158話 絡まれ体質
奴隷の出品が終わった後は、たまに出てくる気になった物に入札しながら時間を潰す。
白金貨の所持数が無くなっただけで、白金貨一枚以上の額の金貨が未だ残っているのだ。
「それでは以上でオークションを終了致します。番号札の順番に品物の取引を行いますので、一番の方から控室にお越し下さい。」
司会者の言葉を聞いて何組かが立ち上がって会場を出て行く。
「俺達は十八番だから少し待たなくちゃいけないか。」
「そう言えば奴隷の宿とか確保してるのかい兄ちゃん?」
「あ・・。」
店員に言われて気付いたが、落札する事しか考えておらず頭から抜けていた。
十一人もの奴隷を落札したので、人数が多く直ぐに宿を取れるのか分からない。
「問題ありませんわ、早朝私達の泊まっている宿で空き部屋を聞きましたら、三十人程は入ると言う事でしたので。」
シルヴィーが事前に調べておいてくれたらしい。
何かトラブルがあっては困るので、出来れば同じ宿に全員泊めたいと考えていた。
「それなら問題無いな。」
「少し宜しいでしょうか?」
後ろから声を掛けられたので振り向くと、執事と思われる男とエルフの落札で競り合った櫓を睨んでいた貴族が立っていた。
「なんだ?」
「私はノルイトと申します。此方のパーパス男爵様の執事をしている者なのですが、エルフの少女についてお話しをさせて頂きたく。」
「白金貨六枚出してやろう、先程のエルフを渡せ。屋敷に戻りさえすれば金は有るからな。」
偉そうな態度で上から目線で言ってくる。
しかし貴族とは本来こう言った者達が普通であり、シルヴィーが普通では無いのだ。
「悪いな譲る気は無い。」
「強欲な男だな、ならば白金貨七枚だ。」
櫓が値段が少ないから拒否したと思い値段を釣り上げてきた。
しかしどんなに値段を上げられても渡す気は無い。
傲慢な貴族に引き渡しても酷い目に遭う事は明白だ。
「いや、だから・・。」
「未だ釣り上げようと言うのか貴様。」
「どんなに値段を上げられても譲る気は無いんだ。悪いが諦めてくれ。」
その言葉を聞いて貴族の男が目を見開いて驚いている。
「私が貴族と聞いてまさか断ろうとはな。穏便に済ませてやろうかと思っていたが辞めだ。」
執事を伴って会場の入り口に向かって行く。
「夜道には気を付ける事だ。」
すれ違う時に櫓にのみ聞こえる声で邪悪な笑いを浮かべながら言う。
会場を出た事を確認して、また面倒事かと溜息を吐く。
「何か言われましたの?」
「夜道に気を付けろだとよ。」
「随分と直球的に言われますわね。」
これから犯罪を犯しますと言っている様なものだ。
「厄介なのに目を付けられたな。オークション終わりの奴は金目な物を所持しているだろうと襲われる事も多いと聞く。」
オークション会場から出て来た者は出品した物を売った金や、落札した高価な物を等何かしら所持している。
金に困っている者達からすれば良い標的なのだ。
「衛兵は何をしているんだ?」
五大都市と言われる程に大きい街なので、衛兵の数も多く巡回している。
「人気が無い場所に連れ込まれてやられるから衛兵も気付け無いんだろうな。それにこう言った事はチンピラやゴロツキが行うだろうから、指示した者に近しい人間が居ない。だから結局元の人物を捕まえられないんだ。」
「さっきの貴族は明らかに言っていたがどうなんだ?」
「問い詰められれば知らぬ存ぜぬで通すでしょう。貴族に言われてしまえば衛兵でも引かざるをえません。」
それだけ一般市民と貴族の発言力には差が有ると言う事だ。
決定的な証拠でも抑えない限りは、捕まえる事は難しいらしい。
「まあなんとかなるだろう。」
Aランク級の実力者が二人も居るのだ。
守る対象が多くてもチンピラやゴロツキ程度なら何人出てきても遅れを取るとは思えない。
「そうですわね、少なくとも街中なのですから戦闘音に気付いて衛兵が駆け付けると思いますし。」
「二人が強いってのはなんとなく分かっているが、俺の事もちゃんと守ってくれよ?」
ダンジョンをどこまで攻略したのかは言っていないが、あれだけ大量の魔法道具を持ち帰ったのだから、深い階層に潜ったのは当然だ。
そこで戦い生き残る実力を持っているとすれば、力量もかなり高いと判断したのだろう。
「男なら自分の身は自分で守るものだ。」
「無茶言うなよ、こっちは戦闘経験なんて無い唯の店員なんだぞ!?チンピラ一人にだって勝てる訳無いだろう!」
「冗談だって、傷一つ付けさせないから安心してくれ。」
「ったく勘弁してくれよ兄ちゃん。」
店員も自分の命に関わる事なので必死で有る。
櫓の性格から見捨てられる事は無いと思っていたが、確認が取れて安心した様だ。
「そろそろ行っても良さそうだな。」
「そうですわね、既に十組以上が出て行かれていますし。」
櫓達は取引を行う為に三人で控室に向かった。
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