126話 男にしか分からない痛み
魔法都市マギカルに向かう途中でも魔物と何回か戦闘をしたため、到着したのは翌日の昼頃だった。
「うわあ、魔法使いがいっぱいですね!」
マギカルの門で入る手続きをして、中に入って見た一番の感想だった。
通行人の殆どが杖を持っていたり、ローブを羽織ったりしている。
魔法都市マギカルは魔法の研究が国で一番盛んな場所なので、初心者から上級者まで学ぶ事は尽きないのだ。
せっかくの魔法都市なので、長めに滞在しようと言う話になり、それぞれ魔法を使える四人は滞在している間にこの街で得られる知識を自分の糧に出来れば言う事ない。
「今日はこれからどう致しますの?」
「取り敢えず馬車を預けられる宿を探さないとな。それと俺は冒険者ギルドに素材の売却とか解体の依頼とかをしに行きたい。」
オーガが大量にいた森ではオーガ以外にも多種多様な魔物達と戦った。
その為前の街で解体の依頼で減ったボックスリングの中に新たに大量の魔物の死体が溜まっていた。
相当な量なので売ればかなりの額になるだろうが、死体の状態で収納しているので解体する必要がある。
「あ、少し先に冒険者ギルドが見えますよ。」
「私達が宿を取り冒険者ギルドに向かいますから、先に行かれては如何ですか?」
「そうか?なら先に行ってくる。ミズナ止めてくれ。」
御者台と馬車内を繋ぐ小窓を開けて声を掛ける。
止まった馬車から櫓が降りた事を確認したミズナは、宿を目指して再び馬車を走らせて行った。
「ロジックの冒険者ギルドとは随分と違うな。」
冒険者ギルドの看板には杖や本等が描かれており、魔法使い要素が多い。
中に入っても魔法使いが半分を占めている程多かった。
受付は昼と言う事もあり混んではいなかったので、直ぐに櫓の番となった。
案の定素材の買取は量が多すぎる為、査定が終わる明日にまた来て欲しいと言う事になった。
魔物の解体の依頼は櫓が際限なくボックスリングから魔物を出していった為、受付嬢が数日間常設クエストとして募集しつつ、手の空いているギルドの解体員を使って今からやってもらえる事となった。
一通り用事が終わり、ギルドの酒場で腹ごしらえでも
しようかと思っていると、突然櫓に向けて大人の男が吹き飛んできた。
「おっと。」
「ぐえっ!」
咄嗟に手を前に出して受け止めたが、思ったよりも男の勢いがよかったため、背中に手が当たった後に空中で海老反りの様な姿勢になってそのまま床に落ちる。
男は無理な姿勢をしてしまい身体が痛いのか、起き上がる様子は無い。
「てめえ、よくもやりやがったな?」
「あんた達から最初に喧嘩売ってきたんでしょ!」
男が飛ばされてきた方角を見てみると冒険者同士が喧嘩している様だ。
冒険者の中には荒くれ者も多く、冒険者同士の喧嘩など日常茶飯事である。
ギルドも半ば諦めているが、建物への被害や過度な攻撃に発展しそうな場合は強制的に対処はするので、言い合い程度であればスルーしている者が殆どである。
今回言い争っているのは、一人の小さな女の子とそれを囲んでいる複数人の大人の男だった。
弱い者虐めでもしている様に見えてしまい、見過ごす事は出来なかった。
「おい、大人が複数人で女の子を取り囲んで大人気ないだろ。」
「ああ!?なんだてめぇ、横から口出してきてんじゃねーよ!」
男が櫓の胸ぐらを掴もうとしてくる。
しかし掴まれる前に逆に櫓が男の手首を掴んで捻り、床に組み伏せる。
「いでででででっ!?」
「それともう一つ、ギルドの中で喧嘩をするな、他の冒険者の迷惑になる。喧嘩がしたいなら表でやれ。」
櫓が流れる様な動きで男を組み伏せた事で、取り囲んでいる男達が驚き固まっている。
「分かった、分かったから離してくれ。」
組み伏せていた男を離してやると、仲間の男達を引き連れて、櫓が受け止めた男を拾って足早に去って行った。
自分達では敵わない相手だと認識出来るくらいの実力はあった様だ。
遠巻きに見ていた冒険者や受付嬢からは拍手が起こる。
「大丈夫か?なんで子供が一人でこんなとこにいるんだ?」
目線を合わせる様に屈んで尋ねる。
女の子はプルプルと震えていて、男達が怖かったのだろうと櫓は思ったが全然違っていた。
「子供扱いするな!目線を合わせるな!私はこれでも十七歳だああああああ!!!」
女の子は叫ぶと同時に目の前で屈んでいる櫓に向けて蹴りを放ってくる。
それは櫓の両足の間を通り、股に突き刺さった。
「ぐうっ!?」
櫓は声にならない声を上げてその場に蹲る。
「ふんっ!」
女の子は怒って、櫓を放置して冒険者ギルドを出て行ってしまった。
櫓はあまりの痛みに起き上がる事が出来ず、一部始終を見た男達は憐みの視線を向けていた。
「何をしているんですか櫓様?」
「みっともないですから早く立ち上がって下さい。」
「ご主人床で寝たらダメ・・・。」
櫓を蹴った女の子と入れ替わる様に冒険者ギルドに入ってきた三人は、床で蹲っている櫓を見て状況が分からない為好き勝手な事を言っているが、痛みに耐える事に必死で返答する事は出来なかった。
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