170話 謎の黒尽くめ
「君がこの村の人達を手に掛けた犯人ってことでいいのかな?」
ユスギは油断無く全身黒尽くめの者に対して拳を構えながら言う。
「冒険者・・?はぁ、先程も厄介な冒険者を追い払ったばかりだと言うのにまたですか。どれだけ追い払おうと次々に湧いてきますね。」
ローブと仮面で性別が分からなかったが、発した声から男だと判断出来た。
「申し訳ありません、貴方達を早く連れて行きたいのですが邪魔が入ってしまいました。これもきっと人間と言う醜い種族故の試練なのですね。」
黒尽くめの男は後ろを振り返って言う。
そこには同じく黒のローブと仮面に覆われている者が二名地面に横たわっている。
斬られた跡があり血を大量に流していて既に死んでいる様だ。
男が一人でぺらぺらと喋っている内に情報収集しようと、櫓は調査の魔眼で三人を視る。
(ちっ、視えないか。何かしらの対策はしている様だな。)
スキルだけで無くそれ以外の一切の情報が読み取れなかった。
「無視されるのは嫌いなんだよね、STRエンチャント!でりゃあ!」
ユスギが詠唱省略のスキルによって短縮された詠唱をすると、拳が淡く光り輝く。
そして男に向けて拳を突き出すと、拳圧で空気が打ち出される。
「威力任せの下品な攻撃ですね。しかし貴方達が傷つくのは困ります。」
男は魔法道具の指輪を付けた腕を前に出して魔力を流す。
すると障壁が展開されてユスギの拳圧を完璧に防いだ。
代わりにパキンと言う音と共に指輪が粉々に砕け散った。
「安物では簡単に壊れてしまいますか。何度も受けるのは避けたいところですね。」
そう言って男は反撃とばかりに懐から取り出したドス黒い色をした小さな球を投げつけてきた。
「あれは触れてはいけません、避けて下さい。」
超直感のスキルが危険だとネオンに告げて、それを櫓とユスギにも伝える。
球の速度は遅かったので回避は簡単であり、櫓はその球に調査の魔眼を使う余裕まであった。
「あれが呪いの原因みたいだな。球毎に違う呪いが封じ込められているみたいだ。」
飛んで来た球には麻痺や幻覚等の呪いが封じ込められていた。
櫓達に躱された球は地面にぶつかって砕け散り、黒いモヤが出たが周りに呪いの対象となる者が居なかったからか、空気に溶ける様にして消えて行った。
「やはり一人での戦闘は部が悪いですね。ああ、早く貴方達を連れて行き、新しく生まれ変わってもらわなくては。ここは撤退が正解の様ですね。」
「逃がすと思うか?」
櫓は雷帝のスキルで手に雷を纏わせて男に向かって放つ。
球以外にも呪いを掛ける手段があるかもしれないので、未だ迂闊に近付いたりはしない。
男は再び別の指輪で障壁を展開して櫓の雷をやり過ごす。
「仲間を失った今では倒すのも逃げるのも難しいですか。仕方ありません、早速使う事をお許し下さい魔王様。」
「魔王だと!?」
櫓の疑問等意に介さず男は懐から透明で綺麗なクリスタルを三つ取り出す。
それは櫓にも見覚えがあり、ミズナと出会うきっかけになった隷属のクリスタルだ。
中に入っている魔物は使用者に隷従させる事が出来る魔法道具である。
男はそれに魔力を込めるとそれぞれ村人の死体の近くに投げて召喚と呟く。
三つのクリスタルから三体の魔物が出てくるが、どれもDランク以下の魔物で櫓達からすれば足止めにもならない様な雑魚であった。
「こんな奴らで逃げる時間を稼ぐつもりかな?」
ユスギも戦った経験の有る魔物ばかりで拍子抜けしている様だ。
「愚かな人間共の相手は任せましたよ。融合しなさい!」
男が命令すると魔物達は直ぐ隣にあった村人の死体に融合のスキルを発動させる。
融合と言う言葉を聞いて真っ先に動いたのは櫓だ。
その意味を理解して近場の魔物を仕留めようと飛び掛かるが、融合のスキルは発動と同時に終了して魔人となった村人が向かい打ってきた。
「くっ、厄介な事を。」
魔人は元の魔物の見た目やスキル等の特徴を受け継ぎ、生きていた頃の人間の身体の性能をベースに強さが決まるが、最低でもBランク相当の魔物に匹敵する強さを持っている。
それが同時に三体も出て来たのだ。
Aランクに届く強さを持っている可能性もある事から、慎重に戦うしかない。
「魔人達が勝っても負けても撤退する時間は十分稼げそうですね。クリスタルの消費は痛手でしたが、それを勝る実験の結果を得られたのは重畳。」
それだけ言うと黒尽くめの二人を抱えてその場から消え去ってしまった。
後に残された櫓達は時間が掛かってしまったが冷静に対処して三体の魔人を倒す事が出来た。
しかし男が撤退してから時間が経ってしまい追跡する事は出来なかった。
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