35話 貴族にも良い人はいる
櫓達のテーブルの前で立ち止まったリンネを見る三人。
座っている三人が何かを言う前にリンネはその場で深く頭を下げた。
「先日は大変な無礼をしてしまい誠に申し訳ありませんでした。止めに入る間も無く、一歩間違えれば取り返しのつかないところでした。許していただきたいとは言いませんが、ユーハの取った行動がお嬢様の本意だとは思わないでいただけると幸いです。」
リンネは櫓とネオンに対して頭を下げつつ発言してくる。
櫓はリンネの様子を見て素直に驚いていた。
それはこの世界に来てから調べた情報により、貴族がどう言った存在か理解していたからである。
基本的に貴族が平民に頭を下げることなど滅多にない。
そして奴隷に頭を下げた例は存在しない。
それを人が普段より少ない昼のギルドではあっても、人の目がある前で行っているのだ。
当然周りで食事をしていたり、依頼ボードの前で依頼書を見ていた冒険者達が、騎士が冒険者に対して頭を下げている光景を見てざわめいている。
(周りがざわめくのもわかる。この騎士は名字を持っている、つまり貴族ってわけだ。普通はありえない光景なんだろうな。)
櫓がリンネの謝罪に対してそんなことを思っていると、アリーネが怒っていると判断したのか櫓に話しかけてくる。
「櫓君、気持ちはわかるけど許してあげて?リンネは平民とか貴族とか関係なく私の個人的な友人なのよ。今日もわざわざ謝罪をしたいから取り次いで欲しいってリンネから言ってきたんだから。」
「いや、別に怒っていたわけじゃないくて驚いていただけなんだけどな。まあ確かに昨日の件については思うところはあるが、あんたには何もされてないからな。それに被害者は俺ではなくネオンだし。」
ネオンの方をチラッと見ながら櫓が言う。
見られたネオンは話が振られると思っていなかったのか、相手が貴族であるためか緊張していた。
「わ、私も櫓様に守っていただいて傷一つありませんので、どうかお気になさらないでください。」
「そう言っていただけると助かります。」
ネオンの言葉を聞き心底安心したといった感じにリンネの顔が柔らかくなる。
「まあネオンが気にしてないなら俺からは特にない。だが次はないぞ、俺の仲間を傷つける奴を俺は許さない。」
「分かっています。」
「取り敢えず二人に許してもらえてよかったわね。でもまだ話はあるんでしょ?座ったら?」
アリーネに話しかけられて櫓達の反応を伺い、特に何もなかったので、リンネは失礼しますと一言言ってから椅子に座った。
「今日訪れたのは、謝罪の他にユーハについてお伝えしにきました。あの後私はお屋敷に戻りお嬢様にギルドでの出来事をお伝えしました。お嬢様は私から事情を聞くとユーハに自宅謹慎を言いつけられました。そして私に今回は申し訳なかったと伝えて欲しいと言われました。」
「櫓君やネオンちゃんはこの街の出身じゃないから、わからないかもしれないけど、フレンディア公爵家のお嬢様と言えば時間を作るのも大変でそう簡単に足を運ぶ事も出来ないから、伝言でも怒っちゃだめよ?」
「さすがにそれくらい察せるよ。伝言でも謝罪してくるだけ、普通の貴族とはだいぶ印象が変わる。」
「確かにそうね、リンネも貴族らしくないから仲良くなれたんだしね。」
「私は歴とした貴族なのですが。」
アリーネの貴族らしくないという発言に少しむっとなるリンネ。
このやり取りからも二人が身分を超えて仲がいいのがわかる。
「まあ話はわかった。昨日は一人で暴走しただけだってことだな。それで話は終わりか?」
「はい、お伝えしたかった事は伝え終えました。そしてそれとは別に私からお願いがあるのですが・・・。」
「お嬢様と会って欲しいってやつか?」
「はい。先に無礼を働いたのは重々承知していますが、どうかお願い出来ないでしょうか?」
再び頭を下げ頼み込んでくるリンネ。
櫓は面倒だなとは思いつつも、貴族らしからぬリンネ、そしてその主に少し興味を持ってしまったため了承することにする。
「はぁ、わかった会ってやるよ。いいかネオン?」
「櫓様の決定に私は何も文句は言いませんよ。」
「だってさ、こっちから屋敷に向かえばいいのか?」
「いえ、お嬢様が出向かれるのでその時会っていただければ。一週間後の十三時頃にギルドで待ち合わせでいかがでしょうか?」
「わかった、その時間にギルドで待ってる。」
「ありがとうございます。それでは私はこの事をお嬢様にお伝えしなければいけませんので、失礼致します。」
軽く頭を下げつつそう言って足早にリンネはギルドを出て行く。
「ありがとうね、リンネの頼みを聞いてくれて。」
「まあ元々あの騒ぎがなければ会うつもりだったんだ気にするな。しかしこれだけ会わせたがるってどんな用なんだろうな?」
「会いたがっていると言ってたので話がしたいだけじゃないんですかね?」
「それだけで終わってくれればいいんだけどな。」
櫓にはただ会って話をして解散になるとは考えられなかった。
面倒な事態だけにはならないで欲しいなと思うのだった。
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