161話 暴走エルフ
シルヴィーが倒したチンピラ達は全員衛兵に引き渡した。
雇い主が誰か軽く脅して聞いてみたが、オークションでエルフが落札されたと言う情報がスラム街に出回っていて、その噂を聞いて襲ったので出どころは知らないと言う。
元々確実な情報が得られるとは思っていなかったので早々に諦めた。
「じゃあ出掛けてくるからあとは頼んだ。」
「分かりましたわ。」
自分達が泊まっていた宿で大部屋が幾つか空いていたので、奴隷達の部屋として取る事が出来た。
シルヴィーに世話を任せて、エルフの女の子と一緒に宿を出る。
「名前はなんて言うんだ?」
調査の魔眼で既に確認済みなので分かっているが、コミュニケーションとして尋ねておく。
「・・フェリン・ティアーナです・・。」
落ち込んでいるが嘘を付かずに答えてくれた。
「そうか。フェリン、悪いが少し付き合ってもらうぞ。」
「・・何処に行くのですか?」
「お前の同族のところだ。」
櫓が答えた瞬間ガバッと顔を上げて真っ直ぐに櫓を見るフェリン。
会ってからずっと暗い感じだったのだが、一番の反応を示したのだった。
「同族・・。エルフがこの街に居るのですか?もしかして私と同じ境遇なのですか?」
「落ち着け、別に奴隷になっている訳じゃ無い。俺と同じ冒険者だ。」
「す、すみません。取り乱してしまいました。」
櫓は全く気にしていないが、フェリンは奴隷として主人に対する態度では無かったと反省している。
それでもエルフが自分と同じ奴隷になっている訳では無いと聞いて安心している。
「気にするな、人間の街にエルフが居るとなればそう考える奴が大半だ。」
堂々と街中をエルフが徘徊していれば、よからぬ事を考える輩が多いだろう。
実際メリーも魔法道具の全身ローブを着込んで、フードも目深に被っているのでエルフとは気付かない。
フェリンもエルフの姿のまま歩いていれば、厄介事に巻き込まれるだろうと、シルヴィーが持っていた認識操作のネックレスを付けている。
もう旅に出て必要無くなったので、フェリンにあげたのだ。
この認識操作のネックレスを使用すると自分が指定した人物以外から気に留められにくくなり、すれ違っても誰かとすれ違ったかな程度にしか思われないのだ。
ロジックでは知らない人がいない程の有名人であるシルヴィーでも、このネックレス一つで殆ど騒ぎになった事は無かったと言う。
例外もあり、実力者には効きづらくてバレた事が有ったと聞いたので、フェリンには一応フードを被ってもらっている。
「あの、ご主人様はそのエルフを捕まえて奴隷にしようとは思わなかったのですか?」
フェリンは疑問に思った事を櫓に聞いた。
櫓もそう言った者達と同じ人間であり、先程実力の一端も見たのでやろうと思えば出来るのだろうと思ったのだ。
「ん?わざわざそんな事しようとは思わないな、それにやれば犯罪だし。」
「そうなのですか、ご主人様は他の人間と少し違うのですね。」
「人それぞれ考え方が違うからな。エルフを捕まえれば大金が手に入ると思う奴が多いだろうが、俺は人の人生を壊してまで金を手に入れたいとは思わないからな。」
そんな事をしなくても櫓には金を稼ぐ手段など幾らでもあるのだ。
「ご主人様の様な人間も居るのですね。」
フェリンの中の人間像と櫓は全く似つかなかった。
「人間は憎いか?」
「そ、そんな事は・・。」
「別に取り繕わなくていいぞ。そう思わせる行動をしてきたんだからな。」
「・・正直に言えば怖いです。私が捕まった時も逃げようとする私を無理矢理捕らえて、奴隷商人の元まで連れて行かれ、奴隷の首輪を付けられて奴隷契約させられてしまいましたので。」
フェリンの首には奴隷の首輪が付いている。
この首輪が付けられた時点で、主人が外そうと思わない限り一生奴隷の身分のままなのだ。
エルフからすれば死ぬまで欲望の塊の言いなりという地獄となる。
「そうだろうな。俺は特にフェリンに何かするつもりは無いから安心してくれ。直ぐに信じるのは無理だと思うけど。」
「いえ、ご主人様は出会ってから私達奴隷に丁寧に接してくれていますから。」
お腹を空かせた奴隷にフライドポテトを振舞った事が、フェリンの中ではかなり評価されていた。
普通の主人であれば奴隷に対して気を遣ったりしないので、フェリン以外もあの件に関しては驚いていた。
「信じてもらえるなら嬉しいけどな、おっ!いたいた、あれだ。」
櫓は遠くから此方に歩いて来るメリー達を指さす。
「あの三人組の方々ですか?」
「ああ、フードを被ってるのがエルフだ。」
「あっ、櫓君じゃない!」
向こうも櫓達に気付いて足早に近付いて来る。
そしてメリーには認識操作のネックレスが効かなかったらしく、フェリンを見た後に首輪を見て、最後に櫓をキッと睨み付けている。
「裏切り者、人でなし、人間の屑!」
メリーは早口に言って櫓の首元を掴み前後に激しく揺さぶっている。
一眼見ただけでメリーの中では櫓がエルフを奴隷として捕まえた事になっていたのだ。
「この勘違い野郎を止めてくれ藍。」
初めて会った時からメリーは一人で突っ走りがちだったので、櫓はされるがままの状態でメリーの後ろに付いて来ていたパーティーメンバーの藍に頼んで暴走を止めさせる事にする。
「メリー落ち着きなさい。」
背後にいた藍のチョップがメリーの頭に落ちる。
「痛っ!?」
中々の威力だったらしく、メリーは櫓から手を離して涙目で蹲った。
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