178話 全力稽古
「天剣一式・睦月!」
上段に構えた剣を村長に向けて勢い良く振り下ろす。
「あまいのう。」
村長は居合いの構えから抜き放った剣で櫓の剣を下から向かい撃つ。
お互いの得物がぶつかり当った瞬間櫓の刀が弾き飛ばされる。
「くっ!」
櫓は追撃を恐れてその場から直ぐに下がる。
するとカバーする様にシルヴィーが横から割り込んで来た。
「槍連弾!」
シルヴィーの槍による高速連続突きが村長に放たれる。
一発一発が目にも留まらぬ速さと言える程なのに、全て正確に剣で弾かれている。
「シルヴィー!」
櫓が合図するとシルヴィーは攻撃の手を止めてその場から飛び退く。
それに合わせる様に櫓が村長の前に飛び込んで行く。
「破魔閃雷脚!」
体術とスキルの合わせ技で、足に雷を纏わせた蹴りを放つ。
村長は魔力を纏わせた腕でガードして受け止めた。
「ちっ、またか。」
櫓の足に纏わらせていた雷は村長に触れた瞬間に消え去り、普通に受け止められてしまっている。
この戦闘が始まってから櫓とシルヴィーが使うスキルや魔法がメリーの呪い魔法の様に全て掻き消されていた。
調査の魔眼で見ても村長の持っているスキルは身体強化のみだったので、魔法によるものだろうと櫓は予想していた。
村長の腕から大きく飛び退き後退する。
「中々良い蹴りじゃがまだ届かんのう。」
二人は村長に攻撃と言える攻撃を与えれていない。
逆に村長からは致命傷と言える攻撃は受けていないが、擦り傷等が増えていっている。
「強いですわね。」
「スキルや魔法が消されてしまうのも厄介だな。」
「それを抜きにしても基本的な戦闘能力が規格外過ぎですわ。」
シルヴィーの言う通りエルフである村長の魔法の腕は言うまでも無い。
しかしエルフが基本的に使用せず、苦手としているであろう体術や剣術等も相当な腕で、櫓と同等以上の使い手だ。
「さて次はどう来るかのう?」
村長は楽しそうに剣を構えて待っている。
「魔法やスキルは消されても得物を消す事は出来無い。速度を高める目的でのみ魔法やスキルを使用して、物理攻撃メインで行くぞ。」
「了解ですわ。」
シルヴィーは言うと同時に走り出す。
そして舞う様に双槍の連撃を振るっていくが全て見切られ防がれる。
しかし村長の得物が一つなのに対してシルヴィーは二つだ。
手数で上回るシルヴィーの攻撃を完全に防いでいるとは言え、そこまで余裕は無い。
櫓は段々と攻撃速度を上げていくシルヴィーを観察してタイミングを見計らう。
「ここだ、神速歩法・電光石火!」
魔力を大量に消費して生み出した多量の雷を足に纏わせる。
眩い足で時間を置き去りにする程の速度で動き、瞬間移動したかの様に村長の背後を取る。
「破脚!」
「っ!」
村長は僅かに反応したがシルヴィーの猛攻の中、背後に居る櫓からの攻撃まで防ぐ事は出来ず、回し蹴りを受けて吹き飛ばされる。
「や、やりましたわね。」
「ああ。」
やっと入った攻撃にシルヴィーが喜んでいる。
しかしチャンスを作る為に猛攻を仕掛けたシルヴィーの息は上がり、汗もかなりかいている。
櫓も魔力を大量に消費してしまったので、これまでに使った分と足して残り魔力はかなり少ない。
「ほっほっほ、やられたわい。流石にあの速度を反応するのは厳しいのう。」
吹き飛ばされた村長は回し蹴りを受けた部分を摩っているが、それ程効いている様子でも無い。
綺麗に回し蹴りが入った筈なのにダメージが通っていないのは、当たる瞬間に回避出来無いと判断した村長が身体強化のスキルを使ったうえに背中を魔装して、二重の強化を行なった為だった。
「平然としているか。」
「化け物ですわね。」
「二人共満身創痍の様じゃし、これくらいで終わらせるとするかのう。」
村長は剣を構えて魔装する。
二人も疲れが出てきているが簡単にやられるつもりは無い。
最後まで足掻く為に櫓は拳をシルヴィーは槍を構えて迎え撃つ。
「防いでみるのじゃ。」
村長は勢い良く剣を振るい魔力の斬撃を飛ばしてくる。
凄まじい威力の斬撃を二人は大きく左右に分かれてやり過ごす。
「わしから視線が外れておるぞ。」
「なっ!」
斬撃に気を取られた一瞬でシルヴィーの目の前に村長が移動していた。
「ほれ。」
振り下ろされた剣を交差させた槍で受け止める。
軽い掛け声とは違って剣は重く、支え切る事が出来ずに地面に叩きつけられ土煙が舞う。
シルヴィーは気を失い戦闘不能となるが魔法道具のお陰で外傷は無い。
「これで一人脱落じゃ。」
「ちっ!」
一方的にやられるのを待つよりももう一撃入れてやると、櫓は地面を蹴って向かって行く。
「手刀!」
残りの魔力を全て使って右手を魔装し叩き込む。
「最後まで良い攻撃じゃったぞ。」
村長も魔装した剣で迎え撃つ。
剣となんら切れ味の変わらない櫓の手刀は、村長の攻撃に対して若干拮抗する事が出来た。
しかし魔力が切れると同時に盛大に吹き飛ばされてしまい、櫓はそのまま意識を手放した。
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