125話 仲間第一
「それでさっきのはどう言う事なんだ?」
櫓がネオンに問い掛ける。
櫓の攻撃を制してまでクラメと戦わせない様にした事についてだ。
「櫓さんから聞きましたが魔王らしいですわね。私達の目的を忘れましたの?」
シルヴィーもネオンがクラメを庇った理由を気にしている。
既に調査の魔眼で見た情報は皆と共有している。
「正直に言うと魔王である事は知りませんでした。しかしあの人は私の命の恩人なのです。」
「魔王が命の恩人?」
「はい、私が奴隷になる前の小さな頃の話です。」
そう言ってネオンは幼少期の頃について語った。
森に焚き火の材料になる木の枝を拾いに行った時の事だ。
森の入り口付近は他の子も取っていくため殆ど落ちていない。
なので大人達には危険だから絶対行くなと注意されていた森の奥に少しだけ踏み入った。
立ち入るものがいないので木の枝も沢山落ちている。
拾うのに夢中になっていたネオンは、魔物に周りを囲まれてからその存在に気付いた。
幼いネオンはスキルも発現していないので戦う術を持たない。
恐怖で震えていると魔物達は獲物であるネオンに一斉に襲い掛かってきた。
死を覚悟した瞬間、逆に魔物達が一瞬で死体となっていた。
そして近くにはとても美しい女性が一人立っていた。
死の危険が過ぎ去り、助かったと緊張の糸が切れてネオンは気絶してしまった。
気が付くとネオンは森の入り口付近で倒れており、夢だったのかとも思ったが、傍には子供一人では到底運ばない程の木の枝が沢山積まれて置いてあったのだ。
「その助けてくれた人がさっきの魔王だって事か?」
「間違いありません、匂いを覚えてるんです。魔物の様で魔物じゃない不思議な匂いを。」
子供の頃に助けられた時の事が衝撃的過ぎて、女性の匂いをしっかりと覚えていたのだ。
そしてクラメからは幼少期の頃に助けられた女性と同じ匂いがしたのだ。
「まあその件は分かった。しかしあの魔王からは大量の血の臭いがした、ネオンの時は気紛れで助けたとかじゃないのか?」
「あの魔王は危険・・・。」
ミズナもクラメの事を危険視している様だ。
合流してから聞いたのだが、膨大な魔力と濃い血の臭いを感じて、自身では対処出来ないと判断して救援砲を打ち上げたらしい。
「皆さんには判断出来ないかもしれませんが、獣人である私にはあれが人間の血でない事が臭いで分かります。あれは魔物の血の臭いです、それも最近の。」
普通の人間と違い五感が優れている獣人のネオンには血の嗅ぎ分けが出来る。
ちなみに精霊であるミズナは、常人よりは五感が優れているが獣人の様に突出している訳では無いのでネオンの様には分からない。
そして魔王から感じられた濃い血の臭いと同じ血の臭いを森の奥から感じるとネオンは言う。
その方角は櫓とシルヴィーが探索した洞窟の方角だったのだ。
「魔物の血の臭い?魔王が魔物を狩っているって事か?」
「理由は分かりませんが間違い無いです。」
魔王や魔物は全てが仲間と言う訳では無い。
気に入らない者を殺す者も居れば、違う種族の者を次々と配下に加える者も居るのだ。
「そうなりますと洞窟の件もその魔王が絡んでいる可能性が高いですわね。」
「確かにそう考えると繋がるか。」
オーガの魔王やその配下達が全て同じ殺され方をされていて、かなり手練れの冒険者がやったのだろうと思っていたが、櫓を軽くあしらうクラメの実力であれば造作も無い事だろう。
「しかし魔王が魔王を殺す理由ってなんだ?」
「魔王同士揉め事があったのではないですか?普通の魔物と違い意思疎通が出来る事ですし、意見が分かれる事もあると思いますわ。」
「なるほどな、つまりあの魔王が言っていた事は本当の事で、俺が早とちりしただけって事か。すまなかった、皆を危険に晒す様な真似をして。」
膨大な魔力と濃い血の臭いを感じた時に、ネオンとミズナの万が一を想像してしまったのだ。
その瞬間シルヴィーが来て優勢で戦えるまで全力でクラメの相手をすると言う選択肢以外が無くなってしまった。
「そんな、櫓様は私達の事を思って行動してくれたんですから、謝らないで下さい。」
「私が同じ立場でもその様に行動したと思いますわ。」
「ご主人元気出す・・・。」
ネオンとシルヴィーに気にするなと言われ、ミズナには頭を撫でられた。
「皆ありがとな、次に会ったら謝罪しないとな。」
「私も昔のお礼を言いたいです。あと仲間に誘ってみたいです!」
櫓を圧倒する力を持っていたのだ、仲間になってくれれば即戦力間違いない。
「魔王と言いましてもソウガさんの様な方もいらっしゃいましたし、良いかもしれませんわね。」
レイクサーペントの魔王であるソウガも戦いは好きだが、率先して殺しをする様な魔王では無かった。
ソウガには拘束されたくないと言う理由で仲間になる事を断られてしまったが、魔王や魔物と戦いたくないと言う理由では無かった。
なので理由は分からないが魔王や魔物と戦ったと思われるクラメを誘ってみるのも悪くないだろう。
「まあそれは再び出会えたら決めよう。取り敢えずここまで来たんだ、魔法都市マギカルには行ってみようと思うがどうだ?」
他の三人から反対意見は出なかったので、四人はオーガの森を後にして魔法都市に向かう事にした。
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