168話 呪いを呪う
女性はこの世界に来てから初めて見る和服の様な着物を着ていたが、血だらけなのと寝るのには適さないだろうと女性陣が楽な格好に着替えさせた。
一時間程怪我をした女性を馬車の中に運んで看病しているのだが、一向に目を覚ます気配が無い。
それどころかどんどん顔色が悪くなっていっている。
櫓は何か情報を得られないかと調査の魔眼を発動させて視てみる。
名前 紗蔽
種族 人間
年齢 二十歳
スキル なし
状態 呪い(衰弱、自壊、発熱、麻痺、幻聴)
「何だこれは?」
調査の魔眼で視た内容に思わず目を疑った。
これ程まで状態が異常の者を櫓は見た事が無かった為だ。
「どうしたの?」
「目覚め無いから少し調べてみたんだが、呪いに掛かってるようだな。」
「え?櫓君そんな事出来るの?」
神眼については希望の光やフェリンには教えていない。
なのでいつの間にか調べた櫓に疑問を持ったのだ。
「俺の持ってるスキルの効果だ。言っておくが教えはしないぞ。」
一時的な協力体制を取っているだけで完全な仲間になった訳じゃ無い。
ミズナ曰く神眼は神のスキルらしいので、他のスキルの様に軽々しく教える気は無かった。
「そんな事よりもどんな呪いですの?」
「衰弱、自壊、発熱、麻痺、幻聴の五つだな。」
「そんなに!?何をしたらそんな事に・・。」
「櫓君達は治せる?」
メリーに訪ねられると言う事は、自分達は持っていないのだろう。
「呪いの専門家だろ?何かないのか?」
メリーは戦いで呪縛の魔眼以外にも呪い魔法を扱っている。
何か呪いを解く方法を知っているのではないかと考えた。
「呪いと言っても分野が違うのよ、治せる手段は無いわ。」
知らない者達からすれば呪いと一括りに同じ物と判断されるが、実際に扱っている者達からすれば全然違うのだ。
メリーが扱う呪いは動きを止めたり行動を制限したりする物で、紗蔽に掛かっている呪いは常時発動して対象者の生命を脅かす類の物だ。
効果が違えば治す方法も大きく変わってくる。
「悪いが俺たちにも無いな。呪いを治せる魔法道具を作ろうかとも考えたが、素材が圧倒的に足りない。」
「そんな、じゃあこの女の人は・・。」
「手段はあります。」
それまで黙っていたフェリンが発言し、皆の視線を集める。
「何をすれば良い?」
「すみません、今は出来無いのです。エルフの森に戻りさえすれば助けられると思います。」
「そっか!万能薬を使うんですね!」
メリーも思い出したかの様に言う。
その万能薬と言う物の名前をこの世界で聞いた事が無かったので、錬金術の名人で調べてみる。
万能薬 現存するポーションの中で最上位の効果を発揮するポーション。振り掛けられた者のあらゆる状態異常を治し、振り掛けた部分の失った部位を再生させる。かなり苦いが飲んだ者の自己治癒能力を高めて、失った体力や魔力を全て回復させる。
現在櫓が持っている中で一番優れている上級ポーションと比較しても、性能が段違いである。
しかし作るには素材として世界樹の葉が必要だと言う。
おそらくこれはエルフの森に行かなければ入手出来無いのだろう。
「それなら早速向かいましょう。」
「待って下さい、この方が複数の呪いに掛けられた原因の調査を提案します。」
ネオンの言葉を遮って藍が原因を調べた方がいいと言ってくる。
「そんな事してたら手遅れになっちゃうよ!」
ユスギもネオンと同じく早く向かった方がいいと思っている様だ。
「しかしこのままでは二の舞となる方が出る可能性もあります。」
「でもこの方が・・。」
「それは心配いりません。治せなくても止められますよねメリー?」
「なるほど!流石は藍ね、任せておいて。」
メリーは紗蔽に手を向けて詠唱を始める。
その詠唱は長く、一分近くも続き魔法陣が現れ吸い込まれて消えていった。
「私が呪いを掛けて、時間を止めたわ。二十四時間は強力な呪いであっても時が進まないから大丈夫よ。」
そう言うメリーは大量の魔力を消費した様で大分疲れている。
「それなら進行方向からは少しズレるが、向かってみるとするか。悪いなフェリン寄り道してしまって。」
「予定よりも早いペースで進んでいるのですから、お気になさらないで下さい。」
「なら出発するか、血の跡を辿って行ってくれミズナ。」
「一応私も御者台に乗っていますね。」
そう言ってネオンは外に出て行った。
獣人であるネオンがこの中で一番五感に優れているので、何か変わった事が有れば一番に気付く筈だ。
「どんな相手か分からないから慎重にな。」
櫓は御者台に座る二人に言う。
と言うのもこの女性が外見からかなりの腕前だと判断出来た為だ。
今は弱っているが相当鍛えらていると思われ、所持していた長刀も良く使い込まれている。
これ程の人物に深傷を追わせ、複数の呪いを掛けるとは只者では無い。
現在は戦力が多くなっているが油断し無いで調査しようと話し合った。
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