165話 恐怖で更正
「こんなもんか。」
櫓は改造し終わった馬車を見ながら身体を伸ばす。
定期的に希望の光によって届けられる素材を使って、朝から夕方まで掛けて作り終わった。
手間が掛かる部分は完成の魔法を使って時短したが、魔力の消費が相当なのと自分の技量を高める為に、乱用せずに手作業で作ったので時間が掛かった。
馬車の出来具合いに満足している櫓の近くでは、希望の光の三名が疲れ果てている。
一日中櫓の指定した素材を集める為に、魔法都市中の店を巡ったり、街の外を探索して素材を集めたりと体力を使い果たしている。
「ただいま戻りました。」
「お疲れ、こっちも丁度今終わったところだ。」
「私達の方も既に片付きましたわ。」
冒険者ギルドの方で信用出来る冒険者を複数紹介してもらい、城塞都市ロジックまでの護送依頼を頼んだ。
既に奴隷の女の子達十名は出発しており、拠点に着き次第同行している奴隷商人に奴隷契約をしてもらい、拠点を任せているサリアに託す手筈となっている。
「これが素材を売ったお金、こっちが残りの魔物です。」
ネオンが幾つかのボックスリングを渡してくる。
これでクロード達以外の作業は終わった。
「宿の飯までまだ少し時間があるし、馬車の中について色々教えてやってくれ。これから数日間はこの中で過ごす事になるからな。」
希望の光の三人とフェリンは櫓の作った馬車の中には入った事が無い。
その為この世界には無い櫓が自作したと思われている様々な物の使い方が全く分からないのだ。
旅の最中にさまざまな質問を受けるのは目に見えているが、先にある程度説明しておけば、自分が一から教える手間が省ける。
馬車の説明をすると言われた四人は、乗った事くらいあるし今更説明される様な事あるのかと言った表情をしているが、扉を開いて中を見た瞬間に驚きの表情に変わっている。
見た事の無い物の数々に皆興味津々だ。
「失礼します櫓様、報告に参りました。」
一人になったタイミングを見計らったかの様にクロードが目の前に現れる。
「どうだった?」
「結果から申し上げますと、二度と櫓様に関わって来る事は無いでしょう。」
「そうか、それは助かる。それで貴族の男はどうした?」
「警告で済みそうでしたので、捕縛まではしておりません。しかし櫓様達の暗殺を命じられた者達がいましたので、そちらを見せしめに殺しました。調べた結果快楽殺人者の様でして、過去にもかなりの人の命を奪っていましたので、遠慮は無用かと判断しました。」
クロードは櫓の様に犯罪奴隷として売れるから生かすと言う考え方をし無い。
傭兵団絆誓は市民からの信頼が厚い組織であり、犯罪者を衛兵達を待たずに素早く捕まえ、何よりも一般市民の安全を優先していた。
軽犯罪であれば組み伏せて衛兵に引き渡し、市民の命を奪う危険性のある犯罪者は迷わず首を刎ねた。
結果絆誓の活躍によりロジックの中での犯罪件数は激減して信頼を得ていたのだ。
「嫌な役を押し付けて悪かったな。」
自分でもそう言った者達は奴隷にして売った後のリスクを考えると殺しただろうと判断しつつも、その役を任せてしまって申し訳無く思った。
「いえ、また必要と感じられたらお呼び下さい。」
全く気にしてい無いクロードは一礼して姿を消す。
「さて、俺も機能の説明でもしに行くか。」
櫓は騒がしい馬車の扉を開き中に入った。
【数時間前のパーパス男爵の屋敷にて】
「クソがっ!」
屋敷の主人であるパーパス男爵は怒鳴り声を上げながら、机の上に載っていた高価な料理が盛り付けられた皿やワインが入ったグラスを払い除けて床に撒き散らす。
怒っている原因はエルフを攫う為に雇って差し向けたゴロツキやチンピラが全員返り討ちに遭い捕まってしまった事を聞いたからだ。
報告をした執事のノルイトは、こうなるだろうと予想していたので落ち着いている。
そして次にパーパス男爵が言う事も予想出来ていた。
「あんな奴らでは相手にならなかったか、仕方あるまい。ノルイト、あの二人を呼べ。」
「既に扉の前で待機させております、入ってきなさい。」
ノルイトの掛け声と同時に扉が開き、怪しげな仮面を付けた二人が中に入ってくる。
どちらも首に奴隷の首輪が付けられている。
「クククッ、さっさと差し出していれば死ななくて済んだものを。お前達、オークションでエルフを落札した者がいる。周りの者達を殺してエルフを連れて来い。」
パーパス男爵が命令すると頭を下げて部屋から出て行く。
この二人は男爵家が裏ルートで最近入手した奴隷の暗殺者である。
表沙汰に出来ない裏の仕事を幾つもこなしてきており、何よりも人を殺す事に喜びを感じている快楽殺人者であった。
パーパス男爵は先程までの怒りも忘れてエルフを手に入れた後の事を考えて顔をニヤけさせていた。
直後廊下が一瞬騒がしくなり、直ぐに静まる。
何かあったかとノルイトが扉を開けて廊下を見る。
「ひ、ひいいいぃ!?」
ノルイトは廊下の惨状を見て後退り腰を抜かした。
「何をしているノルイト?」
パーパス男爵の居る場所からは廊下が見えず、何に驚いているのか分からない。
すると扉が開かれ何かを引き摺りながら二人の女が中に入ってきた。
その二人に見覚えが無く、何者だと声を発しようとした時に、その二人は引き摺っていた物を男爵の机の前に投げ捨てる。
それは先程部屋から出て行った奴隷の死体だった。
「なっ!?」
僅か数秒の間に腕自慢の奴隷が殺されてしまった事を知り言葉を失う。
そして次は自分の番なのかと目の前の二人を見て恐怖する。
「動くな。」
「っ!?」
いつの間にか首筋に短剣が突き付けられている事に気付く男爵。
「此方の指示に従えば、その奴隷達の後を追わずにすむ。賢明な判断をする事だ。」
「か、金か?俺に出来る事なら何でも言う事を聞く。」
「金など不要だ。要件はお前が狙っているエルフの件を諦め、その周りに居る者達への干渉をし無い事。そして二度と市民を己の欲の為に蔑ろにするな。たったそれだけだ、簡単だろ?」
「わ、分かった、言う通りにする。」
男爵がそう言った瞬間に部屋の中から三人が消える。
奴隷の惨状を見れば夢で無かった事は明白であり、残された二人は言われた事に反く行いは一切し無いと心に誓った。
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