121話 上位種族
馬車を引く馬の近くにネオンとミズナを残して、櫓とシルヴィーは二手に別れて森の中に入っていた。
「ふぅ、進むにつれてオーガの数が増えてくるな。」
櫓の近くには襲い掛かってきたオーガ達が転がっている。
数は多いが櫓にとっては苦戦するほどでもない。
「疲れが溜まってつまらないミスをしなければいいけど、まあこれが有れば最悪なんとかなるか。」
腰にぶら下げてある筒状の物を見る。
救援砲と言う魔法道具で、魔力を込めると光の球を打ち出す事が出来る。
これを空に向けて使えば、使用者の大体の場所を把握する事が出来る。
「ゴオアアアア!」
「ちっ、次から次へと。っ!?」
森の中から新たなオーガが走ってきて拳を叩きつけてくる。
間一髪で躱せたが、先程までのオーガとは比べ物にならない速度だ。
「普通のオーガじゃないな。」
櫓は神眼のスキルを発動させて、調査の魔眼を選択する。
種族 ハイオーガ(魔物)
スキル 身体強化
前に魔物図鑑を読んだ時に書かれていたのでハイオーガの存在は知っていた。
姿形は普通のオーガと同じで、少しだけ大きいかと言った感じなので、戦いの最中に見た目での判別は難しい。
オーガの上位種族であり、Bランク指定の魔物ではあるものの、Bランク帯の中ではトップクラスの強さを誇っており、Aランクの魔物と大差ない強さを持っている。
「こんなのまでいるのか、オーガの魔王って線がより高まったな。」
手を前に突き出し雷帝のスキルを発動させる。
基本的に上位の魔物と戦う時は、遠距離から仕掛けて様子を見る。
「雷撃!」
雷が放たれハイオーガに直撃する。
身体の前で丸太の様に太い腕をクロスさせて防御を取っているので、防御行動もしない唯のオーガより知恵も高そうである。
防御とスキルのおかげかダメージを受けて入るものの、倒し切れてはいない。
「グオオオオ!」
ハイオーガがその場で拳を地面に叩きつける。
ドゴオオオンと言う爆音が響き渡り、砂煙が舞い上がり、激しい地震が起きたかの様な揺れが起こり、近くにいた櫓はバランスを崩して地面に手を着く。
その隙を見逃すまいとハイオーガが地面を踏み砕き突っ込んできて拳を振り下ろす。
「知恵が回る魔物は厄介だな。」
櫓は頭上に迫ってきているハイオーガを軽く見上げて目を合わせる。
神眼のスキルを発動させて呪縛の魔眼を選択する。
ハイオーガは拳を振り下ろした姿勢で時が止まったかの様に動きが止まる。
「使い勝手の良い魔眼は有難いな、貫手!」
動きが止まったハイオーガの胸に櫓の右腕が突き刺さり埋まる。
腕を抜くとドバァッと血が吹き出してきて、ハイオーガは地面に倒れ絶命した。
ボックスリングにハイオーガを仕舞い、タオルで右腕に着いた血を吹く。
「強かったがシルヴィーなら勝てるだろう。だがハイオーガが魔王の所に何十体も居るとしたらちょっとキツいかもな。」
櫓の攻撃の中で威力は低い部類に入る雷撃だが、ダメージを与えただけで動きもあまり弱まらせる事が出来なかった。
そのため行動不能にする、又は殺す程の攻撃を広範囲にするとなると、天剣の上位技や魔法となってしまう。
しかしリザードマンの魔王であるアギトと戦闘をした様な洞窟や地下を拠点とされていた場合、大規模な攻撃をしてしまうと共に生き埋めになってしまう可能性もあるので、その場合は使用出来ない。
「体術で一体一体倒せる事は倒せるが、魔王が眺めて待ってくれる訳もないしな。おっ?」
ハイオーガが来た方向に歩いていると洞窟を見つける。
その洞窟からはオーガが何体か出入りしていた。
(あの洞窟か?)
透視の魔眼を使い洞窟を見る。
深くまで繋がっている様で先を追っていくが、途中で見えなくなってしまう。
透視の魔眼で見える範囲は視力に依存するので何処まででも見える訳では無い。
(オーガが何体か居るのは見えたが、魔王までは分からないか。入って調べるにしてもシルヴィーと合流してからだな。)
櫓は余計な戦闘をしない様に静かにその場を離れ、シルヴィーが居る方角に向かう。
しかしその途中で又しても同じ様な洞窟が見え、オーガが出入りしていた。
透視の魔眼で辺りを見回すとその他にも二つ発見する。
(どんだけいるんだ?相当な戦力を抱えているみたいだな。)
その後もオーガに見つかれば瞬殺したが、なるべく見つからずに移動していく。
その間に見つけた洞窟は十を超えている。
様々な場所に入り口があり中で繋がっているのだろう。
「ん?」
新たに洞窟を見つけたが今までとは様子が違う様だ。
洞窟の周辺ではオーガが数体既に死んでおり、透視の魔眼で見える範囲内の洞窟の中でもオーガの死体が点々と転がっている。
一瞬シルヴィーが洞窟の中に入っていったかと焦ったが、オーガの殺され方で違うと判断出来た。
死んでいるオーガ達は魔石があるはずの場所のみ貫通して穴が空いている。
その魔石も辺りには見当たらないので全て回収しているのだろう。
綺麗好きのシルヴィーは汚れを直ぐに落とせる状況で無い限り、自分から汚れに行く様な事は極力しないので、血や肉片が付着している魔石を一々回収はしないだろう。
「藍の話だと今回のルートは訓練にもなると言っていたから、冒険者がオーガを訓練目的で倒しているって事もあるか。しかし数が相当な量に加え上位種族まで居るってのは、知らないと死ぬ危険性があるな。」
見殺しにするのも嫌なのでシルヴィーとの合流を急ぐ事にした。
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