172話 姫の発言力
「全員木から降りて武器を捨てろ。」
櫓は言いながらエルフと一緒に木から降りて、馬車の近くに行く。
「皆気にせず攻撃をしろ、人間の命令に従う必要は無い!」
指揮官エルフが他のエルフ達に呼び掛けるが、首元に突き付けられている霊刀を見て、悔しそうな顔をしながらも櫓の言う通りにする。
「そいつらの行動を縛れメリー。」
「えっ!ちょっとやり過ぎじゃないかしら?」
「説明が終わるまでだ、暴れられると面倒だからな。」
同族に対して使うのは気が引けたが、先程の会話の成り立たなさを知っては、同じ事の繰り返しになりそうだと思ってしまったので、謝りながら束縛の呪いを掛けて自由を奪う。
「これで準備完了だな。」
「エルフが目的なのだろう人間。私はどうなっても構わないが他の者達には・・。」
「お前が喋ると話が進まないから黙って俺の説明を聞け。」
「ぐっ、何だ?」
自分の命と仲間を人質にされてやっと話を聞く体制に入ってくれた。
「話は二つある。一つ目だが、フェリンの救援依頼の為に・・。」
「貴様!フェリン様を呼び捨てで呼ぶとは何たる・・。」
「俺が話している最中だ、黙って聞いていろ。」
「うっ。」
霊刀を突き付けられているのに強気に怒鳴って来るエルフ。
話が進まないので威圧のスキルも発動して強制的に黙らせる。
「他の森に救援依頼に向かったエルフは帰還したか答えろ。」
「未だ帰って来ていない。」
櫓達が普通の馬車で掛かる時間の約半分でティアーナの森まで来たので間に合ったらしい。
「そうか、なら帰ってきたらまた他の森に直ぐ使いを出してもらう事になるな。」
「どう言う事だ?」
「メリー、連れて来てくれ。」
「分かったわ。」
メリーは馬車の中に入って行き、中に居たフェリンを連れて出て来た。
「フェリン様!?」
フェリンを見たエルフ達は皆盛大に驚いている。
自分達が探し回り、連れ去ったであろう人間の国に戦争を仕掛けてまで取り返そうとしていた人物がいきなり目の前に現れたので無理もない。
櫓に霊刀を突き付けられていたエルフは、それを忘れたかの様にフェリンに近付こうとまでしている。
「これで誤解だと分かったか?」
「そうか、お前達がフェリン様を連れ去ったのだな?」
指揮官エルフは納得がいったとばかりに言う。
「メリーと言いエルフは本当に人の話を聞かずに自分で結論を出そうとするな。」
櫓はため息を吐きながら呆れる。
「私ここまでじゃないと思うけど・・。」
そう言うメリーの声はいつもの元気が無い。
実際今迄に自分の早とちりで櫓に迷惑を掛けた事が何回か有ったので強気に言えない。
「似たようなものだ。お前の口から代わりに説明してやってくれフェリン。」
「貴様、またフェリン様の事を!」
「口を慎みなさいフロッド。」
櫓にまたもや突っかかろうとする指揮官エルフことフロッドを叱る。
まさか自分が怒られるとは思っていなかったのか、フロッドはフェリンの言葉を受け驚き固まっており、拘束されているエルフ達も驚いた顔をしている。
それからフェリンは自分が捕まった事、オークションで櫓に買われた事、ティアーナの森に返す為にここまで連れて来てもらった事等をエルフ達に説明して行く。
話せば話すほどエルフ達は櫓達に失礼な行いをしたと反省していき、現在は拘束を解かれて土下座しそうな勢いだ。
「と言うのが私が捕まってからの出来事です。私の不注意で招いた事故でしたが、大恩ある櫓様方に失礼は無い様お願いしますね。」
「「「「「はっ!」」」」」
エルフ達はフェリンの言葉は素直に聞いて頷いている。
「今度こそ誤解は解けたな?」
「はい、早とちりで失礼をしてしまい申し訳ありませんでした。」
「私の事も裏切り者扱いしてくれたわね?」
メリーはエルフの裏切り者と言われた事を気にして、ジト目でフロッドを睨んでいる。
「いや、それは、本当に申し訳ない。」
フロッドが櫓とメリーに向けて頭を下げて謝罪する。
「分かってくれたならいい。フェリンはちゃんと返すから、また誤解を受けない様に他のエルフ達にも伝えてくれないか?」
ティアーナの森には他にもエルフ達が住んでいる筈だ。
そこに行ってからまた先程の様なやり取りをするのは疲れる。
「分かりました、お前達は先に戻ってフェリン様のご帰還を村の者達に知らせて来るのだ。私は客人の案内をする。」
フロッド以外のエルフ達は深々とお辞儀をして来た道を戻って行った。
「では我々も参りましょう。」
「その前にフェリン、紗蔽の治療についてだがどうする?」
櫓達にはフェリンを返す他に紗蔽が黒尽くめの男に掛けられたであろう複数の呪いを解呪する目的もある。
「一先ず村長が居る私の家に行きましょう。万能薬も幾つか置いてあったと思いますので。」
「分かった、じゃあ案内を頼む。」
櫓とフェリンは馬車に乗り込んでフロッドの先導の元、エルフが暮らす村に向かった。
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