129話 一撃必殺
「そこまで、九回戦は壇上に立っている五名が勝ち抜けとします。」
司会者のアナウンスに会場から歓声が上がる。
どの試合も観客席を沸かせる物ばかりで大盛り上がりである。
「ネオンさんも無事勝ち抜けましたわね。」
「これで全員予選は通過したな。」
既に四、五回戦に出た櫓とシルヴィーは予選通過を余裕で決めていた。
自分達が出ていない試合でも侮れない者が複数いて、選手ではなく観客としても楽しめていた。
「さて換金してくるか。」
櫓はネオンに賭けた時に貰った賭け木札を持って、賭けの店に行く。
「これ頼む。」
「あいよ、兄ちゃん儲けまくりだな。トーナメント戦はあんたらに賭ける奴らが多そうだ。」
「負けても責任は取れないけどな。」
店主から金貨や銀貨がジャラジャラ入った袋を受け取る。
四人分の賭けに勝っているので、これだけでもかなりの収入となっている。
「おっ、戻ってたか。」
「やりましたよ櫓様!」
席に戻るとネオンが既に戻ってきてシルヴィーと話していた。
「ああ、良い立ち回りだったぞ。これで俺達の予選は終わったが、予選は残り四回あるから観ながら腹ごしらえでもするか。」
そう言って賭け金を受け取った帰りに、食べ物の出店を周って買ってきた物をボックスリングから出して手渡していく。
串焼き、ハンバーガーの様な物、ステーキ、スープなど様々である。
「以外とトーナメント戦に出場する人数少なそうだよな。」
一回戦のミズナの試合を見て、必ずしも五人勝ち上がる訳では無いと知り、トーナメント戦の人数を減らそうと二人や三人しか勝ち抜けなかった所もある。
「ライバルが少なければ勝ち上がる可能性も上がりますし、有り難いですね。」
「その代わり強者ばかりのトーナメント戦になるが、良い訓練にはなりそうだ。」
「そろそろ始まりそうですわね。」
櫓達が話している間に壇上には十回戦に参加する者達が集まり始めている。
「お!今までに比べて魔法使いの人数が少ないですね。」
どのブロックでも半分以上が魔法使いを締めていたが、十回戦に出場する選手達を見ると十人程しか居ない。
「随分と偏ったみたいだな、ん?」
「どうかしましたの?」
「あそこにいる奴、この前ギルドで俺を蹴った奴だ。まさかトーナメント戦参加者だったとはな。」
壇上を指差して教える。
三人はすれ違いとなり冒険者ギルドで櫓の股間を蹴った犯人を見てはいないので分からないのだ。
「確かに見た目からは分からないですね。」
「私も初対面でしたら怒らせてしまったかもしれませんわ。」
「だろ?」
ネオンとシルヴィーもあまりの小ささに十七歳には見えなかった様だ。
櫓は調査の魔眼を使って女の子を見る。
名前 ユスギ
種族 人間
年齢 十七歳
スキル 詠唱省略
状態 平常
スキルに関しては始めてみる物だった。
「珍しいスキルを持っているな。」
「あの女の子ですか?」
「ああ、詠唱省略と言う名前で、ほぼ詠唱が無くてもイメージだけで魔法を使用出来るスキルの様だ。」
魔法を使う時には、その魔法が起こす現象をイメージする力と言葉にして詠唱する事が求められる。
その二つが合わさって始めて魔法を使用する事が可能となるのだが、詠唱省略のスキルは魔法発動の殆どをイメージする力のみで成功する様にサポートしてくれるスキルなのだ。
「初めて聞きましたわ、魔法使いであれば誰しもが欲しがるスキルですわね。」
「恩恵の宝玉でもしあるなら是非欲しい所だな。」
櫓達のパーティーは全員がそれぞれ魔法を使える。
強力な魔法をほぼノータイムで打ち出す事が可能なのだとすれば、かなり有用なスキルだ。
「それでは参加者が揃いましたので、予選第十回戦を始めたいと思います。皆さん準備は宜しいですか?」
お手並み拝見とユスギの戦い方を観る事にする。
ユスギは壇上の隅に位置し、武器は持っていなく司会者のアナウンスで拳を構えたので、拳闘士であり魔法も使う戦い方なのだろう。
「それでは予選十回戦始め!」
何人かが見た目から侮っているのだろうユスギに向かっている。
対するユスギは腰を落とし右手を引き、一気に拳を突き出す。
櫓はユスギを観ていたので気付いたが、拳を突き出す前に口元が僅かに動いていた。
ズドオオオンと言う轟音が響き渡り、拳圧でユスギの前方方向にいる選手達が葉っぱの様に軽々と吹き飛ばされていく。
壇上も頑丈な素材で作られている事は選手ならば上がった時に分かったが、拳圧でヒビ割れだらけだ。
ユスギは壇上の隅から中央に向けて拳を突き出したのだが、その拳圧に耐えて壇上に残れている者は一人も居なかった。
吹き飛ばされた者達や観客は、あの小さな女の子がやったとは信じられず唖然としている。
「そ、そこまで、十回戦はユスギ選手以外全員場外で失格。予選勝ち抜けはユスギ選手のみとします。」
司会者も唖然としていたが一足早く我に帰り、ユスギの勝利をアナウンスする。
その後観客席からは予選最大の歓声がユスギに注がれるのだった。
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