし特に隠してもいない。
アリーネと親友のリンネが聞いていたとしてもおかしくないので特に気にしてなかった。
「まあ買いたいとは思っているけど。」
「それなら私に戦って勝てば馬車をプレゼントいたしますわ、それなら戦う意味も見出せるのではなくて?」
「それは嬉しい条件だが、こちらが負けたらどうなるんだ?」
「どうもいたしませんわ。こちらから無理なお願いをしているのですから。そして戦う理由も後ほど話させていただきますわ。」
シルヴィーの提案は中々に悪くなかった。
櫓は日々生活しているにあたっていくつも欲しいものがあった。
元の世界で当たり前のように使っていた道具や、こちらの世界で使ってみたいなと考えた物などである。
そしてそれを手に入れるにしても作るにしても、全ては金が無くては始まらない。
そして馬車は良いものを買おうとすれば、値段は平民ではとても手の届かない金額になったりもする。
その馬車購入のために貯めてきた金を他のことに利用することが出来ると聞いては飛びつくしかなかった。
さらに隣でずっと黙ったままだったネオンもキラキラした瞳で櫓のことを見ている。
櫓が負けるなどと微塵も思ってなく既に馬車を手に入れたかという様な様子である。
「わかったその戦いを受けよう。馬車は貰い受けるぜ。」
「決まりですわね。リンネ、ギルドの裏の訓練場の使用許可を取ってきてもらえる?」
「はい、少しお待ち下さい。」
そう言ってリンネは受付に向かった。
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