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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『神をも裁く断罪者』〜我此処に在りて罪を断罪する断罪者なり〜

作者: 和服座 天六

 

 000 産声をあげた断罪者


 子供の頃は正義のヒーローに憧れていた。

 悪い事をする悪役を、颯爽と現れて倒してしまうヒーローに。

 しかしヒーローは所詮幻想で紛い物で偽善者だった。


 ヒーロは確かに人を助ける、しかしヒーローは悪い奴らすら助けてしまう。

 改心すると思って生きなおすと思って、悪役を許してしまう。

 だから後悔する「あの時倒していれば」と。


 そんな事を気づいた時からだったか、ヒーローに憧れる事はなくなり只々罪のみを裁く存在に憧れを抱く様になったのは。

 正義も悪も偽善も偽悪も何もかも関係なしに、『罪』のみを裁く『断罪者』に憧れを持ち、罪に関して強い感情を抱く様になった。

 そして俺はある言葉を好きになった。


『眼には眼を、歯には歯を』


 やったらやり返される、至極当たり前の事だがしかし、現代を生きる人間にとってそれは難しい事であると同時に認識が薄い事でもある。

 だから人を殺せば死刑になり、殺人鬼には被害者がおったであろう苦痛を与え罰を執行するための『断罪者』になろうと思った。


 しかしこの世界では『力』がすべてだ、力無き者に何かをなす事などでき無い。

 だから強くなろうと努力した、狂気的に機械的に強さを求めた。

 はたから見れば異常であり異端であっただろうしかし、俺には関係なかったただ強くなる為にすべてをなした。


 そして10歳の頃、人類最強と呼ばれる『賢者』ライトマン=オーロリンとの世界大会にて勝利した。

 圧倒的に一方的に勝利した、してしまった。

 誰もが認めた賢者を圧倒的に倒してしまった俺は、ある意味で有名になってしまった。

 それまでやってきた事も公になり、俺は世界中からこう呼ばれるようになった。


『六道の断罪神』


 最初は夢が叶ったと思った、人類最強にも軽く勝利してしまうこの強さに。

 しかし俺は夢を叶えてしまった故に、希望を失った。

 俺に勝てるものなどもうこの世界にはいやし無いだろう、それでも『罪』を犯すものはこれからも減りはせず滅びはし無いだろう。


 人間は卑しい生き物だ、人間は醜い生き物だ。

 他人を見下さなければ生きていけず、他人よりも優位に立っていなければ気が済ま無い生物で、必ず生きていればなんらかの罪を犯す生き物だ。

 そのことに俺は気づき、そして落胆した。


 それからはただ自堕落に生活した。

 山にこもったり孤島に住んだり、監獄を襲って罪人を一人残らず殺したり。

 それでも俺の心は満たされず、世界に対し絶望していた。

 そしてそんな時あいつにあった。


「初めましてかな『六道の断罪神』『神速の死神』『鏖殺の鬼神』様々な呼び名はあるがしかし、今ここではこう呼ぼう『暁 零』くん」


 その人物は、女だった。

 真っ赤な紅の髪を長く伸ばし、整った顔立ちから覗く灼眼は大きく輝いていた。

 女にしてはデカく、今の俺の身長より10センチほどはでかいだろう。

 そして一番俺が興味を惹かれたのは、その女の強さだった。

 目の前の女は五年前戦った『賢者』よりも明らかに強かった、もしかしたら俺が本気で戦えるかもしれ無いと思えるほどに強いと思った。


「私の名前は『レイニー=スカーレット』と言う、キミが五年前に殺した『賢者』の師匠をやっていたものだ」


 師匠?あの老人に師などいたのか。

 しかしそうなるとこの女の年齢は一体、まあそれも俺には関係無いか。


「今日来たのは五年前の事ではなく、君に是非私ときてほしい場所があってね」


 ああまたか、五年前に賢者に買ってから国に仕官しろやギルドに入ってほしいなどという事が多々あった。


「まあそれでも君に利益がなければ受けてもらえ無いだろうから、もしキミが私ときてくれるなら、この『裁定者』と呼ばれた私を君に捧げよう」


「・・・・・・・・」


 俺は目の前の女の言っている事が正直意味不明だった、何を言い出すかと思えば自分を差し出すから俺をどこかに連れていくと言い出したのだ。

 だが、俺はそんな冗談が結構好きだったりする。


「私はこれでも人の身で神に至った『人神』が三席だ、戦闘力には結構自信があるし、容姿も整っていると自負しているが返答は如何に」


 俺はこれまで『強さ』だけを求め、『罪』を断罪する事だけをしてきた。

 だから偶には違う事をしてもいいかなと、目の前の女を見て思った。

 だから聞く、俺の人生にて一番大事な事で最優先事項であるものを。


「お前の正義はなんだ」


 俺の問いに女はポカンとしていた、しかし問いに意味を理解して答えた。


「私には正義はないよ、正義も悪も立場によって変わるものだから」


「そうか」


 俺は黙って目を閉じる、それから何分かたって立ち上がる。


「たまには寄り道もいいかもしれ無いな」


「罪を断罪するための人生を止めるつもりは無いけれど、しかしたまには何かをしても、何かをなしてもいいかもしれ無い」


 俺は立つ、二十メートルはあるだろう大岩の上に。

 そして唱える、言霊であり制約を。


「我罪を断罪する者也、故に我に感情は要らず、故に我に目的は要らず、ただ其処に在るだけの装置であり現象でいい、ーー発現せよ六道の地獄を裁く七罪剣よ」


 そして現れる、七つの大罪からなる武器の一つが。

 他者を気にせず、他者に干渉されず、ただ自分の感情によってだけ存在するそれ。

 傲慢に他者の上に立ち、傲慢に他者を見下し、傲慢な強さを持つ悪魔の剣。


 日本刀と言われるそれは、禍々しいオーラと色をしている刀。

 全てが黒くしかし、なぜか見入ってしまうそんな刀。


「女、俺には目的が無い。ただ罪を断罪する存在だ」


「・・・・」


 女は俺の話を聞きながらも、突然現れた俺の持つ刀に見入っている。


「故に俺を使って何を成すか知ら無いが、俺が罪を認識した瞬間俺の意識に関係なくその場は血の海になるがそれでもいいか」


「・・・・ああいいさ」


「そうか」


 俺は岩から飛び降り、女の目の前に着地する。

 女に背を向け、大岩に向かって抜刀術の構えを取る。


「第6階剣術・抜刀の型・一式・影追い」


 斬る事の最果ての剣術、斬る事のみを目的とされた抜刀術の最高峰。

 自分の影すら、肉体の早さについてくる事が出来無い抜刀術。

 まぎれも無い世界最高の技術を目の当たりにした彼女は、真っ二つにされた大岩を見ながら冷や汗を流す。


「(三席である私でさえ、影を追う事でいっぱいいっぱいだった。もしこれが実際に私に向かって行われたとしたら、今頃死んでいたね)」


 それでも彼女は目の前にいる存在の強さに歓喜しながらも、どこか悲しみの表情をしている。

 それが何に対する眼差しで、何に対するどういう感情かは知ら無いが。


「さて、始めようか。断罪の人生を、終わりなき罪の終わりを目指して」

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