150話 お嬢様はしたたか
一時間程辺りの岩山を全員で見て周り、ミスリルを集めまくった。
ツルハシなどで地道に削るのは時間が掛かるので、ミスリル鉱石が埋まっている岩ごと剣でスパスパ斬って各々ボックスリングに回収していった。
ミスリル鉱石はインゴットに加工する作業で一度溶かしてから固めるので、剣で雑に斬ってしまっても問題は無いとシルヴィーが教えてくれた。
「結構取れたな。」
この場所自体ミスリル鉱石が取れる鉱山地帯となっているので、貴重な鉱石と言っていたが面白い様に取れる。
「櫓様〜。」
遠くからネオンが手を振りながら近付いて来た。
「ボックスリングが一杯になったので引き上げて来ました。」
ネオンには櫓が作ったボックスリングを二つ渡してある。
岩ごと入れているのでそちらに重量を取られているだろうが、両方入りきら無い程となるとミスリル鉱石の量も少なくは無いだろう。
「お疲れ、こっちも一旦切り上げる事にした。」
「櫓様のボックスリングに移して更に取ってきましょうか?」
「いや、もう充分だろうし大丈夫だ。あまり貴重なミスリルを冒険者が大量に持っていても怪しまれそうだしな。」
「確かにそうですね。」
貴族や役人が鉱山の採掘権を握っている為、大量に所持している事がバレれば無断で採掘したのではと在らぬ疑いを掛けられる可能性もある。
自分達の武器はミスリルで造って戦力強化を図ろうとは思っているが、売却等をするつもりは無いのだ。
「あいつらいつまで取ってるんだ?」
ネオンと合流してから三十分近く経過しているが二人は未だ現れない。
「迎えに行きますか?」
「そうだな、いつまでここに居られるのかも分からないし。」
入り口の扉は最初に通って来た状態と変わら無いが、突然閉まる可能性もなくは無い。
櫓達が居る場所はミスリル鉱石が取れる小高い岩山がそこら中に有り、壁や天井は鏡の様な透明な材質になっている。
この材質がどんな攻撃をしても傷一つ入らない強度を持っている為、この空間からの出口は入ってきた扉しかないのだ。
「お!いたいた。」
二人を探し回って歩いているとミズナを見つける。
「ご主人やっと見つけた・・・。」
「やっとも何も、扉の場所に居たんだが?」
「景色同じで分からない・・・。」
ミズナは単純に迷子になっていただけらしい。
確かに同じ様な岩山があちこちに有るだけの場所なので迷うのも分かる。
「まさかシルヴィーも迷子とか?」
「シルヴィー様に限ってそんな事は無さそうですけど。」
シルヴィーはしっかり者のイメージが強いので、迷子になっていたらそれはそれで可愛いなと思いながら探していたがそんな事は無かった。
見つけた時もひたすら岩山を器用に槍で削り取って、ボックスリングに回収していた。
「あら?皆さん取り終わりましたの?」
「逆にシルヴィーは未だ満タンになっていなかったのか?」
「ええ、なるべく圧迫しない様に余分な岩を削り取っていましたので。」
そう言いながらもミスリル鉱石の周りの岩をガツガツ削っていく。
「そこまでしなくても充分取れているんですし、いいんじゃないですか?」
「あまいですわね、今を逃せばミスリル鉱石を次に入手出来る機会等無いかもしれませんわ。手に入れるにしても既に武器に加工された物を高額で買い取るくらいしかありませんわね。」
「そんなに入手が難しいのか?」
「公爵家である我がフレンディア家でも、直ぐに一定数を取り寄せるのは難しいですわね。簡単に手に入るのであれば騎士団の剣全てをミスリルで揃えていますわ。ロジック周辺でミスリルの剣を使う程の敵は現れないので致しませんけれど。」
シルヴィーの家に行った時に騎士団の装備を見たが全員が鉄の剣を使っていて、ミスリルの装備をしている者は居なかった。
「難しいだけで出来なくは無いと。」
「一応懇意にしている採掘権を所持している貴族もおりますから。しかし権力を使ってまで入手したいとは思いませんわ。」
シルヴィーは貴族にしては珍しく自分の身分を使って物事を解決する事を嫌っている。
そうしなければならない時はするが、極力は自分の力で何とかしようとするのだ。
「だからタダで手に入れれる時に沢山取っておきたい訳か。」
「そう言う事ですわ、それにミスリルは魔法道具製作の際に用いられる事も多いと聞きます。余分に所持していて困る事はありませんわよ?」
「よし全員ボックスリングの中のミスリル鉱石を全部出してもう一周だ。」
シルヴィーの言葉を聞いて直ぐ様意見を変えて採掘再開を宣言する。
貴重な鉱石が魔法道具製作に関わってくるとなると話が変わってくる。
櫓は魔法道具を作りたいと思った時の為に、そう言った入手困難な素材等は、直ぐ作れる様に予め大量にボックスリングに入れておく様にしているのだ。
そこから再び一時間近く全員で採掘をして、ミズナが採掘作業に飽きたのと、シルヴィーが取れたミスリル鉱石の量に満足した事でようやく作業は終了した。
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