136話 貰える物は貰う
「ここで五階層目か。」
櫓達はダンジョンに入ってから二時間程して五階層まで降りてきた。
地図を見て最短ルートで下に降る階段を目指しているので迷ったりはしない。
「景色は代わり映えしないですね。」
今までの階層全てが石や土などを固めて迷路の様にした作りになっていた。
地下に向かっているのだから当然と言えるが、何かしら違った階層も見てみたいのだろう。
「魔物は降りる毎に多種多様になっていますね。」
「未だ見かけた事のない魔物なんかは、魔法道具の素材になるかもしれないから有難いな。」
櫓は遠くに見えたゴブリンに指弾で石を放ちながら言う。
魔物との遭遇率が非常に高く、常に戦闘音が鳴り響いてきている。
降る毎に魔物が強くなっていくので、弱い敵に対してわざわざ力を使ってはいられない。
なので通路に落ちている小石を拾って、それを弾いて迎撃している。
底ランクの魔物であれば櫓の指弾で放った石で貫かれ絶命している。
「最短ルートを通っているからか宝箱とか見つからないですね。」
「人も多かったからな。」
原理は分かっていないが宝箱はダンジョン内にランダムで出現する。
そして中に入っている物を取ると、宝箱は魔力の粒子となって消えてしまう。
上階層はダンジョン探索者が多く、宝箱は早い者勝ちだ。
その為人が多くて見つける事が出来なかった。
「忘れてたけど透視の魔眼を使って見回せば、通路に阻まれていようと視力の範囲内なら宝箱見つけられるな。」
「いきなり使わないでくださいね櫓様?」
「使うのでしたら背後に回りますから事前に仰って下さいね。」
便利な魔眼なのだが女性陣からは相変わらず不評である。
「まあ魔力温存したいし、無理に使わなくても良いか。」
櫓達はそのまま地図に従って六階層に降る階段を目指す。
「ん?」
通路を進んでいるとネオンが突然止まって、耳をピクピクと動かし辺りをキョロキョロ見回している。
「どうしたネオン?」
「ちょっと待って下さい櫓様。」
ネオンは口に人差し指を当てて、静かにして欲しいと伝えてくる。
数秒間耳をピクピクと動かして何かを聞き取る。
「あっちです、かなり遠いですが女性の悲鳴が聞こえてきました。」
ネオンは右前方の壁を指差して言う。
他の三人には聞こえなかったが、五感の優れている獣人のネオンには聞き取れたのだろう。
「向かいましょう。」
シルヴィーは迷う事なく告げる。
市民を守り導く立場にあった貴族であるシルヴィーは、それを抜きにしても困っている者が居れば助けずにはいられない性格なのだ。
「ああ、ネオン先導してくれ。」
方角はある程度分かったが、耳や鼻が効くネオンが先頭に立った方が目標を見つけやすいだろう。
「分かりましたこちらです。」
ネオンは足を魔装して走り出し、他の三人もそれに続く。
相当な速さで入り組んでいる迷路を爆走していく。
途中に何体か魔物が居たが、櫓達の速さについて来れないのでスルーしていく。
「あそこです。」
ネオンは長い通路の先を指差す。
櫓達には未だ見えない距離だが、遠見の魔眼を使う事により目標を発見する。
地面には血を流して二人の女性が倒れ伏しており、もう一人の女性が魔物の剣を必死に受け止めている。
魔物は全身鎧に剣を持っており、頭や手などの部分は黒い霧の様になっている、リビングアーマーと言う魔物だ。
「先行する。」
櫓はそう言い残して足に纏わせていた魔力を雷に変える。
一瞬で長い通路を進み交戦している女性の場所まで辿り着く。
「加勢するぞ?」
「っ!?助かります!」
魔物との戦闘中は加勢のつもりで参戦しても、された側が必要なかったと判断すれば横入りして獲物を奪った行為と言う事になってしまう。
この状況でそうはならないと分かっているが一応断っておく。
「吹底!」
ガラ空きになっている胴体部分に魔装した掌底を叩き込む。
リビングアーマーは少し後方に吹き飛ばされただけで、鎧にも大したダメージは入っていない。
リビングアーマーはBランクの魔物で、鎧が魔力を多量に含み高性能な魔法防具となる。
倒した時に魔法防具の鎧を手に入れる事が出来るので美味しい魔物と言えるが、防御力が高くて厄介なのだ。
「こいつは任せてそこの二人を助けてやれ。」
そう言ってボックスリングから取り出したポーション管を二つ投げ渡す。
「あ、ありがとうございます。」
女性はリビングアーマー相手に足手纏いになると判断して、櫓の言う通りにする。
「お待たせしました。」
「リビングアーマーですか、鎧を手に入れるのであれば私は参加しない方が良さそうですわね。」
ネオンは斬って燃やし、シルヴィーは突いて切り裂く攻撃方法だ。
倒す事は可能だがどれを使っても高価な鎧をダメにしてしまう。
「ネオンとシルヴィーは手当てが必要そうなら手伝ってやってくれ。ミズナ、リビングアーマーの全身を水浸しに出来るか?」
「任せる・・・。」
ミズナがリビングアーマーに向けて手をかざすと、その頭上に水の輪っかが現れ大量の水が落ちてくる。
リビングアーマーはその水を全身に被り、水浸しになったがダメージは無いのでそのまま斬りかかろうとしてくる。
「雷撃!」
櫓は雷をリビングアーマーに放つ。
斬ったり突き破ったりしない多少の攻撃であれば鎧を使えなくしてしまう事は無い。
水浸しで電気を通しやすくして、鎧の隙間から本体の黒い霧への攻撃を高めたのだ。
手加減して放った雷だったが、リビングアーマーへのダメージは充分だった様で鎧や剣が地面に崩れ落ちる。
櫓はそれらをボックスリングに回収して、助けた女性の方に向かった。
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