130話 高き壁
ユスギの戦いが終わった後も十三のブロックまでバトルロイヤルが続き、トーナメント戦参加者が決まった。
トーナメント戦に進出したのは三十五名で、くじ引きで対戦者が決められていく。
決められた対戦表を司会者がアナウンスして、賭け店もそれを元に商売を行なっている。
「初戦から仲間内での戦いは無かったな。」
「ですが勝ち進めば二回戦で当たる組み合わせもありますわね。」
「はぁ、勝てる気がしないです。」
ネオンはがっくりと肩を落とす。
トーナメントの組み合わせ上お互いに勝ち進めば、二回戦でネオンとミズナが当たる事になっている。
元々水の精霊であるミズナの戦闘力は高いのに、スキルの相性も火と水で悪い。
「戦う前から諦めるなって、全力を出す事が大事なんだから。」
「そうですわ、勝てないと最初から諦めては成長が止まってしまいます。」
「そうですよね、やってみなくちゃ分からないですよね。」
ネオンは無理やり気合を入れて自分を鼓舞する。
「ネオンでも油断しない・・・。全力出すから覚悟する・・・。」
元々仲間内でも真剣勝負で手を抜く気は無いが、ミズナはご褒美があるから更に本気を出す様だ。
「ううう、でも負けないです。」
ネオンもミズナも一回戦の心配はしていない様だ。
トーナメント戦に進出した選手達は、中々の実力だが櫓達はその中でも頭ひとつ抜けている。
「てか他人事みたいに話しているが、シルヴィーも二回勝ち進んだ準々決勝でネオンかミズナと当たるよな。」
「誰が相手でもやる事は変わりませんわ。」
元々Aランクで実力の高かったシルヴィーも、旅立ってから積極的に戦い更に強くなっている。
旅立つ前はミズナの実力と少し開きがあったが、今ではその開きが殆ど埋まっている。
「間も無くトーナメント戦一回戦第一試合を行います。出場される選手は壇上にお上がりください。」
司会者のアナウンスが響き渡り一回戦が始まる。
一回戦は特に問題なく進んでいき、二回戦に進む十六名が決まった。
櫓達は全員一回戦を突破し、冒険者ギルドで櫓に蹴りを入れてきたユスギも突破している。
予選とは違い普通に体術のみで相手を圧倒しており、櫓から見てもかなり良い動きをしていた。
トーナメント戦は二回戦に入り、ネオンとミズナの番になる。
ネオンはミズナが相手と言う事もあり少し緊張しているが、ミズナはいつも通り落ち着いている。
「それでは、二回戦第三試合始め!」
「先手必勝です!」
司会者の合図と同時にネオンが地面を蹴る。
走りながら愛剣にスキルで炎を纏わせていく。
「天剣十式・神無月!」
「水城壁・・・!」
ミズナに接近して必殺の刺突を放つ。
しかしミズナがスキルで出した水の壁に阻まれ、ミズナには届かない。
「水流砲・・・!」
ネオンに向けられた手から極太のレーザーの様に大量の水が放たれる。
「くっ!?」
当たればその水圧で場外まで吹き飛ばされてしまうので必死に回避する。
そしてネオンは回避しながら手を振り、火の玉を量産していく。
水流砲に当たり幾らかは消えてしまうが、壇上には沢山の火の玉が浮いている。
「炎舞!いけっ!」
壇上で浮いている火の玉を四方八方からミズナに向かわせる。
訓練により技の練度が上がり、自分の生み出した炎なら遠隔操作である程度動かす事は可能になっていた。
ミズナは特にスキルを使う事なく、迫り来る火の玉をギリギリまで引き付けて、機敏に全て交わしていく。
その動きを見てネオンだけでなく、櫓やシルヴィーも驚いていた。
ミズナは普段から眠そうにしていて、スキルや魔法で遠距離攻撃の戦い方をするので、素早い動きをするミズナなど見た事がなかったのだ。
「そんな動き出来るなんて聞いてないですよ〜!?」
「近接が苦手なんて言ってない・・・。」
ミズナは遠距離での戦い方を主にしているが、近距離戦が出来ないと言うわけでは無かった。
ただ単に疲れるからしないだけである。
「油断だめ・・・。」
少し距離を開けて相対していた筈のミズナの声が直ぐ近くから聞こえる。
目線の先にはミズナが立っているが、声のした方を見ると水溜りからミズナが現れる。
どちらを対処しようか一瞬迷った隙に、水溜りから現れたミズナによって床に組み伏せられてしまう。
「こっちが本物でしたか。」
「驚いて油断したから負け・・・。」
遠くにいたミズナは水に変わり、バシャアアアンと壇上に落ちる。
「まだ勝負は付いていないですよ。」
ネオンは組み伏せられた状態から、スキルで炎を出そうとする。
しかしスキルは使えている筈なのに炎が出てこない。
「な、なんで!?」
「手から出す以外も練習する・・・。」
ひんやりとしたミズナの手で気付かなかったが、自分の手を見てみると薄らとした水で覆われていた。
スキルで炎を出す度に覆われている水によって消されていたのだ。
「こ、降参します。」
「ネオン選手降参により、勝者ミズナ選手!」
ネオンは残念そうにしながらも降参を宣言した。
閲覧ありがとうございます。
ブックマークやポイント評価よろしければお願いいたします。




