133話 武闘家対決
シルヴィーの戦いの後の櫓の試合は、準決勝とは思えない程一方的な戦いになり一瞬で勝負が付いた。
それから少し休息を挟み司会者のアナウンスが響く。
シルヴィーは未だ目を覚ましていないので、勝利報告を聞かせる為に負ける訳にはいかない。
「この前冒険者ギルドで会ったよね、失礼なお兄さん?」
既に壇上に上がっているユスギが櫓に向けて言い放つ。
調査の魔眼を使っていなかったので、見た目で子供と勘違いしてしまった事を根に持っているのだ。
「悪かった、見た目で判断してしまったんだ。」
「それって私が大人っぽく無い見た目だって言ってるよね?」
その通りだと思ったが口には出さないでおく。
冒険者ギルドでの二の舞いになる事は分かっているからだ。
ユスギの身長は百センチ程しかない為、櫓に限らず初見で大人だと見抜くのは無理だろう。
「昔から皆私の事を子供扱いしてきてもううんざりなんだよ。それを無くす為にも私は最強の名を得て、知らない人が居ないくらい有名になるんだ。」
ユスギの名声が広まれば、子供では無い事も多くの者が知る事になるだろう。
「この大会で勝ったら魔法都市では有名になるだろうな。」
「更に私はエンチャンターだ。魔法使いの多いこの街なら知名度は爆発的に上がる。」
魔法使い達から使い勝手が難しい魔法と認定されている付与魔法の使い手がトーナメント戦で優勝となれば、誰しもが注目せざるを得ない。
「ボコボコにしてあげるよ。」
「それは楽しみだな。」
櫓は未だユスギに本気を見せていないが、逆もまたあり得る。
勝てるかどうかは分からないが、そう言う敵とこれから渡り合って行かなければならない櫓にとっては、今回の戦いは有り難かった。
「両者揃いましたので魔法都市マギカル主催のトーナメント戦、決勝戦を始めていきたいと思います。それでは、始め!」
「AGIエンチャント!」
ユスギも櫓は油断出来ない者だと分かっているのだろう、初めから付与魔法を使ってきた。
ユスギの足が淡く光り輝き、その場から消える。
「だりゃあ!」
後ろに気配を感じて直ぐに足に雷帝のスキルで雷を纏わせ、背後から放たれた蹴りを躱す。
「消えた!?」
櫓もユスギの速度に劣らない程の速さの為、ユスギの目には消えた様に写った。
「早く動けるのが自分だけだとは思わない方が良いぞ?」
「くっ!?」
あえて先程のユスギと同じ様に背後を取り蹴りを放つ。
攻撃を外し隙が出来てしまったユスギに背後からの攻撃は躱せず吹き飛ばされてしまうが、上手く受け身を取りダメージを逃す。
(身体の扱い方が上手いな。相当な武術の訓練を積んできているか。)
何も知らない者から見れば大人の男が幼女を蹴り飛ばしていると言う酷い光景ではあるが、ユスギの実力を知っている観客達は大盛り上がりである。
「流石に実力が高いな。」
「まだまだこんなもんじゃないけどね。」
「そうだろうな、全力を出してもらわないとこっちも面白くは無い。雷撃!」
櫓の突き出した手から幾筋もの雷がユスギに襲い掛かる。
「せい!」
ユスギは魔装した拳を壇上に叩き付ける。
小さなクレーター状に凹んで破片が舞う。
「MENエンチャント!」
空を舞っている破片にエンチャントして、魔法防御力を上げる。
破片は雷によって粉々になってしまうがユスギの元までは一つも届いていない。
「汎用性が高いな。」
「そうでしょ?日陰魔法なんて言わせないよ!」
今度はこちらの番と言わんばかりに壇上を蹴り櫓に接近する。
「AGIエンチャント!」
今度は足だけでなく腕も淡い光りを放っている。
先程櫓の背後を取るまでは良かったが、攻撃最中に避けられてしまったので、攻撃速度も上げて躱されない様にしたのだ。
「更にSTRエンチャント!つよつよパンチ!」
ユスギの拳が更に光りを強め、空気を切り裂きながら櫓に向かってくる。
魔力消費量を気にしないのならば躱せない事も無いのだが、一度は受けてみたいと思っていたので、腕を身体の前で交差させ魔装して受ける。
ユスギの拳が触れた瞬間身体は壇上と水平に物凄い速さで吹き飛ばされていた。
(これは予想を超える威力だ、まさかこれ程とはな。)
受け止めた腕も魔装したので外傷は無いが少し痺れている。
痺れて動かしづらいが吹き飛ばされながらその両腕を強引に後ろに向ける。
「極雷砲!」
両手から荷電粒子砲の様な極太の雷のレーザーが後方に放たれる。
観客席のある下の壁に当たり、爆音が鳴り響いている。
そのおかげで吹き飛ばされていた速度は減少して、場外まで行かずに壇上に着地出来た。
観客席に攻撃が行かない為に魔法道具で結界が張られているので遠慮は要らない。
「危なかったが耐えれたな。」
ユスギを見ると耐えるとは思っていなかった様で、驚いてはいるが、直後その口元が不適に笑った。
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