167話 美味しい料理の為に
「ズドオオオン!」
「そろそろか?」
櫓は網の上で焼かれているトラップフィッシュの串焼きを手に取り味見する。
「グガアアアア!」
「上出来だな、新しく作った調味料が肉の旨味を良く引き出している。」
大量にダンジョンで取れたトラップフィッシュの肉を使って、幾つか作った新調味料の実験をしていた。
「ゴオオオオオ!」
「多めに焼いて在庫増やしておくか。どうせ直ぐに無くなるしな。」
「ドスン!」
「うおっ!おい、気を付けて戦え、当たるところだったぞ!」
魔物が飛ばされてきて櫓の近くに落ちたのだ。
もう少しで料理中の網に当たり、串焼きが台無しになるところだった。
「ごめんごめん、力入り過ぎちゃったよ。」
遠くでユスギが謝っている。
現在櫓達は魔物の群れに囲まれて襲われている。
そんな状況で何故料理をしているのかと言うと、魔物に対しての戦力が過剰な為だ。
魔物はCランク以下ばかりなのに対して、自分達のパーティーに加えてAランクパーティー希望の光もいる。
更に言うとフェリンも後衛としてかなり戦えていた。
魔法のエキスパートなだけあって、様々な魔法で魔物達を翻弄し倒している。
「ふう、全部倒し終えましたね。」
「魔石だけ回収して魔力タンクの空箱に入れておきましょ。素材は大した事無いのばかりだから。」
「本当にこの馬車って快適で便利で最高だよね。私達にも欲しいな〜。」
ユスギがチラッチラと櫓の方を見ながら言う。
「昨日も言ったろ、却下だ。」
「ケチ〜。」
ユスギのおねだりをバッサリと切り捨てる。
櫓達の馬車に乗って様々な便利な物や機能を体験して、自分達の移動用に作って欲しいと希望の光の三人から言われた。
しかし櫓は自分達以外に作るつもりは無いので、答えはノーだ。
耐性の腕輪は前に頼まれてメリーと藍に作ってあげたが、馬車となると規模が違う。
この世界には存在しない元のいた世界の便利グッズが満載なのだ。
同じ様な馬車を作ろうと思えば作れなくは無いが、一人でやると相当な時間が掛かる。
それに外観は普通の馬車とそう変わらないが、内装はこの世界の者達からすれば異質過ぎて目立つので、有名な希望の光に使われると注目されてしまう。
初見では何の道具か分からないだろうが、その機能を知れば次々と作って欲しいと言う者が現れるだろう。
櫓は一応女神との約束が有るので、馬車売りをして時間を浪費する訳にはいかないのだ。
「残念ですが諦めて下さいユスギ。」
「そうよ、無理強いは良くないわ。」
櫓にとって意外だったのはメリーが直ぐに諦めた事だった。
一番食い下がって来そうだと思っていたのだが、今回のフェリンの件で相当恩を感じているらしい。
本人も言っていた事だが、何においても不遇な扱いを受けている同胞を救いたいので、それよりも優先される事は無いのだろう。
「それにしても随分進んだわね。」
「予定よりもかなり早いですね。櫓さんは五日と言っていましたが、三日で着きそうなペースです。」
御者を出来る者が増えたので、交代しながら馬が休んでいる時間以外をひたすら走っているので、かなり距離を稼げている。
既に鉱山都市ミネスタまでの距離の半分近くまで来ている。
「昼食の串焼きは出来てるから、自由に取っていっていいぞ。」
櫓が言うと待ってましたとばかりにミズナとユスギが数本を掻っ攫っていく。
新調味料で味付けされた串焼きは大好評で、多めに作ったのにどんどん数が減っていく。
「ん?櫓様、あっちから何か来てますけど見えますか?」
隣で串焼きを食べていたネオンが何かに気付いて、ある方向を指指す。
周りの者達もその方向を見ているが、視力が優れている獣人のネオン自身にもそれが何なのか分からない程の距離なので、櫓も含めて誰一人何も見えない。
ネオンが櫓に聞いたのは、遠見の魔眼を使えば櫓の視力がネオンを上回るので、それが何なのか判断出来ると思ったのだろう。
櫓は神眼のスキルを発動して遠見の魔眼を選択する。
「っ!人だ、怪我をしている!」
ネオンの言った方向を視ると足取りがおぼつかない女性が此方に歩いて来ている。
怪我をしている様で血が滴っている。
「ちょっと行ってくる。」
それなりに距離があるので、一番早く移動出来る櫓が雷帝のスキルを使って瞬時に移動する。
「おい、大丈夫か?」
女性に話し掛けると、安心したのか力尽きたのかその場で倒れる。
櫓は取り敢えずの応急処置として、上級ポーションをボックスリングから取り出して振り掛ける。
怪我をした箇所は治ったが、流した血までは戻らない。
女性の歩いて来た方を見ると転々と流した血が何処までも続いているので、相当な量を流したのだろう。
運んで行こうかと思うと、ミズナが馬車を運転して来てくれた。
取り敢えず目が覚ますまで安静にさせようと、女性陣がゆっくりと中に運び込みソファーベッドに寝かせた。
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