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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第八十五話 妨害(obstruction) 鳴、とことん、瑛と紅壱の恋が上手くいかないようにする

小屋の中で、黙々と、返り討ちにした魔属の死体から、魔晶を作るのに必要な素材を採っていた、瑛、鳴、紅壱の三人

素材を採った残りを入れていた籠も満杯になったので、紅壱は外で作業をしているそれを持って行こうとする

だが、瑛に良い所を見せたい鳴に、仕事を奪われてしまう

その流れで、二人きりとなった瑛と紅壱は他愛のない話で盛り上がっていたが、ふとしたタイミングで、静寂が訪れた

告白するべき時は今だ、そう決心した二人は、ほぼ同時に口を開いた!!

 その瞬間、鳴が外から扉を蹴り飛ばし、顔を覗かせた。


 「ちょっと、何、ちんたらやってんのよ。さっさと持ってきて」


 最悪にベストタイミングで、告白を邪魔されてしまい、紅壱と瑛は言葉の続きを言う勇気が萎むのを感じた。


 「・・・・・・えっと、じゃ、すぐに戻ってくるんで」


 「・・・・・・うむ、頼む。落として、怪我をしないようにな」


 見送られた紅壱は閉めた扉の外で、見送った瑛は閉められた扉の内で、同時に溜息を深く吐くのだった。

 惚れた女に「好きだ」の一言も言えない己の女々しさが情けなくて、紅壱の心中には、わざと妨害した鳴への憎しみすら湧いてこない。

 かと言って、ここで、いつまでも落ち込んだままでは、余計に惨めだ。また、瑛に行った、「すぐ戻ってくる」、この言葉も偽りになってしまいかねない。


 (今度こそ、必ず)


 チャンスを遠ざけそうな、いつか、とは使わず、決意を新たにした紅壱は、告白し損なった男の物とは思えない、軽い足取りで、愛梨らの元へ急ぐ。

 

 

 小屋の後ろで、愛梨、恵夢、夏煌の三人が個別の作業をしていた。


 「・・・・・・」


 夏煌は、擂鉢に木の実を入れ、丁寧に磨り潰している。マスクを二重にしている所を見ると、木の実が発する匂いが相当にキツいのだろう。夏煌は目元しか出ていなかったが、随分と吊り上がり、眉間にも深い皺が寄っていた。


 「ウッドペッカー・フザン・ピッチョーネ・シュヴァルベ・クエルボ・サヴァー・ミールウス・イェラキ・サクル・ジュ」


 恵夢は瓶に満たした水へ掌を浸し、澄んだ声で呪文を詠唱していた。恐らく、その呪文はただの水、もしくは、魔力から創生した水に、破魔の効力を染み込ませるものなのだろう。素人だけではなく、並みの術師でも舌を噛んでしまいそうなそれを、恵夢は一字も欠けずに暗記しているらしく、手元には魔導書やカンペも類もない。


 (エリ先輩は、火の番か)


 自分らと比較したら怒るだろうな、と思いつつ、どちらかと言えば、一般人にビビられる側である愛梨がゴブリンの腕やオークの足、コボルドの胴を中で燃やしているドラム缶の傍にいると、鬼女みたいだな、と考えてしまう。


 「ん、コウイチ、ナル、それ、火の中に放り込んでくれ」


 紅壱が来た事に気付き、愛梨は彼らが運んできた籠へ杖の先端を向けた。


 「一緒に入れちゃってもいいんですか?」


 「灰になっちまえば、どれも同じだよ」


 「いいんですか、太猿先輩、そんな適当な事を言って」


 苦言を呈す鳴は、呆れ顔だ。しかし、そんな風に大雑把だからこそ、木の実を磨り潰す作業、水の前で呪文を唱え続ける作業は任されないのだろう、愛梨は。


 「まぁ、エリ先輩が良いって言ってるんだ、構わず入れようぜ、豹堂。

 何か不具合があったら、メグ副会長のキッツいお説教はエリ先輩一人で受けて貰えばいいじゃねぇか」


 「!!」


 「・・・・・・アンタに同意するのは癪だけど、否定する必要もないから、今回はあえて、そうしましょう」


 まさか、この二人が結託するとは思ってもいなかったので、愛梨は仰天してしまう。

 そんな彼女のリアクションは気にせず、紅壱はゴブリンとオーク、コボルドの頭部を次々と火の中に放り込んでいく。

 パッと見、人の頭にも見えるこれを燃やしている所を一般生徒に見られたら、通報されるな、と紅壱は今更ながらに不安を覚えた。


 「他の奴に見られたら、どう言い訳すりゃいいんだろうな」


 「ほんと、アンタ、鈍感なのね」


 「どう言う意味だ?」


 「ここら一帯に、人除けの結界が張られてるに決まってるじゃない。

 でなきゃ、学園内で儀式なんかしないわよ」


 「なるほど、確かに」と、紅壱が素直に頷き、感心したような目を自分に向けてくるものだから、鳴は溜息を吐く。


 (やりにくいったら、ありゃしない)


 リスクを承知で、紅壱に手を出させるべく挑発している鳴。

 煽っているのは自分だが、大きな怪我を負わせてしまえば、さすがに恵夢や愛梨も紅壱を庇いきれない、そう画策していた。

 けれども、紅壱は鳴が振る餌に喰いつかない。

 持ち前の勘の鋭さで、鳴の策略を見抜いているのではなく、本当に彼女の博識っぷりに一目を置いているのだから、鳴としてはやり辛さを感じるのも無理からぬ話だ。

 呆気なく、計略が素直さの前に屈してしまい、気まずげな鳴を見て、愛梨は笑いたくなるが、さすがに同情も働き、唇を真一文字に引き結んだ。


 「結界そのものは無属性の魔力で作れるけど、人を近付かせない効果を付け加えるとなると、闇属性も使うのか」


 「多分な。アタシは、その辺りが詳しくないから、サッパリだけどよ」


 「太猿先輩が詳しい、魔術の系統ってあるんですか?」


 「メイ、てめぇ」


 頭の左半分が吹き飛んでいるゴブリンとキスさせてやろうか、と怒りが湧き上がるも、この程度でキレてしまっては、先輩としての威厳が損なわれるぞ、と己を愛梨は宥めた。


 「結界を張ってるのは、燕の姐さんだから、会えたら聞いてみろよ」


 「一人で、この結界を展開したんですか、その先輩」


 鳴の驚いた顔で溜飲が下がったか、愛梨はドヤ顔となる。


 「結界張りの腕は、生徒会一だからな。

 日本で活動している学生の中でも、速度、強度、範囲、どれもトップクラスなんじゃないか。

 実際、祠を守ってる結界のメンテナンスも、アキから一任されてるしな」


 「凄い先輩っすね。早く会ってみてぇな」


 「おう、凄ぇ先輩だぞ。きっと、会えたら、もっと驚かされるけどな」


 誇りに感じているのだろう、愛梨は先輩の事を。彼女が褒められ、自分の事のように喜んでいる。


 「うっし、これがラスト」


 眼球が刳り抜かれているオークの頭部を、火に放り込んだ紅壱は手にべったりとこびりついた様々な液体を見て、「うへぇ」と表情を顰めた。それは、鳴も同じだったが、彼女はその手を紅壱の制服に擦り付けようとしていた。

 そんな彼らに近づいてきた夏煌。


 「キャッ」


 足音を消していた夏煌の接近に、鳴は気付いていなかったのだろう、いきなり、自らの制服を引っ張られて、変な所から短い悲鳴が出てしまった。

 

 「な、何、大神さん?」


 自分の醜態を誤魔化すように咳払いをしてから振り返った鳴に、夏煌が無表情のまま、そっと差し出してきたのは、ウェットティッシュ。


 「ありがとう。でも、今度は後ろからじゃなくて、前に回り込んでくれるかしら?」


 「・・・・・・」


 コクリと肯いた夏煌から受け取ったウェットティッシュで、鳴は汚れた手を拭う。そんな彼女を一瞥しながら、紅壱も夏煌からウェットティッシュを受け取ろうとする。

 けれども、彼女は紅壱の指から、サッと箱を遠ざける。


 「おい、ナツ、くれないのか」


 プルプルと首を横に振った夏煌は戸惑う紅壱の手を取ると、おもむろに、彼の指をウェットティッシュで丁寧に拭き始めた。

 メイドに奉仕されたい、紅壱も男なので、そんな欲求がない訳じゃないが、夏煌のような可愛いが、サイズが小さい少女に手を拭かれると、戸惑いしか覚えようがない。

 指から、夏煌は紅壱が動揺しているのを感じたが、気にせずに二枚目のウェットティッシュで彼の手を綺麗にしていく。


 「あら、いい御身分じゃない」


 「茶化すなよ」


 鳴のせせら笑いに舌打ちはしつつも、紅壱は夏煌に怪我はさせたくないので、されるがままにされる。


 (ナツのやつ、アキに負けじと頑張るなぁ)


 恋する後輩の努力を見て、愛梨は微笑ましい気持ちになる。

 夏煌が、こうも大胆な接触に出たのは、先ほどまで、紅壱が瑛と一緒にいたからだろう。小屋の中で、親密度が上がってしまったかもしれない、そう思ったら、攻め返したい気持ちは抑えられなかったらしい。


 「・・・・・・」


 約三分ほどかけて、紅壱の両手を汚れ一つない状態まで清めた夏煌は、やりきった顔だ。


 「ありがとうな」


 紅壱に心からの礼を言って貰えただけでなく、頭を撫でられる、そんなご褒美まで貰えた夏煌の、目には見えない尻尾はあまりにも速く振られ、残像が生じる。


 「ほら、さっさと戻るわよ」


 「おぅ。じゃ、ナツ、あと一踏ん張りしてくるぜ」


 また、紅壱と瑛が小屋の中で一緒に作業してしまう、そのストレスで夏煌は胃に穴が開いてしまいそうになる。けれど、ここで我儘を言ったら、紅壱に嫌われてしまう、そんな不安の方が勝ったのだろう、彼女は笑顔で紅壱を見送ろう、と決めて、口元を緩めた。

 だが、紅壱が夏煌の我慢に気付かない訳がない。


 「どうした、疲れたのか?」


 体調を心配されてしまい、夏煌は慌てて、否定する。


 「キツいなら、我慢するなよ」


 紅壱は夏煌が磨り潰していた木の実を手に取って、その硬さに眉を顰めた。

 魔晶よりは柔らかい。それでも、夏煌の力では、棒と鉢を用いても磨り潰すのは一苦労ろう。


 「よし、俺、こっちで作業するか」


 まさか、紅壱の近くで共同作業できるのか、と夏煌のテンションは、顔にハッキリと出るほど上がった。

 けれど、悲しいかな、夏煌の甘酸っぱい期待は無惨にも打ち砕かれる、よりにもよって、惚れた男のニブチンさに。

 瑛と一緒にいたい、それも本音だったが、夏煌の事も友人として、紅壱には大事だった。

 天秤にかけるのは心苦しかったが、彼が今、選択したのは、夏煌を気分転換させる事だった。当然、見当違いの取捨選択なのだが、紅壱は気付いていない。

 夏煌は急いで、自分はここの作業で良い、と告げようとする。紅壱と一緒に作業が出来ないのは残念だけど、恋のライバルである瑛と個室で作業する時間の方が、よほど、精神にヤスリをかけられるようなものだ。

 けれど、ここでまた、彼女にとって想定外の援護射撃フォローが入る。


 「アンタにしては、良いアイディアね。

 そうよ、大神さん、ずっと同じ作業をしてちゃ飽きるわ。

 コイツと交代しましょうよ」


 増した威圧感に怯んだ訳ではなかったが、鳴の「ね、いいでしょ?」の問いかけに、首を縦に振ってしまう。

 直後、紅壱はある懸念に思い至る。


 「あ、けど、クジで決めて、抗議は認めないって言われたもんな、あの時。

 さすがに、勝手に変わったら、会長に叱られちまうか」


 「大丈夫よ。抗議しちゃダメだったのは、あの時で、しかも、これは、大神さんの気分を考慮しての善意による交代。

 会長には、私からきちんと説明しておくから、ここでの作業は任せたわよ」


 有無を言わせぬ勢いで詭弁を捲し立てた鳴は、自分の意思を置き去りに決まっていく展開に狼狽している友人の背を押して、小屋へ戻っていく。


 「大丈夫よ、アイツにだって、そこそこ出来ていた作業だから、大神さんでも簡単よ」


 鳴の歩調は、「ウキウキ」、そんな効果音が目に見えるほど弾んでいた。


 (フフフフ、まさか、アイツがあんな事を言い出すなんて思ってなかったわ)


 鳴は紅壱に感謝するどころか、絶好のチャンスを無駄にした彼を心の中で思う存分に罵倒し、嘲笑していた。

 この世で最も好いている相手と、この世で特に憎々しい存在が、親密に言葉を交わしていない分、余計に仲良さげなオーラが出ている空間にいるストレスは、彼女の心の海を大いに荒らし、器から溢れるどころか、器そのものを壊そうとしていた。

 かと言って、二人きりには絶対に出来なかった。


 (もしや、と思って、小屋にすぐ戻って良かったわね、あの時)


 どうやら、鳴は虫の知らせを受け、結果的に紅壱と瑛が告白する空気を、わざとぶち壊したらしい。

 もし、虫の知らせを無視していたら、そう考えただけで、鳴は顔が青ざめ、汗だくと鳴り、呼吸は乱れ、動悸も激しくなってしまう。

 けれど、一時と言えども、右半身はガスバーナーで炙られ、左半身には氷を押しつけられるような負荷から、心が解放される、それが嬉しくて、鳴は自然と口ずさんでしまう。

 

 (正直、このチビも苦手だけど、あの男よりはマシよ。

 無口で小声だから、静かでいいわね。

 もし、私と会長の甘い時間を邪魔しなかったら、駄菓子屋で100円分くらいは奢ってあげようかしら)


 そんな独りで盛り上がっている鳴とは対照的に、夏煌の足取りは非常に重かった。小屋へ一歩近づくたびに、胃が一回捩じられるようだった。

自分の気持ちを相手へ打ち明けようとした紅壱と瑛

だが、鳴は二人が相思相愛になる事を許さなかった

半ば強引に、二人の間の良い雰囲気をブチ壊しただけでなく、鳴は外で作業をしていた夏煌と紅壱を独断で交代させてしまう

鳴がお邪魔虫として存在する限り、紅壱と瑛は付き合う事が出来ないのだろうか・・・

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