138話 召喚トラップ
八階層は平原で見晴らしがいいが、広すぎるため反対側の壁が見えない。
視覚の妨げになる様な物も少なく、人間側からも魔物側からも敵を発見しやすい状況だ。
その為頻繁に遠くから櫓達を見つけた魔物が走って向かって来る。
未だ櫓達が苦戦する様な敵では無いが、七階層までとは違い連戦を強いられる。
「あ、また来ましたよ。こっちの方角から数は二体です。」
ネオンは他の者よりも視力が良いので、前もって魔物の情報を教えてくれる。
「じゃあ次は俺が倒すか。」
ローテーションで倒す事にして負担を減らす。
「他の方々も探索どころでは無さそうですわね。」
周りを見渡すとダンジョン探索者が八階層にもそれなりの数がいた。
しかしどのグループも櫓達同様に魔物との戦闘を強いられている。
「魔物との戦闘になる前に宝箱を見つけたい所だな。」
「未だダンジョンに入ってから一個も手に入れてませんもんね。」
「ああ、俺も遠見の魔眼を使うか。」
下の階層に降りる事に夢中になっていたので、宝箱を発見出来ていない。
戦闘の為に魔力を温存していたが、パーティーメンバーが居ればそこまで心配する事も無いかと神眼を発動させる。
遠見の魔眼を使えばネオンよりも遥かに遠くを見通す事が出来る。
「うーん、無いな・・。」
全方向見渡してみたが宝箱らしき物は見つからない。
「早い者勝ちですからもう取られてしまってるのかもしれませんね。」
「階段同様地道に探すしかありませんわ。」
その後も魔物を倒しながら歩いていると、遠くに小さな箱らしき物をネオンが発見する。
「あっ!あれって宝箱じゃないですか?」
「ほんとか?俺達には未だ見えないな。」
「間違い無いですよ、地面の上に置かれています。」
ネオンが宝箱を見て櫓達に教えている間にその宝箱に人影が近づいていく。
「あっ、せっかく見つけたのに先を越されちゃいました。」
「うわー、惜しかったな。」
「櫓様なら一瞬で近づいて先に手に入れられるのではないですか?」
「流石にそこまでするつもりは無い。」
ネオンの冗談を軽く流していると、先程の人影が宝箱を開けた様だ。
しかし突然その場から慌てて逃げ出して、何か様子がおかしい事にネオンが気付く。
「ん?なんで何も取らずに?」
「どうかしたか?」
「宝箱を開けた人達が中身を取らずに走って離れて行ってしまったんです・・、ん?あれはリビングアーマー!?」
ネオンの目には宝箱を中心に地面に浮き出した魔法陣から次々とリビングアーマーが召喚される光景が映っていた。
「トラップだったみたいです、リビングアーマーが大量に湧き出しました。」
既に三十体近く現れているが未だ召喚は終わらない。
その宝箱の方角から冒険者と思わしき二人組が櫓達の方に走ってくる。
「おーい、あんたらさっさと逃げろ。」
「トラップを発動させやがった奴がいる。全く良い迷惑だぜ。」
「トラップってのはリビングアーマーの事か?」
「そうだ、魔物を召喚するタイプのトラップチェストだ。」
「リビングアーマーしか出てこないだろうが数は百を降らねえ。」
この冒険者達は八階層の事について詳しい様だ。
櫓達にはトラップチェストの見分け方など分からないし、九階層に向かう階段についても分からない。
この二人から情報を得ようと考えた。
「ちょっと待ってくれ。」
櫓は二人の冒険者の肩を掴んで強引に引き止める。
「おい、何をするんだ。」
「早く逃げないとリビングアーマーに殺されちまうだろうが。」
此方に向かってきているのは五十体程だ。
近くにいたためリビングアーマー達のターゲットを貰ったのだ。
二人は徐々に此方に向かってきているリビングアーマーの大群を見ながら櫓に文句を言う。
「落ち着け、リビングアーマーはデカい鎧のせいで動きは鈍い。人間が全力で走れば追い付いては来れないから、少しくらい話していても問題はない。」
「危険である事に変わりは無いだろ。この状況で何を話すって言うんだ?」
動きは鈍くてもBランクの魔物だ。
万が一追い付かれてしまえば、死の危険すらあり得る。
「俺達があの大群を掃討するから逃げる必要は無い。それと金を幾らか払うからこの八階層の情報を売ってくれないか?」
「あの大群を全て倒すだと?そんな事が出来るのか?」
「いやちょっと待て、こいつら見覚えがあるぞ。お前達ってトーナメント戦に参加していた奴らだよな?」
片方の男は先日のトーナメント戦に櫓達が出ていた事を知っていた。
「ああ、リビングアーマーが百体居ようがどうとでもなる。もし危険だと感じれば見捨てて逃げてもらっても構わない、どうだ?」
「こいつらの実力は本物だ、残っても問題無いと思うがどうするビル?」
櫓達の事を知っていた男が隣のビルと呼んだ男に尋ねる。
「危なくなったら逃げさせてもらうぞ?」
「交渉成立だ。」
情報を得られそうな事に櫓は上機嫌になる。
「お、おい悠長にしていて良いのか?もうそこまで来ているぞ?」
「ならさっさと片付けるか。数は多いがやる事は前回と同じだ、行けるかミズナ?」
「任せる・・・。我が魔力を糧とし、瀑布の如き大雨よ、全てを洗い流せ、雨滝・・・!」
ネオンが詠唱を唱え終わるとリビングアーマーの頭上の八階層天井付近に巨大な薄い円形の水が現れる。
そしてその円形の内部から水滴がポツリポツリと連鎖する様に落ち出して、段々と豪雨に変わっていく。
雨の勢いが強すぎてリビングアーマー達の動きも鈍い。
櫓は少しリビングアーマー達に近づき、地面に広がっていく水溜りに手を付ける。
その状態のままで雷帝のスキルを発動させると、雷が水溜りを通じて広がっていき、辺り一面のリビングアーマー達の全身に雷が一斉に流れる。
眩い雷の光が収まると立っているリビングアーマーは一体も居なくなっていた。
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