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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第八十六話 焼餅(jealousy) 瑛、自分がヤキモチ焼きである、と気付く

いざ、告白、そんな良い雰囲気となった紅壱と瑛

しかし、瑛を誰にも渡したくない鳴によって、その空気は理不尽にも壊されてしまう

しかも、鳴はとことん、紅壱に嫌がらせをすべく、外で作業していた夏煌と彼を勝手に交代させてしまうのだった

一体、鳴はどこまで、嫌な女になっていくのだろうか

 「しまった」


 瑛はしかめっ面で、握り砕いてしまったオークの頭部をゴミ箱に捨て、手の平を拭う。

 紅壱の戻りが遅い、もしかして、夏煌と歓談おしゃべりしているのでは、と不安が募り、掌に力が入ってしまったようだ。

 愛梨や恵夢に素の握力が劣る瑛だが、恋の力は無意識に、豚頭魔オークの、補助魔術で強化していない警棒で殴られても、タンコブ一つできない頭を握り砕くほどの力を出させるようだ。


 (いかんな、この程度で心が乱れるなど)


 自らのヤキモチを恥じる瑛は耳切りに集中しようとするのだが、すぐに作業の手は止まり、また、オークの頭部は、木端微塵になってしまう。


 「これでは、辰姫に呆れられてしまうぞ、獅子ヶししがやあきら!!」


 パシンッ、と己の頬を打つ瑛。気付かない内に、いつもより力が入っていたのか、頬に走った痛みは強かった。けれど、今の彼女にとっては、心が静まって、丁度、良かった。


 (役員の仲が深まる、それは良い事だぞ、うん。

 ちょっとくらいのお喋りに目を瞑る程度の懐の深さは持たねばな、会長として。

 そうだ、紅壱の気さくなトークで、大神が外交的に少しでもなれたのなら、それは良い事じゃないか)


 他愛もない話で笑い合っている紅壱と夏煌を、瑛は思い浮かべた。

 直後、彼女の掌は、新たに持ち直したオークの頭部を握り砕いていた。


 (私は、こんなにもヤキモチ焼きだったのか)


 付き合っているならまだしも、気持ちすら伝えていないのに、ライバルを妬むなどカッコ悪すぎる。


 「彼に、私のこんな所を見られて、落胆されたらどうしよう」


 紅壱が自分に失望が宿った目を向けない事など、誰に諭されなくても、惚れている瑛自身が一番に分かっている。だが、彼女にとって辛いのは、そんな目で見られる事じゃなく、そんな目を気遣いから背けられる事だった。


 「そうだ、ブチブチと不平不満を垂れ流しにしていたって、何の解決にもならないじゃないか、私。

 らしくない、と自覚できるのなら、行動あるのみだ。

 大神が紅壱と仲良くしようと努力するなら、私も頑張れば良いだけだ」


 負けてたまるか、と力強く握りしめられた瑛の瞳は、真っ赤な炎を激しく宿す。その炎の色彩は、まるで彼女の勇敢さを表現しているようだった。

 その炎が揺らいだのは、瑛がふと、気付いたからだろう。


 (しかし、現実問題、どうしたらいいんだろうか)


 先程のような、告白に相応しい空気へ持って行くのは、もう無理だろう。

 かと言って、夏煌にリードを許してしまった可能性がある以上は、何らかのモーションは起こしておかなければならない。聡明な瑛の頭を悩ませるのは、そこだ。

 あまり、ベタベタと触れては、紅壱に節操がない女と思われかねない。そもそも、紅壱に触れる、それを心に思い浮かべただけで、拳だけでなく、全身が炎に包まれてしまいそうになる。


 (彼を燃えた手で触る訳にはいかないから、イメージの中で触るのに慣れるまでは我慢だな)


 なら、会話をしようか。けれども、会長の自分が手ではなく、口ばかりを動かしていたら、威厳が薄まってしまう。仲間を圧迫し、思うがままに動かしたい訳じゃないが、いざと言う時、自分の指示に素直に従ってもらう為にも、日頃から、リーダーとしての品格が疑われるような言動は避けておきたかった。


 「・・・・・・よし」


 辰姫が戻って来たら、拳一つ分近い場所に座ろう、そんな決断を瑛は恋心の中で下す。

 だが、彼女は察せなかった、この自分の決心が無駄になってしまう事を。

 ギィ、と扉が開くや、瑛は満面の笑みを浮かべ、「遅いぞ」と告げようとした。

 だけれども、入り口に立ち尽くしていたのは辰姫紅壱ではなく、大神夏煌だったものだから、瑛が発そうとしていた叱責は形になる前に、空気上で消え散ってしまう。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 鳴の必死な言い訳は必要なく、瑛の耳にも入っていなかった。

 こちらを申し訳なさそう、または気まずそうに見つめてくるライバルの目を見れば、何が起きたのか、は容易に察せた。この時ばかりは、瑛は己の聡明さを恨みたくなる。


 (辰姫・・・・・・)


 今日はもう、紅壱と一緒に作業できない、その衝撃は、さすがに瑛にも重かったらしく、彼女は立ち上がれない。どうも、精神的なショックが度を越えたあまり、腰が抜けてしまったようだ。

  愕然としている瑛の顔を目の当りにして、夏煌の胸は罪悪感ではち切れそうになった。

 けれども、恋する美少女である二人は、この状況と状態にすら、紅壱にベタ惚れ直す要素を見つけるのだった。

 単純作業で疲労した友人に気持ちを整え直す機会を与えられる優しさも、瑛と夏煌の恋心を一層に華やかにしたらしいが、そこよりも二人にとって好感度が上がった点は、自分たちの気持ちにまるで気付く事の無い、気配りの出来る紅壱の気の利かなさだった。


 (こういう的外れな所も、可愛いな)


 瑛からの無言のメッセージを受け取り、夏煌は「激しい同意」の意味も込め、右の親指を立てた。


 「・・・・・・大神、作業を教えるから横に来なさい」


 コクンと頷いた夏煌はトコトコと歩み寄り、瑛の腕に自分の肩が触れるほどに近い場所へ座った。


 「君の力でゴブリンの角を抜くのは大変だろうからな、オークの耳を切る仕事をしてくれ」


 鳴から、自分まで敵認定されたとは気付かず、夏煌はまた、紅壱に褒めてもらうべく、瑛の手元をしっかりと見つめ、作業を正確に記憶しようとする。

 瑛も瑛で、夏煌へ丁寧で真摯な説明をした事に礼を紅壱に言って貰いたい、と思っていた。

 同じ、気質が面倒臭く、攻略が厄介な男に惚れただけあって、どうやら、瑛と夏煌は似ているらしい。



 「よし、これで最後だ」


 灰を詰めた袋の口を縛る愛梨。


 「浄化の付加エンチャントは、明日にしよう」


 「思ったより、進んだね」


 恵夢の言葉に大きく頷いた瑛は、自慢げに一年生らを見る。


 「彼らが優秀だったからですね。

 君達、よくやってくれた」


 「・・・・・・」


 「大神さんの言う通りです、会長達の段取りが良かったおかげです」


 「そうっすよ。会長らが、しっかり教えてくれたから、俺らも困らずに、仕事を進められたんすよ」


 あざっした、と紅壱が頭を下げると、鳴は一瞬、顔色を失うも、すぐに彼より大きな声を出し、瑛に一礼する。夏煌は、瑛ではなく、恵夢と愛梨の二人に「チョコン」と頭を下げた。


 「では、解散だ。

 明日の挨拶運動は、エリと大神だったな。

 大神の方は問題ないだろうが、エリは遅刻するなよ」


 「大丈夫だって」


 そう笑う親友に不安が募った瑛。一応、モーニングコールはしておこう、と心中で決め、彼女はおもむろに、紅壱に視線を向けた。


 「確か、君は明日、バイトが入っている、と言っていたな」


 「うっす。なんで、五時には帰らせてもらいたいんです。すんません」


 深く頭を下げようとした紅壱を、瑛は手で制す。


 「構わんさ。実際、今日は明日の分までやってしまったようなものだからな。

 しかし、勤労意欲が盛んなのは結構だが、勉学も疎かにしてはいけないぞ」


 瑛の優しさに満ちた釘刺しに感謝しつつ、紅壱は「もちろん」と胸板を拳で叩いた。


 「まぁ、信頼しているがな、今度のテストで、あまりにも酷い点数だったのなら」


 「!! バイト禁止っすか」


 「おいおい、私は、そこまで鬼じゃない。

 だが、マンツーマンでのスパルタ授業は覚悟しておくように」


 それは罰ではなく、むしろ、ご褒美なのでは、いっそ、わざと手を抜こうか、そんな発想も芽生えた紅壱だったが、自身の浅い欲望を振り払う。


 (この人を失望させたくねぇしな)


 幸い、最初のテストは中学生活三年の復習に近い。ある程度、真面目に勉強し直せば、平均点以上は危なげなく取れるだろう。


 (あっちでも、勉強の時間を取れば、問題ないな)


 ズルと言えばズルではあるが、使わなかったらもったいない。

 テスト勉強だけでなく、魔力のコントロールも会得しなければならない。

 不安はあるが、むしろ、期待の方が勝っていた紅壱。

 魔術を使えるようになれば、自分の強さの幅は更に広がる。それは、瑛を守れることにも繋がる。

 何が何でも、自分の魔力を自在に使えるようになるぞ、と紅壱が決意しているとは知らずとも、瑛はやる気十分の彼を見て、朗らかな表情になるのだった。



 辰姫が生徒会に復帰した

 朝は彼と一緒に挨拶運動が出来て、本当に嬉しかった

 しかし、何故、他の女生徒は彼を怖がるのか、私には不思議でしょうがない

 彼女らが黄色い声援を送っている俳優たちにも、顔の作り、スタイルは負けていないと思うんだが

 何より、彼は性格が良い。私が会ってきた男性の中でも、トップだ

 しかも、戦闘力まで高いのだから、非の打ち所がない

 時折、ズレた気の遣い方をしてくれる所もあるが、それもそれで胸がトキめく

 惚れた弱みと言うのは、このような心境の時に用いるのだな、と自分が感じる事になるとは思ってもいなかった

 朝から持続していたウキウキとした気持ちは、放課後に吹き飛んだ

 まず、最初に、エリが紅壱が受け取るはずだった討伐報酬をちょろまかしていた事が発覚した

 本来なら、処刑ものだが、紅壱が笑って許してしまった以上は、私としても手は出せない

 エリ自身は自分の物を買ってしまった、と言っていたが、恐らくは嘘だろう。また、施設に差し入れに行ったのだろう。それ自体は褒めるべきだが、エリの場合、お土産を買っていきすぎなのだ

 子供たちは、エリが来てくれるだけでも喜んでいる。お土産がなかったとしても、エリの事を歓迎しない訳ないだろうに

 後日、もう一度、注意しておこう

 そんな出来事のショックすら霞むほどの驚きが、この後にあった

 大神も、辰姫の事をすすすすすす好いているのだ、と判明した

 大型ゴーレムに殴られた、デビルの電撃が直撃した、デュラハンの悪霊馬に撥ねられた、と言った攻撃のダメージなど比べ物にならないほど、本当に驚かされた

 天が落ちてくるような恐怖と、大地の裂け目に落ちていく恐怖を同時に味わった気がした、あの瞬間

 大神の事は可愛いと思っているし、今後の戦力としても期待している

 だが、自分の気持ちに嘘は吐けない

 それは、プライドが許さないし、私が先輩として譲っても、大神は喜ばない

 だから、真っ向から彼女と戦う、闘いたい

 辰姫を勝者への商品扱いするのは気が引けるも、闘争心は漲ってくる

 小屋で作業している間も、ドキドキしっぱなしだった

 修行や実戦で気が昂りすぎて、自分の鼓動が聞こえなくなる事は、これまで何度もあったが、逆に頭が割れてしまう、と本気で危惧せなばならないほどに五月蠅くなったのは初めてだった

 恋と言うのは、私に知らない「初めて」ばかりを教えてくれる

 嬉しさを噛み締められる一方で、体が持つだろうか、と腰が引けてしまう

 告白をする前から、これほどまでのドキドキを辰姫は私にくれる

 交際が始まったら、これ以上のドキドキをくれるのは間違いない

 しかし、ドンと来い、の精神で立ち向かいたい

 辰姫、明日からの私は一味も二味も違うぞ。覚悟しておくがいいぞ

紅壱が中々に戻って来ない事で、夏煌に対して、ヤキモチの念が渦巻いていた瑛

夏煌に負けないよう、自分も積極的に、紅壱へ自分の気持ちを伝えられる努力をしていこう、そんな決意は、鳴の独占欲に出鼻を挫かれてしまう

何とか、気持ちを立て直した瑛は作業を続け、本日の作業は滞りなく片付いた

明日からは、もっと、頑張ろう、瑛と夏煌はライバルへの対抗意識を強め、今日のところは解散となった生徒会

これから、一体、どんなドラマが展開していくのか、乞うご期待

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