176話 精霊並みの食欲
「そうか、妾はお主達に助けられたのじゃな。随分と迷惑も掛けた様で申し訳無い。」
紗蔽に一通りの経緯を説明すると櫓に向かって頭を下げてきた。
「成り行きだから気にするな。それよりここの事だが・・。」
「無論公害しないと誓おう。恩を仇で返す様な真似は嫌いじゃからな。」
紗蔽には現在エルフの森に来ている事も伝えている。
エルフの森の情報を人間の街で売れば一生遊んで暮らせるだけの金は余裕で得られるだろう。
欲に目が眩めば記憶の改竄等も視野に入れていたのだが取り越し苦労だったらしい。
「助かります紗蔽さん。」
「礼を言うのは此方の方じゃ。貴重なポーションを譲ってくれたのじゃろう?」
「私も櫓様に助けていただいて、そのお礼の様な物ですから。」
「しかし困ったのじゃ、妾はその対価となり得る物を持っておらんのじゃ。」
一見紗蔽は長刀以外に目立って貴重そうな物は所持していない。
万能薬の代わりを櫓に差し出したいが、差し出せる物が無くて困っている。
「さっきも言ったが成り行きだから気にするな。謝礼を求めてやった事じゃ無い。」
「それでも何か礼がしたいのじゃ。今は無理じゃからいずれな。」
紗蔽は逆に命を救ったのに謝礼を求め無い櫓に心の中で驚いていた。
そして紗蔽は要らないと言われてもしなければ気が済まない性格であったので、対価は必ずいつか払おうと決心する。
「まあ分かった、取り敢えずこの話は終わりだ。紗蔽は目が覚めたばかりなんだし安静にしてろ。」
「エルフの森に居るのじゃぞ?こんな体験二度と無いかもしれんのに寝ている事なんて出来無いのじゃ。」
そう言ってソファベッドから立ち上がる紗蔽。
しかし立ち上がった瞬間よろめき、フェリンに支えられている。
「だ、大丈夫ですか?」
「だから言ったろ、無理するな。」
「これは疲労では無いのじゃ。」
そう言った直後に紗蔽のお腹からグウウウウゥと言う大きな音が響き渡る。
メリーの呪いで紗蔽に掛けられていた呪いの進行は止められていたが、それ以外は通常通りに機能していた。
紗蔽は倒れてから三日近く何も食べていないので当然と言えば当然である。
食事用のテーブルに移動して、ボックスリングの中から作り置きしていた料理を取り出して並べて行く。
すると紗蔽は物凄い勢いで料理を平らげていった。
三日飲まず食わずだったとは言え、よくそんなに食べれるなと言う程の大食いであった。
「ふぅ、生き返ったのじゃ。」
満足している紗蔽の前には空になった皿が山積みにされている。
「それだけ食べられたら問題無さそうですね。」
「うむ、妾も探索に行くぞ。」
紗蔽は元気良く立ち上がり言う。
「体調も良さそうだしまあいいか。フェリン、村長の言っていた場所を目指して軽く案内してもらっても良いか?」
「はい、それでは参りましょう。」
三人は馬車を降りてフェリンの先導の下エルフの村を歩いて行く。
「珍しい魔物にでもなった気分じゃな。」
遠巻きに見ているエルフ達は皆物珍しそうに櫓と紗蔽の事を見ている。
「人間と関わる機会がそもそも無いから珍しいんだろう。」
ティアーナの森には結界が張ってあるので、人間は寄せ付け無い。
そして自分達から人間の街に繰り出す事も危険が伴うのでしないだろう。
結果エルフが人間と交流する機会は無いので、会う事自体が初めての者も居るのだろう。
そんなエルフ達の視線を受けながら歩き、中心部に高々と聳え立っている世界樹の近くまで来る。
「言い忘れていたのですが、世界樹には理由無く近付く事が禁じられています。円形に作られている堀から向こうは立ち入ら無い様にお願いしますね。」
世界樹を中心に周りに堀があり、向こう側には世界樹から落ちた葉や枝が大量に落ちている。
逆に堀の外側には回収されたのか殆ど落ちていない。
万能薬以外にも様々な魔法道具の素材になるので、取ら無い理由はないだろう。
「それと世界樹とこれから向かおうとしている訓練場以外には特に案内する場所が無いんですけど。」
「娯楽施設等は無いのか?」
「小さな酒場と魔法道具を売っている店等は有りますけど、人間の街と比べても劣ると思いますので訓練場に向かっても良いかと思います。」
そう言った店も村の者達の間でしか経済が回らないので、少ない数で充分なのだろう。
「それなら訓練場に案内してもらうか、紗蔽もそれでいいか?」
「うむ、エルフの村の酒場は興味が有るが酒は逃げんから訓練場に行くのじゃ。」
紗蔽にはティアーナの森の村長に稽古を付けてもらう話は既にしている。
紗蔽も中々実力が有る様なので、強者との稽古は歓迎らしい。
二人共訓練場行きで大丈夫と言うのでフェリンの案内で向かい、大きな広場に出た。
そこでは仁王立ちで笑っている村長と、地面に荒い息遣いで倒れているネオン、ミズナ、ユスギの姿があった。
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