124話 命拾い
洞窟を上がった場所から移動して十秒程で、光球が打ち上がっている場所の近くまで来る。
(っ!?この魔力は・・、こっちか。)
光球が打ち上がっている場所とは少しズレているが、肌でビシビシと感じる程の膨大な魔力に気付き、そちらに方向転換する。
離れていたため分からなかったが、近付く程に圧力が増してくる。
ミズナも自分達のいる場所の近くからこの魔力反応を感じて、知らせる為に救援砲を打ち上げたのだろう。
魔力の持ち主は少しずつ移動している様で、その方角にはネオンとミズナがいる。
(人間の魔力では無い様だから魔物か。それとかなりキツイ血の臭いがするがどれだけ殺しているんだ?放っておくとヤバそうだから殺るしかないか。)
高速で移動しているので、膨大な魔力の正体が直ぐに見えてくる。
近付くまでの僅かな時間を使い情報を集めようと調査の魔眼で見る。
名前 クラメ
種族 ???(魔王)
年齢 四百二歳
スキル ???
状態 平常
(ちっ、なんで魔王の近くに別の魔王がいるんだ。それに情報が得られないのも厳しいな。)
心の中で悪態をつきつつも更に加速し、一キロほどの距離を一瞬で詰める。
「滅却!」
ブウウウォンと言う風の音を残して、回転して遠心力が加えられた必殺の蹴りを頭上から叩き込む。
「なっ!?」
ドオオオンと言う音が響き渡り、当たった事は分かったが、片手で容易く受け止められている。
「いきなり蹴りを放ってくるとは、人間は礼儀と言う物を知らないらしいな。」
魔王であるクラメが櫓を放り投げて振り向きながら言った。
後ろ姿しか見えていなかったが、人間の様な容姿をしていてかなりの美形だ。
髪や胸の膨らみもあり腰も引き締まっていて、人間の女性と言われても疑わないだろう。
しかしその身に宿っている魔力は人間とは比べ物になら無い。
「さっさと去れ人間、貴様と争う気はない。私は寛容だから多少の無礼は見逃してやる。」
興味が無いと言わんばかりに邪魔者を追い払うかの様に手を振ってくる。
「そう言う訳にはいかないんだ。魔王を放って置くと犠牲者となる人が増えるだけだからな。雷撃!」
雷帝のスキルを発動させクラメに雷を放つ。
しかし櫓の放った雷は、クラメが右手を軽く振るっただけで直前で掻き消えてしまう。
「話を聞かぬ奴だ、人類と争う気など無いと言っている。」
「それならその血の臭いはなんだ?納得のいく説明をしてみろ。」
「やれやれ、見逃してやると言っているのにしつこい奴だ。ならば望み通り殺してやる。」
そう言うとクラメが魔装した右手を先程よりも強く振るう。
すると魔力の塊の様な物が広範囲で飛ばされて来て、飛び上がって躱すしかない。
クラメによって放たれた攻撃により、森の木々がバキッバキッと数十本纏めて折れ、後方の木々も巻き込みながら全て吹き飛ばされていく。
「なんて威力だ。」
「どこを見ている?」
直ぐ後ろから声が聞こえ、その瞬間には背中に鋭い痛みが走る。
直後地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に吐き出される程の痛みが櫓を襲う。
「これで死ぬがいい。」
「神速歩法・電光石火!」
魔力を多く消費する技だが、迷っている場合では無いと判断して、櫓は瞬間移動したかと思える程の速さでクラメの攻撃を躱し、その場を離脱して距離を取る。
直後櫓のいた場所から爆音が響き地面が割れて小さなクレーターが出来る。
「ほお?今のを躱すとは人間にしては良い動きをするな。」
クラメは躱されるとは思っておらず、心底感心したと言った感じだ。
(今のをまともに受けていればヤバかったな。想像よりかなり強いが、魔王ってのは実力に振れ幅が有り過ぎるだろ。)
リザードマンの魔王であるアギトとは比べ物にならない強さだ。
一人で敵わないのならば、シルヴィーが辿り着くまで持ち堪えようと遠距離攻撃に切り替えるため、ボックスリングから霊刀を取り出す。
抜刀の構えを取り、雷帝のスキルで雷を纏わせていく。
「天剣十一式・・。」
「待って下さい櫓様!?」
まさに今剣を抜き放とうとした所に、横から櫓の目の前に手を広げたネオンが割り込んでくる。
その後ろではネオンの姿を見たクラメが少し目を見開き何かに驚いているが、特に誰も気付いてはいない。
「危ないだろネオン、何をしている。」
「と、とにかく攻撃をやめて下さい、大丈夫ですから。」
訳が分からなかったが、ネオンが攻撃線上にいるのにそのまま使う訳にもいかず、抜きかけた刀を戻す。
「ふっ、無駄死にを回避したか。その獣人に感謝する事だ。」
クラメは振り向きそのまま歩いて行く。
「ま、待ってください、貴方はあの時の・・。」
ネオンがその後ろ姿に向けて声を掛けるが、言い終わる前にクラメの姿はその場から消えていた。
「どう言う事だネオン?今の奴と知り合いなのか?」
「はい、説明はシルヴィー様も交えてお話しします。」
その後シルヴィーとミズナと合流して、先程の魔王についての話をネオンから聞く事になった。
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