166話 進化した宝馬車
「そろそろお昼のご飯の時間だよお兄さん!」
「ご飯・・・!」
ユスギとミズナが二人で食事を要求してくる。
現在はフェリンの故郷であるティアーナの森から一番近くにある五大都市、鉱山都市ミネスタを目指して旅をしている。
朝早くから宿を引き払って出発したので、朝食は馬車の中で手料理を櫓が振る舞った。
櫓の料理を食べた事の無い四人の前に、今までに見た事の無い料理が出て来て、その美味しさに四人共が驚いていた。
その中でも特に影響されたのがユスギであり、食事大好き精霊と一緒になって騒いでいるのだ。
「カレーの入った鍋出しといてやるから、勝手に盛って食ってくれ。」
櫓は前に一気に大量に作った大鍋をボックスリングから取り出して置いておく。
「これはどうやって食べるの?」
「ご飯の上に掛けると絶品・・・。」
説明しながらミズナが大盛りのカレーを盛り付け、ユスギもそれに倣っている。
とても精霊には見えないミズナだが、エルフのフェリンには何となく分かったらしく、敬う様な視線を向けていた。
ちなみにメリーは出会った時から今まで分からなかったらしく、正体を知って驚愕していた。
シルヴィーと藍は、馬車内に新たに出来た書斎部屋に篭っている。
歴史、魔物、スキルや魔法、物語等多種多様な本が大量に置いてある。
この世界で本は貴重なのだが金は有るので、立ち寄る街で気になった物は次々と購入していた。
知識人のシルヴィーと藍にとってこの部屋は天国の様な場所で、入った時から黙々と本を読み続けている。
「あー、負けました。」
「ふっふっふ、私の勝ちね!」
「もう一回です、次は負けません!」
ネオンとメリーは、櫓の作ったカードゲームで遊んでいる。
今までは馬車の入り口の扉を開いた場所が居間兼台所となっており、風呂やトイレへの扉があった。
改造されて書斎部屋への扉が追加されたのと、居間のスペースが広がって遊び場が設けられたのだ。
そこには櫓がいた元の世界で定番だった遊び道具が色々と置かれている。
馬車の移動最中の暇つぶしと言えば、本を読んだり魔法道具を作ったりとありきたりになっていたので、スペースが広くなるついでに錬金術の名人を使って自作したのだ。
遊び方を教えれば直ぐに夢中になって、二人でずっと遊んでいる。
「フェリンも自由にして良いんだぞ?」
櫓は隣のソファーに座っているフェリンに言う。
他の者達は自由に過ごしているが、フェリンは櫓と同じくソファーに座っているだけだ。
「いえ、楽しげな皆さんを見ているだけでも充分楽しいですから。」
「ならいいけど、俺の事は気にしなくてもいいからな。」
「はい、それと首輪の件ですが改めてありがとうございます。」
フェリンは自分の首元を触りながら言う。
落札した時から付けられていた奴隷の首輪が今は無くなっていた。
エルフの森のお姫様がずっと付けていては不味いだろうと、ネオンの時同様に無効化のポーション(雷)をフェリンに飲ませて、首輪を粉々にしたのだ。
「あのまま返しても取り外す手段無いんだろ?」
奴隷の首輪を外す為には専用の鍵が必要になる。
その鍵をエルフ達は所有していないので、首輪が嵌ってしまうと人間の国を訪れて外すしか方法が無い。
ちなみに櫓は専用の鍵さえ作ってしまえば、無効化のポーションを一々使わなくても済むので、作成しようと錬金術の名人で素材を見たのだが、提示された素材を何一つ持っておらず諦めるしかなかった。
「はい、無効化のポーションと言う魔法道具も初めて見ましたので。」
錬金術の名人のスキルを使えば、実在の有無に関わらず作成する物に必要な素材を提示し、作り方の順序まで教えてくれる。
その為この世界では未だ作り方が知られていない物でも作る事が出来るので、無効化のポーションもその類である可能性が高い。
「森に着いたら作り方を何人かに教えてやろう。そうすれば万が一の時に自分達でも外せるだろうしな。それに魔法合戦になった時には重宝する。」
無効化のポーションは雷のしか作っていないが、それ以外の属性も集めるのが大変だが素材によっては作る事が可能である。
そしてエルフには教えるつもりだが人間達に作り方を広める気は無い。
魔法を得意とするエルフ達が無効化のポーションを使われた時に対抗手段が弓しか無くなってしまい、奴隷狩りが加速してしまうと予想出来る為だ。
「何から何まですみません、櫓様に落札していただき本当に助かりました。」
「俺にもメリットが無い訳じゃないから気にするな。」
フェリンはお姫様なので無理だが、エルフの森に行けばメリーの様に冒険者となって一緒に旅をしてくれる者が見つかるかもしれない。
櫓達のパーティーは前衛が多いので、後方支援のエキスパートが仲間になってくれれば、パーティーが更に安定するので、フェリンの故郷に期待を抱かずにはいられない櫓だった。
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