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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第八十八話 書写(copy down) 一年生たち、白骨に彫る呪紋の練習を始める

小屋での素材剥ぎを行い、絆を強め合った生徒会メンバー

翌日は、生徒会で会議を行った後、作業をする、と言う流れになっていた

会議で決めたのは、今年度の部活の予算と、近日中に予定している球技大会の競技であった

様々な意見を出し合った結果、今回の大会はドッヂボールに決定し、男子は男子のみでチームを作る事となったのだった

 「エルフっすか」


 「『組織』に属する、他の学校の術師が捕らえたエルフでな、『退帰』の処理を施す前に、500mlほど献血してもらったらしいんだ。

 人語を解せる個体で、良かったよ。

 エネルギーに還すと言っても、人の姿をしている魔属は手荒く扱うのは憚られるからな」


 ふと、瑛がどこを見ているのか読めぬ、悲しさと怒りが混ざり合っている目をした事に気付く紅壱。どうやら、彼女とは真逆に、人型の魔属に非人道的な行為を、心が痛むことなく行う術師がおり、反りが徹底的に合わないのだろう。


 (・・・・・・敵だな、そいつらは)


 仮に、業務でカチ合ったら、容赦なく、ぶっ飛ばしてしまおう、と決める紅壱。

 吾武一らの上に立つ者としての責務、は建前で、彼は自分の惚れた女に、意見の合わない相手へ憎しみを抱いてしまう自分に嫌気を差させる相手に対し、腸が煮えくり返るだけだった。

 バレたら、瑛の立場が悪くなる事くらいは、彼だって分かっている。なので、バレないようにぶっ飛ばそう、と決意する。

 悪どい顔をしてしまうと、瑛に止められるかも知れなかったので、紅壱は表情が変化しないようにする。当然、意識すると、筋肉に緊張が出てしまうので、それも抑える。

 紅壱の心中、それを気取らせないための努力に、さしもの瑛も気付けなかったようだ。もしかすると、彼に惚れ直して、うっとりしていたために、目も鼻も鈍っていた可能性はあるが。


 「エルフの血でなきゃ、効果が無いんですか?」


 「そういう訳ではないが、エルフは疾風属性の術だけでなく、結界も得意とする魔属の一種だ。

 なので、そんなエルフの血を混ぜた墨で下書きすると、スケルトンの骨を媒体に使っても、十分な強度の結界を張れるようになるんだ」

 瑛の説明に納得して頷いた紅壱だが、ふと、新たな疑問が芽生えた。エルフの血を混ぜた墨ならば、そのままにした方が、結界としての強度は維持できるんじゃないだろうか。

 そこを鋭く指摘すると、鳴が「会長の揚げ足を取るんじゃないわよ」と、殺意の籠った睨みを利かせてくる。

 紅壱は背筋にこそ寒いものを感じたが、気に留めるほどでもなかったので、気にしなかった。

 勘が鋭い紅壱であるなら、そこに当然、気付くだろう、と瑛は予想していたのか、窮した表情を浮かべるでもなく、逆に嬉しそうだ。

 そんな瑛の代わりに、紅壱の質問に恵夢が朗らかに応えてくれた。


 「ヒメ君の言う事は、尤もだよね。花丸あげちゃう。

 けどねぇ、それはダメなんだよぉ。

 エルフの血は一滴くらいしか入ってないんだけどね、下書きをそのままにしておくと、そのスケルトンの骨が核になって、召喚術を使える魔属に再召喚されちゃうんだ、しかも、更に強い個体で」

 「そりゃ、厄介ですけど、彫ったくらいで大丈夫なんですか?」


 「もちろん、魔力は骨に染み込むからな、彫っただけでは不十分だ。

 彫り終わったら、灰に埋めて、他の魔属の気配を付ける事で、エルフの魔力を覆い隠してしまう。

 それなら、私たち人間の術師も安心して、結界を張る際の補助として使用できる」


 「色々と考えてるんすね、はぁ」


 しきりに大真面目な様相で感心する紅壱に、瑛は微かに苦笑して「失敗から学べない愚か者ばかりじゃないのだろう、『組織』も」と皮肉る。


 「ほら、講義も大事だけど、手を動かさなきゃ。

 ヒメ君も中抜けするなら、それまでのお仕事をちゃんとやっていこうね」


 「うっす」


 やんわりと、しかし、厳しく、恵夢から注意を受けてしまい、紅壱だけでなく、彼に教える事が楽しくなっていた瑛も反省する。


 「とは言え、いきなり、骨に書くのは難しいからな、まず、これを手本にして、練習すると良い」


 気まずさを打ち消すように、一つ二つと咳払いした瑛が一年生らに差し出したのは、A4サイズの紙。それには、骨に書き込む呪文、と言うよりも、呪紋と表現するのが適している記号の羅列が大きく書かれていた。

 漢字やアルファベット、ハングル、アラビア語とも異なる文字の形、それを10個、並べて発動する術らしい。

 上から、逆コの字、縦に並んだ三本線、丸、等辺三角形と来て、上下逆の台形で、それには内側に十字線が入っていた。続いて、五重丸、内側が右半分だけ塗り潰されている菱形、横縞模様の小判型、外側の小さな6つの三角形が塗り潰されている六芒星、最後は稲妻だった。


 (文字っつーよりは、記号か、こりゃ。

 種類が大体、50個くらいならいけるかな)


 規則性はあるようだから、覚えるのはさほど、難しくなさそうだった。種類が多い上に、事あるごとにデザインが新たになる地図記号よりは記憶しやすそうだ。


 「メグ副会長、これ、どう詠唱するんですか?」


 何気なしの質問だったのだが、恵夢は困ったように笑う。


 「もしかして、これ自体に音はないんですか?」


 「うん、そうなの。

 もちろん、適当な呪形を並べてるんじゃなくて、しっかりと結界が発動する並びになってるよ。

 その紙だけも、ゴブリン・メイジの魔弾くらいからなら、身を守れるの」


 「・・・・・・会長の手書きでしょうか?」


 興奮が抑えられないのか、鳴の声は熱を帯びていた。瑛に惚れてはいるが、これに興奮するほど拗らせてはいない紅壱、彼を巡るライバルとして真っ向から戦う覚悟を決めている夏煌も、鳴の反応に退いてしまう。

 当然のように、彼らの中で、自分がイメージダウンしている事など、鳴は気にせず、瑛へ迫り、「直筆ですか?」と問いを重ねる。


 「直筆だが、それがどうかしたのか?」


 やや上擦った声で瑛が答えた瞬間に、鳴が浮かべた感情は、「喜び」を表現する、どの言葉にも当てはめられないほど、不純物など混じっていない一色だった。苦しい表現である事を自覚して、どうにか例えるとするならば、処女膜も破られず、長く辛い修行の末に天使を視る事が出来るに到った、敬虔な修道女シスターのようだった。


 「大事にします!!」


 ここ最近、自分は鳴に冷たくし過ぎていたかもしれない、と反省していたからだろう、瑛は「いや、その程度なら失くしても、また書ける」と言いそうになるのを堪え、「そうしてくれ」と、ぎこちなく微笑むのが精一杯だった。


 「この半紙で練習してね。もちろん、使うのは普通の紙と墨だよ」


 棚から、恵夢は50枚近い半紙と、購買で売っている墨汁のボトル(¥398)を出す。


 「筆はこれね」と、彼女から手渡された筆を見つめる。


 「この筆は、市販の物なんですね」


 物品鑑定アナライズにかけると、筆の素材は馬だ、と判明した。一瞬、ペガサスもしくはユニコーンか、と思ったのだが、違うようだった。


 「あ、お前、ペガサスの毛で作った筆があると思ったんだろ?」


 愛梨の指摘に、紅壱は照れ臭そうだ。恵夢あたりから、これを言われていたら、心が読まれたか、と焦っていたところだが、愛梨は勘が鋭い分、人の心を読むような姑息な真似は好むまい、と分かっていた。


 「やっぱり違いますよね」


 「あぁ、違う。

 ペガサスのたてがみ部分を使った筆も、この生徒会には支給されているんだが、いくら何でも、結界の補助具作りには使えない」


 何故だと思う、またしても、瑛から投げられてきた質問を慎重にキャッチし、落ち着いて答えようとする。

 しばらくの間、腕を組み、思い悩んでいた紅壱はおもむろに手を打つ。


 「エルフとペガサスの魔力の掛け算で、大変な事になるんすか」


 「それくらい、分かって当然ですよね、会長。

 アンタ、時間かかりすぎよ」


 「けど、そこそこの知識で、答えに辿り着けるだけ大したもんだろ」


 思わず、ギッと鳴は先輩を睨みつけたが、彼女よりも場慣れしている愛梨は痛痒にも感じないらしく、からかうように「ぴゅぅ」と口笛を短く吹いた。

 後輩を煽るな、と目で注意してから、瑛は紅壱へ指で作った丸を向けた。


 「正解だ。

 しかし、その掛け合わせは攻撃の際には有効だから、覚えておくと良い」


 うっす、と返事をした紅壱に笑みを深め、瑛は半紙を渡す。


 「この半紙へ書いた呪印が、合格点を出せる物、そう、私か、鯱淵先輩が判断したなら、骨に書いてもらう事になる」


 「・・・・・・」


 「アタシは、その手の作業が不得手でさ、アキにやるな、って言われてるんだよ」


 唇を尖らせ、愛梨はそっぽを向いた。教え方こそ厳しいが、面倒見のいい瑛が匙を投げたのなら、相当に酷いのだろう。出来ない事は出来るようになる、その努力は大事だが、時には見切を付けねばならない事もある。その場合でも、出来なかった悔しさは忘れず、出来る事をもっと上手く出来るようになる努力は必須となる。


 「って訳で、アタシは軽く、校内を巡回して、妙な噂が出回ってないか、確かめてくる」


 「お願いします」


 愛梨を見送り、瑛の手から半紙を貰い、紅壱の横を通る際だった、鳴がドスの効いた、真っ暗な声で宣戦布告してきたのは。


 「最初に、会長から合格を貰うのは私よ。アンタじゃない」


 紅壱は振り返る事なく、心中で溜息を吐く。実際に嘆息したら、瑛に気を遣わせてしまうからだ。


 (アイツの会長への愛の深みは認めるけど、見るべき方向が間違ってるっつーか、泥沼に自分から潜っているっつーか・・・・・・もう、勝手にしてくれって感じだな)


 瑛の恋人の座を譲る気など1mgとして持ち合わせていないが、こう毎度、敵意を剥き出しにされるのは疲れてしょうがない。

 他の輩から挑発されたなら、あえて煽られても良いのだが、鳴相手だと、どうにも、やる気が削がれる。 まだ、お目にかかってはいないが、彼女のパートナーが天使だからなのか、それとも、同じ土俵に立ったら、ロクな目にならない、と火を見るより明らかだからか、そこを考えるだけでもバカバカしいのだ。

 かと言って、告げ口をして、先輩らに注意して貰うのも、さすがに女々しすぎる。


 (めんどくせぇったら、ありゃしねぇな)


 男だって、不良だって、魔王の器だって、面倒臭い事態に陥れば、溜息の一つくらいは出ようというものだ。

学園を守る結界を張る際に使う補助道具の作成、それが今日の業務であった

補助道具に使うのは、昨日、磨いたスケルトンの骨。それに、エルフの血を混ぜた墨で、結界を堅甲にする効果を持つ呪紋の下書きを行う必要がある

そこで、一年生らは、まず、その呪紋の練習から始める事に

瑛に褒められるのは、自分が一番先だ、そんな敵意を、いつも通り、隠そうともしない鳴に、紅壱は溜息を吐くしかない

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