173話 エルフの㊙︎情報
フロッドに馬車を先導されながら少し森を進むと、開けた場所に出た。
そこには森の木々とは比べ物にならない程巨大な木が立っており、周りにはその大木から落ちたと思われる大きな草木が落ちている。
そして大木の周りは円形の空間になっており、森の木々も一本も生えておらず、円形の外周にある木々にはツリーハウスの様な物が作られていた。
「着きました、ここがティアーナの森のエルフの村です。」
フロッドは振り返って馬車の御者をしていた櫓とメリーに言う。
誤解が解けてからのフロッドはフェリン以外にも丁重な言葉遣いをしてくれる。
「取り敢えずフェリンの家を教えてくれ。説明はされてるとは思うが挨拶はしておきたいからな。」
「分かりました、此方です。」
そう言ってフロッドは中心に立つ大木を除けば一番大きいだろうと思える木に向かって歩いて行く。
「何となく分かってると思うけど、真ん中に立っている大きな木が世界樹と呼ばれる物よ。」
櫓が世界樹を物珍しそうに見ていたのに気付いてメリーが教えてくれる。
「やっぱりそうなのか。エルフの森には必ず有るのか?」
「ええ、世界樹とエルフは共存関係にあるの。世界樹は外敵から身を守る手段を持ち合わせていないから、代わりにエルフが守る。そしてその礼として世界樹は私達エルフに貴重な魔法道具を作る素材となる草木を分け与えてくれるの。」
万能薬と言うこの世界で最上の効果を齎すポーションを作成するのに必要な世界樹の葉と言う素材も世界樹から落ちた葉の事を言うのだろう。
遠目から見ても地面に落ちている葉一枚一枚がキラキラと輝いており、若干ではあるが魔力まで帯びている。
「仮に守り切れず世界樹が倒されたらどうするんだ?」
「そんな事はあってはならないのだけど、世界樹が無い場所でエルフは暮らして行けないわ。私達エルフが弓や魔法を得意としているのは良く知られている事だとは思うけど、それは世界樹のお陰だから。」
「世界樹のお陰?」
エルフが弓や魔法を得意としている事は勿論櫓も知っている。
しかしそれは種族的な物だと思っていたがどうやら違うらしい。
「世界樹は我々エルフの始祖が植えられた苗木が成長した物なのです。始祖が特別な魔法を使い育てられた世界樹は、エルフに恩恵を与えて下さる魔法植物となりました。その恩恵こそが弓と魔法の才なのです。自分の生まれ育った場所の世界樹が健在で有る限り恩恵を受ける事が可能です。」
馬車を先導していたフロッドがメリーの説明を継ぐ様に話した。
エルフ達の間では一般常識の様だが、この世界に来てから相当な書物を読み漁り知識を付けていった櫓でも初耳の情報だ。
人間達には伝わっていない情報みたいだが、フェリンの件で信頼を得たのか話してもらえた。
「つまり世界樹が失われる時に才能も失うと言う事か。」
「その通りよ、ちなみに他の村に行ってもその世界樹から恩恵を受ける事は出来ないわ。自分の始祖であるエルフの系譜にしか始祖の育てた世界樹の恩恵は働かないの。」
各エルフの森には世界樹がそれぞれ有るらしいが、それを育てた始祖エルフは全員別人らしい。
エルフと言う種族で一括りにされてはいるが、森毎に系譜は分かれているのだ。
「なのでエルフは世界樹を命懸けで守らなくてはならないのです。世界樹を失う時、我々は戦う手段を失うも同然なのですから。そうなれば一族は皆、人間達の手に落ちてしまうでしょう。」
「そんな重大な情報を人間の俺に教えてよかったのか?」
目と鼻の先に有る世界樹さえ倒してしまえばこの森に住まうエルフ達は皆戦闘手段を失ってしまう。
エルフを奴隷にしたいと思う人間にとっては重要な情報だ。
「フェリン様を悪党から奪還し送り届けて頂いたのです。今更櫓様を疑う事はありません。」
フロッドの中ではオークションでフェリンを落札した事が、悪党に捕まったところを救い出したシナリオに書き換えられている様だ。
エルフの森にはオークションなんて制度は無いので分からないのも仕方が無い。
「信頼してもらえるのは有り難いが、俺達以外の人間に対しては充分に警戒した方がいいぞ。」
「それは分かっております。これでも警備隊の隊長を担っておりますから。」
そう言われて先程のフロッド達を思い出した。
此方の話を聞かず一方的に話を纏めて追い返そうとしていた。
櫓達の様にエルフを返しにわざわざ来る物好きは少ないだろうから、先程の警戒し過ぎなくらいが丁度いいのかもしれない。
「そもそもエルフが人間達に心を許す事は滅多に無いから安心していいわよ。櫓君達が特別なだけだわ。」
人間の世界で暮らすメリーも存在を明かせる相手は慎重に見極めなくてはならないと言っていた。
そう考えると結構信頼されている様だ。
「着きました、此方がフェリン様の祖父であるティアーナの森の村長の家です。この時間は家に居られると思います。私は警備に戻りますので、何か用があれば森の方に来て頂ければ、それでは失礼します。」
フロッドは御者台に向けて礼をすると森の方に戻って行った。
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