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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第八十三話 素材(material) 紅壱ら、魔属の屍から素材を採っていく

両片思い状態の紅壱と瑛の痴話げんかは、恵夢の巨乳の力によって止められた

多少のじゃれ合いはあったにしろ、瑛は落ち着き、作業を分担するべく、クジを提案する

その結果、瑛・紅壱・鳴の班、恵夢・愛梨・夏煌の班に分かれる事に

瑛が用意したクジは、ごく普通のもので、誰もイカサマはしていなかったが、随分と面白い組み分けになった物である

 「オークは耳と牙だ。これは両方取れるに越した事はないが、どちらか、損傷が少ない方で良い」


 耳は鋏で簡単に切れる、牙は内側に傾けて抜いてくれ、と実践する瑛。


 「コボルドも耳だ。ちなみに、姿形が似通っている、ワードックは耳ではなく、尻尾からエネルギーを多く得られるそうだ」


 「へえ、ややこしいですね」


 「うむ、毎年、間違える新入生が多い。

 もっとも、エリは未だに、コボルド、ワードッグ、ワーウルフの区別がついていないな。しかし、何故か、犬神と犬頭は見分けられているんだ。おかしいだろ」


 安易に、「そうっすね」と肯定すると、エリに拳骨を怒られそうなので、紅壱はその言葉の代わりに、「犬神は分かるんですけど、犬頭は初耳です」と素直に告げた。


 「すまない、つい、いつもの調子で話を進めてしまっていた。

 君が術師として、初心者以前なのは承知しているんだが、何故か、熟練の雰囲気を感じるからか、無意識にレベルを下げないで話してしまう」


 (・・・・・・あながち、間違っちゃいないってとこが、おっかねぇな)


 「けど、今、その違いを説明してもらうと、作業が滞っちゃうんで、後日、レクチャーしてもらえますか?」


 「もちろん、いいとも」


 しれっと、紅壱が瑛と二人きりになる約束を取り付けたものだから、鳴の中に芽生えかけていた彼への好感は刹那で枯れる。その代わり、憎しみと妬みを肥料にし、殺意の花が即満開となった。

 レベルの差こそあれど殺気を浴び慣れている紅壱ですら、鳴が放ってきた殺意の波動に大殿筋がキュッと引き締まってしまう。一般人が受けたら、心臓発作を起こしても不思議じゃない事を考えると、小さすぎるリアクションのようにも思えるが、紅壱に尻へ力を入れさせた、と修一が知ったら驚いたに違いない。

 コイツごときに緊張しちまうとは不覚、と己の精神鍛錬の甘さを恥じつつも、紅壱は瑛にはそれを気取らせず、質問を重ねた。


 「スケルトンは、どの骨ですか? 頭蓋骨あたりですかね?」


 「そこからも魔力は抽出できるんだが、仙骨の方が魔力の質は良い」


 なるほど、と納得する紅壱。


 外国で「聖なる骨《sacred bone》」とも言われている仙骨は、古来より生命維持に必要な骨の一つとして認識されている。この仙骨の位置がズレると、人の体のバランスは簡単に崩れ、体調も悪化する。

 その仙骨を自身の意志でコントロールする事が出来るからこそ、紅壱や彼の祖父を筆頭とする達人らは、闘気を練り、闘氣を纏う事が叶う。


 (魔力を制御するコツも、やはり、仙骨にありそうだな)


 ぼんやりとだが、自分のすべき事が見えてきた紅壱の目にやる気が灯ったのを見て、瑛は嬉しそうに微笑んだ。


 「よし、始めようか」


 「まず、何をしたらいいですか、俺は?」


 「私にも、仕事をください」


 魔晶作りは、これが初めてである鳴は、自分がこんな雑用、雑魚魔属からの素材剥ぎをせねばならないのか、と不満を抱いていたようだったが、紅壱の評価が瑛の中に上がってしまうのは、もっと嫌なようで、俄然、やる気と敵対心を露わにしてきた。

 鳴の必死さが伝わってくる肉迫に、瑛もたじろぐ。


 「では、豹堂には、スケルトンを任せよう」


 「仙骨を選別すればいいんですね」


 「いや、そちらは既に済んでいる。ここに残っている、スケルトンの仙骨は、亀裂が入ってしまい、魔晶を作るのに十分なエネルギーは搾り取れない、と判断された物だ」


 瑛の言葉に、紅壱がそこを見れば、確かにスケルトンらの仙骨は強烈な衝撃を受けたか、ダメージが刻まれていた。自分が倒したスケルトンは、パートナーらが食べてしまったはずなので、他のメンバーと戦った個体だろう。

 上級生らは、魔晶を作る事は分かっていたはずだが、やはり、仙骨だけを破損せずに戦うのは厳しかったようだ。


 「え、じゃあ、私は何をしたら?」

 

 戸惑う鳴へ、瑛が笑顔で手渡したのは、スケルトンの上腕骨と無地の布。


 「骨磨きをやってくれると助かる」


 「残りの骨も、何かに使うんですか」


 「腕や足の骨は、最も簡単な結界を張る際の補強に使う媒体に加工できる。

 他の部位は、灰の材料に出来るんだ」


 「ってコトは、魔晶作りの素材を取った残りは、灰の材料ですか」


 「そうだ。鯱淵副会長、エリ、大神には、外でその作業をして貰っている」


 どうやら、上級生らは一年生たちが作業のコツを掴めそうな個体だけを残し、後は自分たちで前日に処理し、浄灰の材料を確保していたようだ。

 それを恩に着せない先輩らへの尊敬を改めて強めた紅壱は、机の上に置かれていたペインチを持ち上げる。


 「じゃ、俺、ゴブリンの角と、コボルドの牙抜きやりますね」


 「頼む。コツが分かっていれば簡単だが、やはり、力がいる作業でな」


 「あ、それなら、エリ先輩の方が向いてましたかね」


 「いや、エリはエリで力任せに引き抜いて、素材を駄目にしてしまうからな、あまり向いていない」


 苦笑する瑛に、紅壱もつられてしまう。それを見て、不機嫌になった鳴が頬を膨れさせる。段々と、恒例化してきているようだ。


 「さて、学園内に残っていられるのは、午後六時半まで。

 全てはやりきれないが、時間内に少しでも片付けよう」


 オークの耳を切る鋏をチョキチョキと鳴らす瑛の檄に、紅壱と鳴は腹から出した声で返事をする。その後、鳴はギロッと紅壱を睨む。

 漫画やアニメであるのなら、紅壱もにらみ返し、空中で火花が散るのだろうけれど、残念ながら、彼は既に自分の仕事に手中し始めていたので、鳴の眼光に気付かず、さっさと椅子へ腰を下ろしてしまっていた。

 逸らされたなら気分は良いし、侮蔑の目で見返されたなら、いっそう、やる気も出るけれど、完全に無視されてしまうと、怒りのやり所を失い、地団駄を踏みたくなってしまう鳴。

 いっそ、無防備な背中を蹴り飛ばしてやろうか、と思った彼女だが、衝動的に蹴りを繰り出す寸前に、本能がブレーキをかけた。もし、鳴が紅壱の背中を全力で蹴っていたら、その時、ダメージを負ったのは、紅壱の背中ではなく、鳴の足の方だ。

 紅壱は背部も桁違いに鍛えているし、普段から最低限の闘気で覆っているので、並みの格闘家よりも防御力が高い。何より、彼は闘気と筋肉をコントロールし、打撃のダメージを相手へ倍で跳ね返す技、「杜父魚かくぶつ」が使える。例え、蹴られるのが背中であったとしても、鳴のように敵意を剥き出しにしていたら、その程度の備えは出来てしまう。


 (・・・・・・会長がいた事に感謝するのね)


 気後れした自分に言い訳をし、悔しさを噛み殺した鳴が自分から敵意の切っ先を外したのを感じ、紅壱は彼女の勘の鋭さと、引き際の良さに一握りの感心を抱く。

 意外に冷静だったな、と見直すと、彼は思考を切り替える、ゴブリンの角抜きに。


 「もう一度、手本を見せようか?」


 瑛としては、もう一回くらい、紅壱に良い所を見せて、賞賛されたかったのだが、紅壱の方は、彼女の手をあまり煩わせるのは気が引けたので、「いや、大丈夫っす」と気軽な調子で断ってしまう。

 彼へ自分の手際の良さをアピールできるチャンスを逃してしまい、がっかりする瑛。だけれども、後輩、しかも、好いた男に、そんな辛気臭い面は見せたくないので、ぐっと堪える。


 「あ、でも、分からない事があったら聞くんで、教えて貰えますか?」


 「!! 勿論だとも。豹堂、君も遠慮せずに質問してくれ」


 「はいッ」


 本当は、紅壱の隣に座って、オークの耳を切り取りたかったのだが、もし、そうしたら、真っ赤で熱くなった自分の耳を紅壱に見られたくなくて切ってしまいそうだったので、瑛は彼から少し離れた場所で、作業を始める事にした。

 瑛が近くに来てくれたら、と密かに期待していた紅壱は彼女が遠ざかってしまったので、やや落胆した。けれど、落ちこんでいては、手元に乱れが生じる。

 

 「———————っし」


 気持ちを独特な息遣いで落ち着かせると、紅壱は額に貫通疵があるゴブリンの頭を持ち上げた。恐らく、首から下は今ごろ、灰になっているのだろう。


 (脳天一発ズドン、か。けど、銃弾じゃないな、この傷は。

 矢、魔力の矢・・・・・ん、傷の周りに何か残ってるな。

 灰か。ってコトは、灰を矢の形に固めて飛ばしたんだな)


 このゴブリンが、どのように倒されたのか、その予想から魔術の型を学び取りつつ、紅壱は角をペンチで抓み、躊躇うことなく、捩じり抜いた。

 長いな、意外に、と角のサイズに軽い驚きを覚えた紅壱は、それを手に乗せてみる。魔晶を作るためのエネルギーを抽出する、それを聞いたからだろうか、角は実際よりも重く感じた。

 もう少し、余韻に浸っていたかったが、瑛が居残りの手続きをしてくれた事を考えると、あまり、のろのろとはやっていられない。

 一回で角を上手く抜けた自画自賛は後回しにし、紅壱は続いて、コボルドの頭を取る。


 (これは溺死してるぞ・・・あの状況で、大量の水へ頭を無理矢理に押しつけたとは思えないし、水の球をヘルメットみたいに被せたのかもな)


 水は応用が効いて、戦いを有利に運べるだろう。このように、相手を地上で溺れさせることも出来るだろうし、弾のように固めて連射したり、砂を混ぜて放出する事で切る事も出来そうだ。

 いざと言う時に消火が出来るのも強みとなるだろうが、何より、飲料水を確保できるのは大きいだろう、サバイバル時。

 魔力の使い方も、まだ、ロクに習得していないのに、水属性だったらいいな、と考えても皮算用だな、と自省した紅壱だが、その片隅では、瑛と同じ火属性だったら、色々とレクチャーして貰えて、告白するチャンスも増えるのでは、と夢想していた。

 それでも、手元は崩れず、紅壱はコボルドの犬歯を丁寧に抜く。

 途中で折れず、亀裂も入っていない犬歯を盗み見て、瑛は「さすが」と心中で讃える一方で、「ここは、こうした方が良いぞ」と、手取り足取り、コツを教える機会に恵まれない事に落ちこむ。

 鳴からは、常に冷静沈着で、つまらないミスなどしない、と信じられている瑛。

 実際に、その通りだが、これまでの彼女は誰にも恋していなかった。だから、初めて抱いた恋心は、彼女も気付かない些細な乱れを心の波形に起こすらしく、オークの耳を1mmほど短く切ってしまった。

 「むっ」と自身のミスに、表情を顰めた瑛。

 いきなり、彼女がパシンッと自分の両頬を打った音に、紅壱と鳴は驚かされるも、瑛が真面目な面持ちでオークの左耳を慎重に切っているのを見て、何も言えなくなってしまう。


 しばらくの間、小屋の中では、角と犬歯が抜かれる「ズポゥッ」と、耳が切り取られる「ジョギンッ」、骨が磨かれる「ゴシッゴシッ」、その音だけが響き、溶け合っていた。

自分よりも、瑛に褒められる紅壱に殺意を抱く鳴

彼女からの憎しみなど、全く気にしない紅壱は、彼女にガッカリさせないよう、真摯な表情で、魔属の屍から採取する素材と、その上手い取り方に耳を傾ける

元より手先が器用であり、瑛に褒められたい、そんな欲を持つ紅壱は、すんなりと正しいやり方を覚えてしまい、彼に付きっきりで教えたかった瑛は、つい、ガッカリしてしまうのだった

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