32話 異世界にて初のブチギレ
「そこの受付嬢、昨日フレンディア公爵家から知らせが来ているはずだがどの冒険者だ?」
歩いてきた騎士の男の方がアリーネに話しかけてきた。
「お待ちしておりました、こちらが面会を希望されていた冒険者の東城櫓とネオンです。」
「そうか、私はフレンディア公爵家魔討騎士団所属、ユーハ・アーノルドだ。」
「同じく魔討騎士団所属、リンネ・コーラルと言います。以後お見知り置きを。」
アリーネは騎士団員に面会希望者の櫓達を紹介すると、これ以上自分がいても特に意味がないと判断し、一礼してカウンターに戻った。
そして騎士団員の男が名乗りを上げ、続いて女性も自己紹介をする。
どちらも整った顔立ちをしている美男美女だ。
まだどちらも十代後半から二十代前半と言った見た目である。
そして櫓が今まで出会った人たちにはない家名がある。
つまり貴族である。
このあたりの知識もこちらの世界にきて本やネオンから情報は仕入れてあるので知っていた。
(たしか貴族ってのは家を継ぐ跡取りである者以外は国や都市を管理している王族や貴族の騎士団に入る者が多いんだったか?この二人もその類だろうけどなんで俺に面会なんて求めてきたんだ?てかお偉いさんとの会話苦手なんだよな〜。)
相手が名乗りを上げているのに自分があげないわけにはいかず櫓も名乗る。
「受付嬢から紹介がありましたが、東城櫓です。そしてパーティメンバーのネオンです。」
いつも通りの口調とは違い言葉遣いを櫓なりに気をつけて自分達の自己紹介をする。
櫓に紹介されたネオンはぺこりと一礼している。
貴族には獣人を差別して嫌っているものが多いので櫓が紹介することにした。
実際に隣にいるネオンは少し縮こまり緊張している様な感じだ。
櫓がネオンの紹介をしても特に変わった様子がない目の前の二人。
貴族が全員獣人を差別しているわけでもないので、この二人は違うのかもしれない。
「時間が惜しいので早速本題を言う。今回お前達に面会を希望した理由だが、新人の冒険者にしては異常な依頼達成の量と早さ、並びに昨日ギルドから知らせが来たがローガン山脈にいた魔人の討伐などお前達の活躍を聞き、お嬢様が会いたがっている。今から屋敷に来てもらう。」
男騎士ユーハの話によれば、新人冒険者と面会を希望しているのはお嬢様らしい。
櫓達は一日で終わらない様な量の依頼を受け半日で終わらせ帰ってくると言ったことを平気で行っていたため、それが噂となってお嬢様の耳に入ったのだ。
「今からですか?今日は用事があるので長引かなければ構わないですけど。」
「用事だと?」
「パーティメンバーのネオンの剣を観に行く予定だったんですよ。折れて使い物にならなくなってしまったので。」
「ふむ。」
ユーハはネオンの方を見て何やら考えている。
女騎士の方は静観しているのみだ。
(正直な話屋敷に行ってお嬢様と対談なんて堅苦しいことはしたくないんだが。行ったとしてもすぐ返してくれるかわからないしな。)
櫓がそんなことを考えているとユーハは再び櫓の方に向き直る。
「ならばこうしよう。」
「え?」
「「!?」」
ユーハは話すと同時に素早く腰から剣を抜き放ちネオンの首に振り下ろす。
咄嗟の事に反応できなかったネオンは動けないでいた。
変わりに首に迫る剣を素早く移動した櫓が手で受け止める。
耐性の手袋を外出時は常時付けているため、櫓の手には傷一つないが剣を受け止めた衝撃は手に伝わってくる。
衝撃の強さから考えて櫓が止めなければネオンの首と胴体は分かれていたであろう。
「ほお、今のを止めるか。」
今まで静観していた女騎士リンネも、連れのいきなりの行動に驚いている。
そして今までは珍しい見せ物かと遠くから見ていた冒険者や受付嬢達もざわめき出す。
しかし誰も介入してくる事はない。
貴族に対して平民が強く出れるわけもない。
場合によっては貴族により奴隷落ちや死といった感じで理不尽な報復をされることもあるためだ。
それでも唯一アリーネだけが受付から立ち上がったがそれを見た周りの受付嬢が慌てて止めている。
そしてリンネがユーハの行動に何か言おうとしたが、その言葉は櫓の小さく低い、しかし何故かはっきりと聞こえる殺気が込められた声により発せられることはなかった。
「なんのつもりだ?」
睨みながら櫓が一言発した言葉で、ざわめいていたギルドの中の一部が息を飲んだ様に静かになった。
それはギルド内に僅かにいたAランクやBランクの者達、そしてネオンとリンネである。
櫓の余りにも濃い殺気を感じ取れた強者達だ。
「なんのつもり?貴様はそこの奴隷との用事があると言ったのであろう?ならばその奴隷がいなくなれば用事もなくなるではないか。案ずるな代わりの奴隷の十人や二十人買えるくらいの金は用意してやる。」
「そうか・・・。」
櫓はユーハの言葉に返答し剣を離す。
それを見たアリーネは驚き何かを叫ぼうとするが櫓の次の行動を見て留まる。
「わかったらそこを・・・。」
「気が変わった、少しくらいなら付き合ってやろうかと思ったが今すぐ俺の前から失せろ。そして二度と俺達の前に現れるな。」
ユーハの言葉を断ち切り櫓が言い放った。
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